カテーテル業務について ―頻出の略語と概略―

目次

はじめに

※本記事は完全な初学者、学生向け記事です。

CEを目指されている学生さん、これからカテーテル業務を検討をしようと考えているCE、またカテーテル業務に関わる看護師さんなどへ問いますが、そもそもカテーテル治療とは一体どんなことをする治療で、どんな患者さんを対象とした治療なのでしょうか。イメージされたことはおありでしょうか。

筆者は小学生の頃にテレビ番組で「世界のスーパードクター」にて、脳神経外科でとても著名な福島先生のカテーテル治療を視聴したのがきっかけで知りました。
読者の皆さんの中にはCE養成学校での臨床実習で初めて見た、看護師さんは言葉だけ知っている・・・といった方がほとんどではないでしょうか。

もそも私達CEの養成校での授業では、カテーテルに関する内容はA4用紙1枚にも満たない内容しかやっていないといっても過言ではありません
国試でも、1問あるかないかの内容となっています。やはり、そのような教育環境で国家資格を取得しては、カテーテル業務など循環器領域に携わることに抵抗感を生じたり、苦手意識を持つようになってしまうのも仕方ありません。

【補足事項】今回はこのような導入文となりましたが、近年行われている臨床工学技士のタスクシェアにおいて、「心・血管カテーテル治療において、生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるために、当該負荷装置を操作する行為」を認めるといった法改正が行われたことにより、養成校の課程も大きく見直されました。

具体的には「臨床支援技術学」という新設科目の履修が必須となったこと、既存の「医療安全管理学」に今回のタスクシフトで新たに増えた業務範囲に関する内容が追加され、業務の現場で実施できる実践的知識・技術を身につけることが目標に掲げられています。

これからのCE養成校では座学でも、そして臨床実習でも厚生労働省のこれらの指針に沿って教育が行われることにより、カテーテル領域に関するCEの介入は今後ますます増えるのではないでしょうか。

CEじゃーなる編集部 拝

Moegi執筆の循環器シリーズによって、循環器領域への苦手意識を克服していただき、逆に寧ろ循環器領域の勉強や業務が楽しくなっていただくようにすることを目的に執筆したいと考えています。
ちなみに筆者Moegiは1年目の半年経ってからカテーテル業務を担当しましたが、どっぷりハマってしまいましたね。

さて、余談が長くなってしまいましたが本題へ移りたいと思います。

カテーテル治療とは

「カテーテル治療」と言えば「心臓」に対する治療、特に冠動脈に対する治療であるとイメージされる方が大半かと思います。
実際その通りで、件数だけ比較すると心臓に対する治療がほとんどを占めます。

しかし、カテーテル治療と言って実際には心臓以外も対象とする治療がありますし、心臓を対象としたカテーテル治療でも多種多様な治療方法があります。

心臓カテーテル

まずは心臓関連のカテーテル治療をいくつか示します。この循環器シリーズを通して全て略語ごと覚えていただけることかと思います。今回は紹介のみです。

  • 冠動脈造影:CAG(coronary angiography)
  • その他造影検査(LVG、RVG、AoG、etc・・・略語は割愛します)
  • 右心カテーテル検査:RHC(right heart catheterization)
  • 経皮的冠動脈インターベーション:PCI(percutaneous coronary intervention)
  • バルーン大動脈弁形成術:BAV(balloon aortic valvuloplasty)
    →【通称:バブ】
  • 経カテーテル的大動脈弁置換術:TAVI(transcatheter aortic valve implantation)
    →【通称:タビ】
  • 経皮的僧帽弁接合不全修復術:MitraClip

心臓以外のカテーテル治療

心臓以外では以下のようなカテーテル治療があります。
脳血管の領域に携わるCEはごく少数かと思います。

  • 脳血管カテーテル
  • 末梢血管形成術:EVT(endovascular treatment)
  • 経皮的腎動脈形成術:PTRA(percutaneous transluminal renal angioplasty)
  • バルーン肺動脈形成術:BPA(balloon pulmonary angioplasty)
  • 腹部大動脈ステントグラフト内挿術:EVAR(endovascular aortic repair)
    →【通称:イーバー】
  • 胸部大動脈ステントグラフト内挿術:TEVAR(thoracic endovascular aortic repair)
    →【通称:ティーバー】
    etc…

上記に示すようにほとんどが心臓に対する検査/治療ですが、多種多様に存在することがわかります。

では、①どのような疾患の患者に対して行う治療なのか、②どのような治療を行うのかを上記の検査/治療方法ごとに簡単に説明します。そして最後に③カテーテル業務にいてのCEの役割を述べたいと思います。

今回の記事では初学者の方にイメージを付けてもらうため、対象疾患とどんなことをするのかをざっくり説明するのみとさせていただきます。

心臓血管領域で用いるカテーテル

心臓の検査目的で使用されるカテーテル

冠動脈造影:CAG(coronary angiography)

CAGは冠動脈に造影剤を投与することで狭窄があるかどうかを調べるための検査です。

日頃から一時的に胸の違和感や胸痛が現れている患者や何か外科的の手術前にリスクを精査する際にも行うこともあります。

持続する胸痛や心電図変化があれば急性心筋梗塞を疑い緊急で行い、冠動脈が閉塞しかけていれば後述するPCIへ移行して治療します。

初学者の方、これからカテーテル業務を担当される方は、まずは冠動脈の番号を覚えましょう。

右心カテーテル検査:RHC(right heart catheterization)

「右心カテ」と呼ばれるこの検査はサーモダイリューションカテーテル(通称:スワンガンツカテーテル)を用いて、右心室、右心房、肺動脈などの圧力を測定する検査となります。

この右心カテの内容はCE国家試験や実臨床の現場でも非常に重要なものとなりますので覚えていただきたいです。

心臓の治療目的で使用されるカテーテル

経皮的冠動脈インターベーション:PCI(percutaneous coronary intervention)

PCIはCAGの結果、冠動脈に狭窄が発見されたら狭窄を拡張するための治療となります。

狭窄部へはバルーン(風船)にてある程度狭窄を拡げた後に、ステントと呼ばれる網目状の金属の管を狭窄部へ留置します。

CEのカテーテル業務といえば、このPCIでのIVUS(血管内超音波)やOCT(光干渉断層法)といったモダリティの操作がメインとなります。

経カテーテル的大動脈弁置換術:TAVI(transcatheter aortic valve implantation)【通称:タビ】

TAVIは大動脈弁狭窄症という大動脈弁が加齢とともに石灰化で石のように硬くなり、大動脈弁が開きにくくなる疾患に対して行う最新技術の手術です。

詳細は省きますが、本来この大動脈弁狭窄症は外科手術で胸を開き(開胸)、心臓を止めて行う手術が必要となりますが、技術の進歩で心臓を動かしたままカテーテルを用いて大動脈弁を新しい生体弁に置換する手術となります

心臓を止める手術はとても負担が大きいため、TAVIは特に高齢者にとって、とてもメリットの大きい手術となります。

「TAVI」についてもっと知りたい方はこちら

経皮的僧帽弁接合不全修復術:MitraClip

MitraClip(マイトラクリップ)はTAVI同様最新のカテーテル治療となります。

マイトラクリップは僧帽弁閉鎖不全症という僧帽弁が開いたままになる疾患に対して行う手術で、開いたままの弁にカテーテルでクリップをして僧帽弁を閉じる手術です。

こちらも本来は開胸して心臓を止めて手術をしますTAVI同様MitraClipは高齢者へとてもメリットの大きい手術となります。

「MitraClip(マイトラクリップ)」についてもっと知りたい方はこちら

その他の領域で用いるカテーテル

脳血管カテーテル

脳の血管が詰まる脳梗塞や脳の動脈が異常に拡大してコブのようになる脳動脈瘤に対して行います。

脳梗塞では原因となるの血栓をカテーテルにて吸引して血流を改善させます。
脳動脈瘤に対しては針金のようなカテーテルで脳動脈瘤のコブの部分を詰めて、脳動脈瘤が破裂しないようにします。

末梢血管形成術:EVT(endovascular treatment)

EVTは掌、腕、太腿や足の血管に対して行うカテーテル治療です。

動脈硬化や脂質異常症にて血管内にプラークが溜まり詰まってきますので、その狭窄部をバルーンやステントにて血流を改善させます。

PCI同様にIVUSの操作を業務とします。

VAIVT:Vascular Access Intervention Therapy

EVTの一種ですが、「血液透析用バスキュラーアクセスのインターベンションによる修復」と日本語では表記されます。
以前はシャントPTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty)と呼ばれるケースが多かったですが、近年はこちらのVAIVTという呼び方に移行しつつある様です。

透析患者が避けては通れないシャント狭窄に対する治療として、我々CEにとってもある意味一番馴染みが深いものではないでしょうか。

経皮的腎動脈形成術:PTRA(percutaneous transluminal renal angioplasty)

こちらもEVTとは対象の血管が異なるだけですが、狭窄した腎動脈にバルーンやステントを用いて血流を改善させます。

やはりPCI同様にIVUSの操作を業務とします。

バルーン肺動脈形成術:BPA(balloon pulmonary angioplasty)

狭窄や血栓閉塞した肺動脈にバルーンやステントにて血流を改善させます。

腹部大動脈ステントグラフト内挿術:EVAR(endovascular aortic repair)

EVARは腹部大動脈が異常に拡大して瘤となり、今にでも破裂しそうな大動脈へ対して行うカテーテル治療です。ステントグラフトと呼ばれる人工血管を腹部大動脈瘤のコブ内に挿入し、瘤が破裂しないようにする治療です。

カテーテル治療における臨床工学技士の役割

具体的に言いますと、

  • 患者のバイタルの把握(心電図を貼るなど)
  • 使用する物品の準備
  • IVUSやOCTなどのモダリティの操作
  • 補助循環装置の導入及び管理

などが挙げられます。

「循環管理の指標について」でも述べましたが、カテーテル治療の発展に伴い、医師だけでは治療を行うことが困難になりつつあり、チーム医療として私達コメディカルのサポートが欠かせなくなってきています。(治療を行うのは医師ですが、入院、退院、食事、リバビリ、治療サポートなど挙げるときりが無いですが、全ての工程を含め治療としています。

重複しますが、循環器領域、特にカテーテル業務でのCEの役割は、術者の手技が円滑に進められるように患者のバイタル観察、カテーテル物品の準備、補助循環装置の導入及び管理をすることです。

CE業務の中で特にカテーテル業務は医師やコメディカルとのコミュニケーションが大事になる業務と言え、時には医師へ助言をしたり、補助循環導入時は主導権を握ったりと見せ所は沢山あります。

以上でカテーテル治療のイメージをしていただく内容の記事でした。

この記事でカテーテルや循環器業務に興味を持たれた方は、当ブログの他の記事も参考にしてみてください。

この記事を読んだ方向け オススメの参考書

PCIで使い倒す IVUS徹底活用術
大阪府済生会中津病院編PCIで使い倒すOCT/OFDI徹底活用術

Moegi

私がIVUSの勉強で実際に使用した本です。
IVUSにまだ慣れていない方にお勧めします。

私がIVUSの勉強で使用したものです。 所見の解析方法などIVUSを使いこなすための事が記載されています。 IVUSにまだ慣れていない方にお勧めします。
Moegi愛用「IVUS編」のOCT&OFDI verです。 あの大阪府済生会中津病院監修ですね。 OCT/OFDIガイドの知識とテクニックが凝縮されています。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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