この記事は右心カテーテル検査―スワンガンツカテーテルについて【前編】の続きです。
この【中編】は主に右心カテの測定順序と得られる検査データについて解説していきます。
前半よりは国試に出題される頻度は高いかと思います。
ただし、業務上必要だが国試の範囲を超える細かいところまで筆者は気づかずに踏み込んでしまうかもしれませんが、その点はご了承ください。循環器が好きなんです。略語はバンバン飛び交います。
では、いきましょう。
筆者の記事では、何度も繰り返し調べて欲しい、反復して覚えて欲しいという思いから、略語などは1度だけ正式名称と共に記載するだけで、その記事内では以降は略語表記のみとします。
右心カテの測定順序
実際の右心カテの検査の流れをご紹介します。・・・が、文字だけだとイメージが付きにくいことは事実です。最終的には臨床実習、病院見学、業務見学を経てイメージを掴むことになるでしょう。
- 穿刺部消毒
- シース挿入
- S-Gカテ挿入開始。
- 肺動脈楔入圧(PAWP, PCWP)測定
- 肺動脈圧(PAP)測定
- 心拍出量(CO)測定
- 右心室圧(RVP)測定
- 右心房圧(RAP)測定
- 検査終了
以上の順序が定番かと思います。上記には記載していないのですが、引き抜き圧測定や後述しますがFick法(フィック法)のための血ガス測定を追加することもあります。
また、術者の先生によるのですが、右心房から肺動脈楔入圧の順に測定(取り上がり)をする先生と、先に肺動脈楔入圧を測定してからカテーテルを引いてきて最後に右心房圧を測定(取り下がり)する先生がいらっしゃいます。
普段から「この先生はこっちから測定するんだな」と予想したり、よく先生の手技を観察しどちらでも記録を取れる準備をしておくなどを心掛けると良いと思います。
右心カテの1次情報とは
右心カテにおける1次情報とは、スワンガンツカテーテル(以下、S-Gカテ)によって直接測定されるパラメータのことです。
個人差は当然ありますが、正常値と正常波形は覚えてください。
基本的な解剖ですので不要かとは思われますが測定部位は図の通りです。
S-G測定位置
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以下の項目は全て一次情報を扱ったものとなります。
肺動脈楔入圧(PAWP:pulmonary artery wedge pressure)
いきなりですが読み方が難しそうな用語が出てきましたが、「楔入:せつにゅう」と呼びます。国家試験では超頻出かつ右心カテにおいて超重要な検査値です。
右心カテで肺動脈楔入圧が測定できることを覚えるだけでも国家試験で1点取れると言っても過言ではありません。
略語では別名PCWP(pulmonary capillary wedge pressure)とも表されます。
現場では通称【ウェッジ圧】と呼ぶことが多いかと思います。
波形はかなり個人差があるように思います。
カテーテル検査では、左心房圧(LAP)の測定は心房中隔欠損症(ASD)などを除けば直接測定することが困難ですが、なんとPAWPはLAPとさらに左心室拡張末期圧(LVEDP)と近似するため臨床上はPAWP≒LAP≒LVEDPとして扱っています。
Forrester分類の指標で使用されます。
- a波:3~15[mmHg] (右心室の収縮による上昇)
- v波:3~12[mmHg] (静脈血灌流による上昇)
- 平均圧(mPCWP):2~12[mmHg] ←15[mmHg]以下と覚えてください
- 左心不全
- 僧帽弁閉鎖不全症(MR)
- 慢性肺血管閉塞病変(CTEPHなど)
- 血管狭窄
- 肺うっ血
などで上昇(減少は特に考えません)
PAWP波形
医療情報科学研究所「病気がみえるvol.2 循環器 第3版」p.48, メディックメディア出版
【補足】「楔入」とは?
「楔入」とは、「はまり込む」という意味があります。つまりは、PAWPとはS-Gカテのバルーンを拡張させ肺動脈にカポッとはめ込んで測定される圧力のことです。
肺動脈閉塞圧(PAOP:pulmonary artery occlusion pressure)と呼ぶ方がイメージしやすいですね。
肺動脈圧(PAP:pulmonary arterial pressure)
PAPは肺高血圧症(PH:pulmonary hypertension)の診断に使用されたり、開心術後にICUでの循環動態のモニタリングに用いられたりします。臨床上は重要な指標となります。
右心カテでは、主な測定部位としては肺動脈が左右に分岐する前の主肺動脈(main PA, mPA)で測定されます。
より詳しく検査する場合は右肺動脈(right PA)も測定します。
何故right PAなのかは、血管の走行上右肺動脈へ挿入しやすいからであり、左肺動脈(left PA)を全く測らないわけではありません。
もちろん、main PA、right PA、left PAの3ヶ所とも測定される先生もいらっしゃいますし、測定が必要な患者もいます。
- 収縮期圧(sPAP):15~30[mmHg]
- 拡張期圧(dPAP):3~12[mmHg]
- 平均圧(mPAP):10~20[mmHg]
- 肺高血圧症(PH)
- 肺梗塞
- 左心不全
- 僧帽弁狭窄症(MS)
- 左右シャント
などによって上昇(減少は特に考えません)
PAP波形
医療情報科学研究所「病気がみえるvol.2 循環器 第3版」p.48, メディックメディア出版
右心室圧(RVP:right ventricular pressaure)
RVPは右心室(RV)へどれくらい負荷が掛かっているかを調べることが出来ます。
右心不全やPHなどで高値となります。
- 収縮期圧(sRVP):15~30[mmHg]
- 拡張期圧(dRVP):2~8[mmHg]
- 肺高血圧症(PH)
- 肺動脈狭窄
- 右心不全
- 心タンポ
- 右室流出路狭窄(RVOTO, RVOTS)
などで上昇
RVP波形
医療情報科学研究所「病気がみえるvol.2 循環器 第3版」p.48, メディックメディア出版
右心房圧(RAP:right atrium pressaure)
RVPは右心不全や循環血液量を反映しています。
- a波:2~10[mmHg] (右心室の収縮による上昇)
- v波:2~10[mmHg] (静脈血灌流による上昇)
- 平均圧(mRAP):2~8[mmHg]
- 右心不全、心タンポナーデなどで上昇
- 循環血液量減少で減少
RAP波形
医療情報科学研究所「病気がみえるvol.2 循環器 第3版」p.48, メディックメディア出版
中心静脈圧(CVP:central venous pressure)
CVPは循環血液量と右心不全の観察のためにICUなどでよくモニタリングされています。RAへの流入するための圧の指標ともなり、CVPは上大静脈(SVC)または下大静脈(IVC)の圧といえます。
波形はRAPとほぼ同じと考えていただいて結構ですが、数[mmHg]程度RAPより高いです。
- 平均圧(mRAP):2~8[mmHg]
- 右心不全、心タンポナーデ、体液過剰などで上昇
- 循環血液量減少で減少
【補足】CVPは基本的には5[mmHg]前後と低い値を示しますが、Fontan(フォンタン)循環という特殊な循環では、このCVPは10-15[mmHg]程度に維持しないといけません。
血液は圧力が高いところから低いところへ流れるため、CVPはPAよりも高く血圧を保たなくてはなりません。
心拍出量(CO:cardiac output)
COは1分間に心臓が送り出している血流量です。測定方法は①熱希釈法、②色素希釈法、③Fick法です。現在の右心カテでは熱希釈法とFick法が使用されています。色素希釈法については国家試験範囲ではあるので最低限の解説とします。
熱希釈法
S-Gカテ先端をPAへ進め、S-Gカテの注入用側孔をRAへの位置へ挿入し、0[℃]の5%ブドウ糖液を可能な限り素早く注入します。カテ先端のサーミスタによって、RAからPAへ流れる間の温度変化を測定し、得られた波形(熱希釈曲線)を積分解析してCOを求めます。
モニタリングにための留置型のS-Gカテでは、サーマル・フィラメントがあり、つまりは熱線式のようなもので微量な温度変化を感知してCOを算出しています。
シャントのある先天性心疾患や重症三尖弁閉鎖不全症の場合は熱希釈法は使用できないため、後述のFick法が利用されます。
熱希釈法
黒澤博身「全部見える スーパービジュアル 循環器疾患」p.66, 成美堂出版
【補足】冷却液注入の注入熱希釈法を行うためには、検査前にあらかじめポリグラフにカテサイズとカテ係数(コンピューテーション定数)を設定しておかないと正確にCOが算出されません。
また、添付文書では0[℃]以外の設定もありますが、一番測定誤差を小さくできると言われていますので、基本的には0[℃]の冷却液を使用します。
カテ係数(コンピューティング係数)
Edwards Lifesciences社「スワンガンツカテーテル 添付文書 別紙仕様書」https://www.edwards.com/jp/uploads/pdf/ifus/116.pdf
Fick法(フィック法)
Fick法は酸素消費量から算出します。Fick法で必要なパラメータは①動脈血酸素飽和度(SaO2)、②混合静脈血酸素飽和度(S-vO2)、血中ヘモグロビン濃度(Hb)、心拍数(HR)です。
計算式は以下の通りです。
\begin{align}
CO[L]=\frac{酸素消費量[mL]} {(S_aO_2-S_\bar{V}O_2)\times{Hb[g/dL]}\times1.36\times10}
\end{align}
※酸素消費量[mL]は間接法にて年齢、心拍数、体表面積(BSA)より求めます。
式は省略させていただきます。
根本的なところは「質量保存の法則」になります。物質量でいうと「ある臓器において、特定の物質が動脈から流入する量は、臓器へ取り込まれる量と静脈へ流出する量の和となる。」、物質濃度からいうと「ある臓器への動脈に流入する血液と静脈に流出する血液の特定物質の濃度差と血流量の積はその物質の産生量または消費量となる」ということです。
・・・うーん、何度も読めば理解できますが分かりにくいですね。臓器を肺、物質を酸素に置き換えますと、「肺での酸素取り込み量は(酸素消費量)は、動脈血と静脈血内の酸素含有量の差と心拍出量の積に等しくなる」ということですが、式に表すとこうなります。
酸素消費量=(動脈血酸素含有量-静脈血酸素含有量)×心拍出量
すると、
心拍出量=酸素消費量/(動脈血酸素含有量-静脈血酸素含有量)
というFick法の式が求められますね。
色素希釈法
一定の濃度にした指示薬(色素)を血液中に注入し、十分に混合した後に希釈される変化を注入した下流で濃度測定することでCOを測定する方法です。
色素にはインドシアニングリーンが使用されます。
この測定はCOが高いほど精度が高くなる一方で、注入した色素が再循環してくると測定誤差が生じるので一回きりの測定となります。もし2回目検査をしたい場合は数十分間隔を空けてから再度測定する必要があります。
色素希釈法
Edwards Lifesciences社 血行動態モニタリング -その生理学的基礎と露印象応用-p.34 https://www.edwards.com/jp/uploads/files/support-guide-ecce-hm.pdf
中編のまとめ
確実に身につく心臓カテーテル検査の基本とコツ 第3版
心臓カテーテル介助 スタンダードマニュアル
私が心臓カテーテル業務に携わる上で、必読だと思っている書籍の紹介です。当ブログの参考資料としても重宝しています。
以上で右心カテの検査値(一次情報)について終わります。
これだけでかなり内容の濃い記事となりました。
後編はこちら
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