POBA/BMS/DESについて— ステントを留置する意義 —

前回の記事ではDESが登場するまでの心臓カテーテルの歴史について説明しました。

本記事では、表題の通りPOBA、BMS、DESそれぞれの特徴や違いを説明します。

つまりは「何のためにステントを留置するか」というところをフォーカスにします。

目次

経皮的バルーン血管形成術(POBA:Plain Old Balloon Angioplasty)

POBAとは?

まずは、POBA【通称:ポバ】から説明します。

POBAとは

バルーンを狭窄病変部にて拡張させることで、狭窄部を拡張させて血流を得る手技です。

POBAの原理
  • プラークの圧縮
  • 血管内膜-中膜への鈍的裂開
POBAの原理:AMDD「日本における冠動脈ステントの開発の歴史」

POBAの問題点

当時はカテーテルで冠動脈が治療できること自体が革命的できたが、やはり、適応拡大が増えたり、症例数が積み重ねてきたりすることで様々な問題点が明らかになってきました。

Moegi

ちなみに、CABGが登場したのは1969年です。

急性冠閉塞(Acute Occlusion)

POBAのみのPTCA時代で一番問題であったのが急性冠閉塞です。

急性冠閉塞の定義

冠動脈治療中または治療後24時間以内に冠動脈が閉塞すること

POBAにおいて一番良いのは、プラークのみをバルーンにて圧縮することですが、現実的には不可能です。

血管内膜-中膜に裂開を入れる(プラークにcrackを入れる)ことで血管を拡張させるのですが、今でこそIVUSガイドでバルーン径を決定できますが、当初は目視でバルーンを選択し、血管を損傷させないように加減してPOBAする必要がありました。

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しかし、ある程度の頻度では単なるcrackを入れるだけに留まらず、coronaryに解離などの合併症を生じ、血栓形成から閉塞をきたしていたのです。

狭窄部を拡張しにいった結果、心筋梗塞が引き起こされていたのです。
頻度としては5%程度と言われていましたので、今思うと結構な頻度だったのですね。

現在の急性冠閉塞発生頻度は1%程度と言われています。

Moegi

現在はscoring balloon(スコアリングバルーン)やcutting ballonn(カッティングバルーン)といったcrackを入れやすく、解離を生じにくいバルーンなどが開発されています。

急性冠閉塞の原因
  • 血栓
  • 解離
  • 冠攣縮(spasm:スパズム)
  • 弾性収縮

なお、急性冠閉塞の出現時間は以下の通りです。

一番多いのはPCI中でno flowやslow flowで発見されますね。
その場で速やかに閉塞を解除されます。

急性冠閉塞の出現時間
  • PCI中   … 50%
  • カテ室内 … 30%
  • 治療終了1時間以内 … 10%
  • 治療終了6時間以上 …  7%
  • 治療終了1~6時間 …  3%

慢性期再狭窄(Restenosis)

続いて、POBAのみでの問題点として、再狭窄率が高いことが挙げられます。
英語で”Restenosis”ですので再狭窄を「リステ」と言うことが良くあります。

具体的な再狭窄率としては、POBA後3-6ヶ月後で40%程度という非常に成績が悪いです。

POBA再狭窄発生頻度

25-40%(POBA後6ヶ月以内)

再狭窄の原因といいますか機序というのは、いくつか存在します。

POBAによってcoronary病変部の裂開部分を治癒しようとする生体反応・・・「新生内膜の増殖(neointima formation)」により内腔が狭窄してくる場合

血管外にコラーゲン増加や外膜肥厚などといったcoronaryの慢性期収縮「negative remodeling shrinkage」により内腔が狭窄してくる場合(ネガティブリモデリング)、

治療後まもなく生じる「中膜弾性繊維リコイル(elastic recoil)」

再狭窄出現時期

POBA後6ヶ月以内で90%程度発生し、6ヶ月以降では再狭窄は来しにくい

拡張不良/不足

POBA時代はIVUSなど無く、適切なバルーンサイズ選択が困難だったために、拡張不足がそれなりにあったようです。

現在では日本におけるPCIでは、IVUSやOCTなどのimaging modalityを使用するのが当たり前の時代ですので、バルーンサイズが小さくて拡張不良になることはほとんどないかと思います。

Moegi

一部例外を挙げるとするならば、LAD distalやDiagonal(#9:ダイアゴ)ステントを留置しない場合は、拡張が不充分な場合でも終えることもあります。

高度石灰化病変(POBA不適合病変)

coronaryが動脈硬化によって石灰化が進んで厚くなることで、バルーンでは硬すぎて物理的に拡張できないような病変ではお手上げでした

また、coronaryが閉塞している病変である「慢性完全閉塞(CTO:Chronic Total Occlusion)」でもPOBAのみでは十分な拡張は得られません。

BMS(Bare Metal Stent)

さて、POBAの問題点をおさらいしたところで、BMS(ベアメタルステント)の登場です。

BMSは金属が剥き出しになっているステントのことです。・・・つまりは、筒状に編み込んだ針金をcoronaryへ留置する感じです。

POBAの問題だった急性冠閉塞と再狭窄率を解決するために、Palmaz-Schatz stentを始めとしたBMSが登場したわけですが、POBAによるcrackや解離腔、flapをステントによって押さえ込むことができるようになったために、急性冠閉塞の発生を激減させることに成功しました

さらに再狭窄の原因のうち、negative remodeling shrinkageとelastic recoilについての発生率も低減することができました

BMSの問題点

しかし、BMSにも問題点が生じました。

亜急性ステント血栓症(SATSubAcute Thrombosis)

BMSが登場した当時は、ステント留置後24時間以降で30日以内にSATが発生する事象があり、それも10%程度の発生率がありました。

SATの原因として、stent strut(ステントストラット)によって乱流が引き起こされることが原因で血栓が形成されるのです。

SAT:関西ろうさい病院「狭心症、心筋梗塞とは」https://www.kansaih.johas.go.jp/junkankinaika/treatment/ap

そこでSATの対策として導入されるのがDAPT抗血小板薬2剤併用療法:Dual Anti-Platelet Therapy)で通称「ダプト」、IVUS(血管内超音波:IntraVascular UltraSound)です。
そして同時に開発が急がれるのが薬剤溶出性ステントDES:Drug Eluting Stent)となるのです。

SATを起こさないための根本的なところとして、ステントの金属が剥き出しになっていなければ良いのです。

つまり、ステントに内皮が覆われるのを待てば良いのですが、BMSの内皮化は1ヶ月(2-3ヶ月で完全に内皮化するとも)と言われています。

内皮化さえしてくれれば血栓症リスクが下がるので、DAPTからSAPT抗血小板薬単剤療法:Single Anti-Platelet Therapy, 【通称:サプト、シングル】)にすることができます。

しかし残念ながらステントを留置している限りは抗血小板薬は内服を続けなければなりません

DAPT、SAPTについては別記事で説明したいと思います。

結論、DAPTやIVUSが導入されてSATの発生率が10%から1%程度に改善したというわけですね。

SAT(現在)

発生時期 … ステント留置後2-3週間以内

発生頻度 … 1%未満

ステント内再狭窄

POBA時代の再狭窄率は6ヶ月以内で40%でしたが、BMSの登場で下がったのかと思いきや、実は20-30%はステント内再狭窄(ISR:In-Stent Restenosis, 【通称:インステント、リステ】)と下がったといえども、決して良い成績とは言い難い数字ですね。

BMSのISR率

20-30%(POBA後6ヶ月以内)

ISRの機序としまして、ステント内の新生内膜が異常増殖(Neointimal hyperplasia)することによって狭窄が引き起こされます。

また、ステントの種類や病変部の形態により大きく左右され、ISRを来した患者さんは何度もISRを繰り返す傾向にあります。

また、BMSの遠隔期損失径が0.7-1.0mmの範囲内に留まることも判明したため、ステントは出来るだけ大きい径のものを選択するのが良いという「Bigger is the better.」の考えが生まれました。

ISR新生内膜:Abbott社(旧St.Jude Medical社提供資料)

BMSの使い道は?

さて、昨今のPCIではDESが主流であり、BMSの使用は日本全国で年間数千件ということですが、何故BMSが廃止されないのでしょうか。

本来ならば、この内容だけで1記事執筆する内容ですので、Moegiの完全なる私見を述べたいと思います
※正しいとは限りません。個人の意見です。

それは、PCIを受ける患者が外科手術を控えているかどうかがポイントかと思います

外科手術前には、心機能が全身麻酔に耐えうるかを検査するために、外科術前検査としてCAG(adhoc PCI)を外科から依頼されます。

もし、coronaryに有意狭窄が見つかり外科手術前にPCIするとなった場合、問題になってくるのがDAPTです

抗血小板薬を内服している状態での外科手術は大手術になればなるほど出血のリスクとなり得ます。

後ほどDESのDAPTの話をしますが、DAPT期間は血栓リスクの程度にもよるのですが、細かい話を省略しますと3ヶ月~12ヶ月となります。

本当の緊急時の場合を除き、ある程度緊急性の高い外科手術を控えている場合でも数ヶ月、最悪1年間は待機する必要性があるかもしれません。

そうなるとDAPT期間が1ヶ月で済むBMSを留置することが望ましいと思いませんか?

BMSの需要は外科手術を控えている患者にこそ使用が適しているのではと思っています。

もし、心筋梗塞で緊急カテをしなければならない患者が、実は近日中に癌の手術を控えていた場合、DESではく、BMSを選択することが良いこともあるかもしれません。

と、ここまで完全にMoegiの私見です。

・・・とここまで言ったにもかかわらず、実はDESに良い製品が存在します。

Cordis社の「BIOFREEDOM」というDESがあるのですが、このステントはポリマーフリーのDESのため正確には薬剤コーテッドステント(DCS:Drug Coated stent)です。

1ヶ月でBMSに変化するためDAPT期間が1ヶ月で済みます

詳細はステント毎の記事を作成しますので、そちらをお待ちください。

DES(Drug Eluting Stent)

BMSのSATはある程度DAPTでコントロールできていましたが、再狭窄の問題が残りました。

そこで、ISRを予防する有効な手段としてDESが登場します。

薬剤溶出性ステント」という名称ですが、薬剤は新生内膜の増殖を抑える薬剤を使用し、その薬剤を時間を掛けて溶出させる媒体がポリマーです

DESは細胞増殖を抑制する薬剤をステント表面にコーティングしており、coronaryの留置部位にてポリマーを介して薬剤を溶出させて、ISRの原因となる新生内膜の増殖を抑えることでISRを予防しているのですつまりは抗ガン剤です。

Xienceのフルオロポリマーと抗血栓性:「XIENCEステントのフルオロポリマー」
https://www.cardiovascular.abbott/jp/ja/hcp/products/coronary/xience-family/about/fluoropolymer-stent.html

DESの問題点

ここまでで、POBAの弱点をBMSがカバーし、BMSの弱点をDESでカバーしてきて、これでcoronaryの治療はDESで完結する!!・・・と思いきや、DESにも問題があることがわかりました。

遅発性ステント血栓症(LST:Late stent thrombosis)

それは・・・やっぱりステント血栓症ですね。

血栓症は生体にとっての異物に対する反応として永遠の課題ですね。

DESによって問題となる血栓症は、SATのような急性期の血栓症ではなく、遅発性の血栓症が問題となっていました。

遅発性ステント血栓症(LST:Late stent thrombosis)

ステントを留置して31日以降1年以内に発症したステント血栓症

超遅発性ステント血栓症(VLST:Very late stent thrombosis)

ステントを留置して1年以上経過して発症したステント血栓症

日本でDESを使用始めた2004年頃にDESを留置してからDAPTやSAPTを実施しつつ、1年以上経過したにもかかわらず、ステント血栓症を発症する報告が挙がるようになってきました。

DESの薬剤により新生内膜の増生を抑えることにより、ステント内膜の被覆がBMSよりも遅れてきます。そして、ステント金属やポリマー、薬剤そのものと血管壁が反応することを原因として血栓症を引き起こすのです。

DESの本来の目的である再狭窄率低下は達成されるのですが、逆に遅発性のステント血栓性のリスクを負う期間が延びたとも言えます。

ステント血栓症のリスク因子は?

ステント血栓症のリスク因子として主に挙げられるのは以下のような要因です。

  • 手技的要因
    • ステント拡張不足
    • 過剰なステント長
    • 複数ステント
    • 解離の残存
  • 病変的要因
    • ACS症例
    • bifurcation病変
    • diffuse病変
  • 患者的要因
    • 糖尿病
    • 心機能障害
    • 腎機能障害
    • 透析患者
  • デバイス的要因
    • ポリマーによる炎症
    • DESの薬剤不均一分布
  • 血小板凝集的要因
    • 抗血小板薬使用困難
    • 抗血小板薬抵抗性
    • 抗血小板薬使用中止
    • 血小板活性化

DAPT期間延長

というわけで、LSTやVLSTを考慮して、2007年に欧米のCirculationにて、DES留置後のDAPT期間は最低でも12ヶ月が重要であるとScience Advisoryによりガイドラインが出されました。

BMSのDAPT期間は最低1ヶ月だったことを考慮すると、DES留置時におけるDAPT期間が最低12ヶ月というのは、出血リスク、死亡率上昇などが伴ってきます。

現在はステントの性能が昔とは格段に性能が向上しており、PCIを受ける患者の血栓リスクによりますが、1-3ヶ月のDAPT期間で済むケースがあるなど、DAPT推奨期間が短縮されてきています。
2020年に抗血栓療法のガイドラインがアプデされています。

【日本人のステント血栓症】

DES登場時のDES使用成績調査として、「j-Cypher Registry」があります。

このregistryにおいて、DES留置後3年以内の遅発性ステント血栓症は年率0.3%という結果でした。

つまり、欧米人より日本人の方がステント血栓症は発症率が低いことが示唆されたのです。

また、抗血小板療法とステント血栓症との関連性について、ステント血栓症のリスクが増大するのはアスピリンとチエノピリジンのDAPTを中止をした場合のみであり、実は6ヵ月を超えてのチエノピリジン併用については明確な有効性が無かったそうです。

急性期のステント血栓症はACS(急性冠症候群:Acute Coronary Syndrome)が有意なリスク因子となっています。

また、LSTのリスク因子として、透析、腎機能障害、bifurcationに対する2-stent留置となっています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/41/3/41_41_268/_pdf/-char/ja

改良されていくDES

DES登場時はLSTやVLSTが1番の問題となり、改良が当然行われていきます。

ステントにも世代が存在します。

最初のDESであるCypherから始まり、TAXUSやEndeveavorなどが第一世代と呼ばれます。

そして第二、第三世代と改良されていくのですが、ポリマーのコーティングを改良したり、ポリマーの材質そのものを改良して生体適合性を高めたり、薬剤の量を最適化していきました

世代別ステントの詳細は別記事にしたいと思います。

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さいごに

以上で、coronaryに対する治療(POBA/BMS/DES)についての説明でした。

カテ業務に従事するのであれば、バルーンやステントに関する知識は多いに越したことはないのです。

特にステントに関する情報/知識はとても重宝しますので、ディーラー、メーカー、先生に使い分けを質問することをオススメします。

・・・と言っても現状はエビデンスレベルで最強なA社のステントが存在するため、困ったらそのステントを選択することが多々ありますね。

あとは大人の事情で様々なステントが選択されるのですが・・・機会があれば触れますね。

次回はDAPTなどの抗血小板薬療法やステント世代別の特徴を解説したいと考えています。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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