【PAD】透析患者を脅かす下肢虚血—LEAD・CLTIとは?—

今回は内容的に循環器領域にweightが大きいのですが、血液浄化領域にも関わっている「下肢虚血」をテーマにしたいと思います。

今や国民病とも言える糖尿病DM:diabetes mellitus, 以下、DMとする)ですが、DMの合併症であるDM性腎症は透析導入の原因の実に40%近くを占めているのです。

私はカテーテル業務にも従事しているので、患者状況などは把握しているつもりですが、下肢虚血のカテーテル治療であるEVT(endovascular treatment)を受けられる患者で、特に膝下であるBK領域のEVTでは透析患者の割合は多いです。

透析“と”下肢虚血“、そして”糖尿病“というのは切っても切り離せない関係にあるのです。

本記事では、下肢虚血の用語の解説などをしていく予定です。

目次

透析患者と下肢虚血に関する統計

透析患者と下肢虚血に関して、まず関連する背景から説明したいと思います。

透析患者の死因1位は・・・

我が国の維持透析患者数は347,474名(2022年12月末時点)であり、このうちDM性腎症を原疾患とする患者は39.5%です。
実は前年度2021年の38.6%から減少に転じたのです(代わりに腎硬化症が増加傾向です)。

維持透析患者の死因として、これまで死因1位は心不全だったのが、2022年データではなんと感染が1位となっています。
※感染:22.6%、心不全:21.0%

維持透析患者の死因
わが国の慢性透析療法の現状(2022年12月31日現在)

透析患者と下肢虚血の関係とは

維持透析患者の死因の一因である感染について、さらに内訳を見ていきます。

感染による死因のうち、肺炎と敗血症でおおよそ90%を占め、肺炎と敗血症は同程度の割合となっています。

もちろん、敗血症患者の全てが下肢虚血に伴う潰瘍などからの感染とは限りませんが、カテ感染、シャント感染を除けばLEADやCLTIといったPADが一因であると考えます。

昨今の透析界隈では”フットケア“に力を入れている施設様も増えてきています。

年齢補正を行った一般住民と透析患者の全感染症および感染症疾患 カテゴリー別死亡率

【参考】若杉 三奈子, わが国の透析患者における感染症死亡率 ― 一般住民との比較 ―

【参考】Wakasugi M et al, High mortality rate of infectious diseases in dialysis patients:a comparison with the generalpopulation in Japan. Ther Apher Dial 16:226-231, 2012

下肢疾患で登場する主な略語

既に登場している”LEAD“や”PAD“、”CLTI“などの略語についておさらいします。

前提の話としまして、2022年に『末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン』が改訂されています

PAD(peripheral arterial disease:末梢動脈疾患)の疾患構造の変化や概念の変遷、患者背景である生活習慣病に対する新たな治療法やデバイスなどの進歩に併せての改訂となります。

この改訂により使用される用語の変化がありましたので、私も今後はガイドラインに沿った用語を使用していきます。

PADガイドラインは以下より確認いただけます。

末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2022年改訂)

PAD(peripheral arterial disease:末梢動脈疾患)

ガイドライン上では、PADは

冠動脈以外の末梢動脈に病変が生じる疾患の総称

と記載されており、

冠動脈以外の末梢動脈の狭窄・閉塞性疾患

をPADの定義とされています。

PAD以外の類似した表現があり、

  • peripheral artery disease
  • peripheral vascular disease
  • PAOD(peripheral arterial occlusive disease)

といったものが文献では使用されているようです。

本ガイドラインで扱われているのは以下の閉塞性病変です。

本ガイドラインで扱われている閉塞性病変
  • 四肢動脈
  • 頸動脈
  • 腹部内臓動脈
  • 腎動脈
  • 大動脈

そして、PADの中でも上肢閉塞性動脈疾患UEAD(upper extremity artery disease)、下肢閉塞性動脈疾患LEAD( lower extremity artery disease)と新たに称されることとなりました。

特にLEAD【通称:リード】は身近な疾患でもあるので、LEADだけでも覚えてください

LEAD(lower extremity artery disease:下肢閉塞性動脈疾患)【旧:ASO】

PADの中で最も多くかつ重要な疾患という位置付けであり、症状や虚血の程度により治療方針が変化します。

症候別分類として以下が挙げられます。

LEAD症候別分類
  • 無症候性LEAD
  • 間歇性跛行
  • 包括的高度慢性下肢虚血(CLTI:chronic limb-threatening ischemia)

さて、ここで不思議に思うことは、”ASO(arteriosclerosis obliterans:閉塞性動脈硬化症)”って消えたの?ってことです。

LEADの中で大部分を占めるアテローム硬化性末梢動脈疾患を”動脈硬化性LEAD“と表現し、実は従来使用してきた下肢ASOと同義となっているのです。

そして、ガイドライン改訂からASOではなくLEADが使用されることとなったというわけです。

Moegi

つまり、トレンド的にASOは古くなってきたということです。

CLTI(chronic limb-threatening ischemia:包括的高度慢性下肢虚血)【旧:CLI】

さて、ASOに引き続き、”CLI(critical limb ischemia:重症下肢虚血)”もガイドライン改訂により、CLTI(chronic limb-threatening ischemia:包括的高度慢性下肢虚血)へ名称変更となりました。

そもそも、”CLTI”や”CLI”は疾患名というわけではなく、

下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染などの肢切断リスクをもち、治療介入が必要な下肢を総称する概念

と定義されています。

元々CLIは高度虚血の観点のみから定義されていたのですが、下肢の自然予後が必ずしも正確に反映されていなかったということで、LEADの背景にあるDMやCKDといった生活習慣病の増加といった疾病構造の変化からCLIではなく、近年の実臨床的背景からCLTIが用いられることとなりました。

CLIとの違いは、単なる虚血評価をするだけではなく、WIfI分類を用いて「組織欠損」、「虚血」、「足部感染」の3要素で評価するところにあります。

2022 年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン

LEADと診断された成人で、以下のいずれかの臨床症候を有していることがCLTIの条件となっています。

CLTIの条件
  • 血行動態検査で確定された(WIfI grade 3 の虚血)安静時疼痛
  • 糖尿病性潰瘍または 2 週間以上継続する下肢潰瘍
  • 下腿または足部の壊疽

ただし、静脈性潰瘍、外傷、急性動脈閉塞症(発症後2週間以内)や非動脈硬化性慢性動脈疾患(血管炎、バージャー病など)は除外され、CLTIの診断では、症候、画像所見、生理機能検査を総合的に検討する必要があります。

動脈硬化性疾患と糖尿病の関連

PADの…というよりもLEADの原因となるのが動脈硬化病変であり、粥状硬化(内膜病変)や中膜硬化などに大別されます。

特に石灰化病変は臨床治療成績を不良としてしまう大きな要因の一つとなっています。

中膜硬化は主にDMによって形成され、下腿動脈(いわゆるSFA:浅大腿動脈)に好発するとされ、近年では膝下動脈における血栓形成やBK領域、足部領域の動脈病変での臨床的意義にも着目され始めています。

DM性足潰瘍では、足部動脈病変の併存が創傷治癒不全小切断率(minor amptation)大切断率(major amptation)の増加に寄与していると報告がされています。

Moegi

ここまでの内容でも、”透析”、”下肢虚血”、”糖尿病”の関連性の高さが伺えますね。

透析患者と下肢虚血

透析患者のLEAD有病率や予後などについて、ガイドラインや文献を参照しながら説明します。

さて、非透析患者との比較は一体どうでしょうか。
予想しながら読み進めてください。

透析患者のLEAD有病率

本邦における透析患者(腎不全患者)のLEAD合併率について、透析導入期で24.3%透析維持期で37.2%となっており、非常に高い有病率となっています

なお、透析患者のオシロメトリック法で測定されたABIにおいて、 ABI 0.90 未満の頻度は10〜20%だそうです。

透析導入期の時点でLEAD合併している患者で症状の有無を確認したところ、実に約70%のLEAD患者が無症候だったのです。

そして、無症候ではあるものの、症状が乏しいまま急速に重症化することも少なくないので、LEAD患者は経過観察において注意を要するのです。

特に血行再建術を要するCLTI患者の半数以上が透析患者ということもあり、腎不全とLEADやCLTIというのは大いに関連があるというわけです。

【非透析患者のLEAD有病率】
日本では5つのメタ解析がされており、オシロメトリック法でABI 0.90以下の割合は1.1%です。
※平均年齢 61歳、喫煙率17%、降圧薬服用率23%、男性比率40%、 HbA1c平均5.5%

ちなみに、アメリカのメタ解析では40歳以上でABI 0.90未満の割合は5.8%となっています。

【ABI(足関節上腕血圧比)】
LEADの診断方法としては、 足関節上腕血圧比ABI:ankle-brachial index)が有用でかつ簡便であるために利用されています。

ABIには欧米で使用されている従来式のドプラ法、アジアで使用されており簡便測定が可能なオシロメトリック法があり、日本でもオシロメトリック法が利用されています。

足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧“で算出されますが、足関節収縮期血圧に関してはドプラ法では足背動脈・後脛 骨動脈のいずれか高い値、上腕収縮期血圧は左右のどちらか高い方を採用して算出します。

0.90以下では主幹動脈の狭窄や閉塞を、1.40以上では動脈の高度石灰化の存在が疑われます

透析患者のLEADに関する予後

透析導入期の時点でのLEADは予後不良の独立危険因子となっています。

特に虚血性潰瘍を有する透析患者の1年生存率が65.2%5年生存率が23.4%となっており、救肢率が1年68.9%5年53.8%となっているようです。

やはり、CLTI透析患者の生存予後、救肢率、切断回避生存率は、どれも非透析患者と比較しても不良となっています

無症候でABIが1.0未満の透析患者では平均観察期間3.2±1.2年の間に18%がCLITを発症しており、さらに下肢アンプタ患者の半数以上が6ヶ月前まで無症候であったという報告もあります。

間歇性跛行患者における症状悪化もしくはCLTI進展の発生率は 年間4.66%5年累積発生率は21%と報告されています。
間歇性跛行患者が下肢アンプタに至るリスクは5年で1〜3%とされています。

本邦のCLTIを発症した症例の半数以上が間歇性跛行の既往がないようで、特に自立歩行不能症例、糖尿病症例維持透析症例で間歇性跛行の既往がないCLTI頻度が高かったことが報告されています。

LEADのリスクファクター

PADに対する国際的システマティックレビューでは、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳心血管疾患合併がLEAD 発症の主要リスクであることを確認されています。 

日本での疫学研究では、リスクファクター保有率は喫煙16.2%、高血圧61.5%、糖尿病 38.3%、脂質異常症 38.8%、心疾患 29.7%、脳血管疾患17.1%、CKD14.3%との報告があります。

CLTIの発症と予後

CLTI発症率

最後に、非常に予後が悪いとされるCLTIについて触れたいと思います。

先にも述べたのですが、血行再建を必要とするCLTI患者の半数は透析患者とも言われているのです。

さて、そのCLTIですが、基本的には血行再建を始めとして治療介入が可及的速やかに実施されるので、未治療の自然予後を知ることは困難であり、そもそも患肢の予後は創の大きさや深さ、虚血 の程度、感染の合併などに大きく左右されるため研究対象によって予後が異なる可能性も秘めています。

CLTIのEVT不適応または不成功の患者に関して、6ヵ月下肢切断率は40%とされています。

別の研究報告では、血行再建術不適応の潰瘍肢に関しては1年切断率は23%であり、特にABI>0.5の群では15%、ABI<0.5 の群では34%となっています。

・・・と、色々な報告を見ていると、1年切断率は20%程度とされているようですね。

透析患者に関して、透析開始後5年CLTI発症率が15%程度とされています。

CLTIの予後

EVT不適応または不成功のCLTI患者の6ヶ月死亡率は20%12ヶ月死亡率は22%とされています。

特にADLや認知機能低下したCLTI症例では、EVT非適応CLTI症例の1年死亡率は49%となっており、その最終死因は感染症が最も多く、次点で心血管疾患となっています。

そして、維持透析患者のCLTI合併症例では、総じて死亡リスク上昇と関連していると報告されています。

参考文献一覧

【透析導入時のLEAD有病率、LEAD患者での無症候の割合】
Ishioka K, Ohtake T, Moriya H, et al. High prevalence of peripheralarterial disease (PAD) in incident hemodialysis patients: screening by ankle-brachial index (ABI) and skin perfusion pressure (SPP) measurement. Ren Replace Ther 2018; 4: 27.

【維持透析患者のLEAD有病率】
Okamoto K, Oka M, Maesato K, et al. Peripheral arterial occlusive disease is more prevalent in patients with hemodialysis: Comparison with the findings of multidetector-row computed tomography. Am J Kidney Dis 2006; 48: 269-276. 

【透析患者のCLTIについて】
Azuma N, Kikuchi S, Okuda H, et al. Recent Progress of Bypass Surgery to the Dialysis-Dependent Patients with Critical Limb Isch- emia. Ann Vasc Dis 2017; 10: 178-184. 

【CLIT患者の予後について】
Iida O, Nakamura M, Yamauchi Y, et al. OLIVE Investigators. Endovascular treatment for infrainguinal vessels in patients with critical limb ischemia: OLIVE registry, a prospective, multicenter study in Japan with 12-month follow-up. Circ Cardiovasc Interv 2013; 6: 68-76.

【CLTI患者における間欠性跛行の欠如ついて】
Takahara M, Iida O, Soga Y, et al. SPINACH study investigators. Absence of Preceding Intermittent Claudication and its Associated Clinical Freatures in Patients with Critical Limb Ischemia. J Atheroscler Thromb 2015; 22: 718-725.

【CLTI合併ESKD患者における死因】
Koch M, Trapp R, Kulas W, et al. Critical limb ischaemia as a main cause of death in patients with end-stage renal disease: a single-centre study. Nephrol Dial Transplant 2004; 19: 2547-2552.

さいごに

以上でPADに関する用語の解説と、透析患者における下肢虚血との関連についての内容でした。

循環器領域でありながら、透析患者との関連が深いことをご理解いただけたかと思います。

今後透析業務で患者さんを観察するとき、バイタルや顔色だけではなく、下肢の観察なども取り入れてみてはいかがでしょうか。そして、フットケアの重要性に関しても調べてみてください。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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