IMPELLAの導入施設も増えてきたことですし、当ブログ読者のCEさんや薬剤師さんは何人かいらっしゃり、とても熱心な方達ばかりでこのIMPELLAの記事を期待されているとのコメントもあり、着手することにしました。
いくつかのパートに分かれていますが、この一連の記事は学生さん、IMPELLA未導入の施設の方、IMPELLA導入はしたもののポイントが解らない方、ICUに関わる看護師さんや薬剤師さん等をターゲットとします。
後半の記事ではより専門的な内容に踏み込んでいきます、
IMPELLAガイドブック:ABIOMED社提供
ちなみにMoegi自身のIMPELLA導入経験は、当院の導入症例数が20例程度であることに対し、偶然にも半数程度立ち合うことができています。循環器専門の大病院様には症例数は到底及びませんが・・・。
今回はIMPELLAの紹介記事です。
では、本題へいきましょう。
IMPELLA(インペラ)とは
IMPELLA(インペラ)はABIOMED社が販売しており、その正式名称を「IMPELLA補助循環用ポンプカテーテル」といい、日本で唯一の経皮的左心室補助循環デバイスとなります。
つまりはカテーテル(経皮的)によって、心臓の血液を拍出する機能(左心室の作用)を補助できるデバイスですね。
IMPELLA5.5 SmartAssistパッケージ:ABIOMED社提供
IMPELLAの略歴
IMPELAは2017年10月に初症例が大阪大学医学部附属病院(阪大病院)にて実施されており、まだまだ新しいデバイスと言えます。
経皮的補助人工心臓を用いた急性心不全の治療に国内で初めて成功-阪大
http://www.qlifepro.com/news/20171026/successful-treatment-with-impella.html
また、IMPELLAを導入するには施設基準を満たさないといけないため、IMPELLAを導入していない施設は多いかと思われます。
最近はTwitter等でも「IMPELLA」の文字を見かけることが増えてきましたし、実習生も知っていることが多くなってきているので徐々に浸透はしてきていますね。
IMPELLAの原理
インペラと呼ばれる軸流ポンプ(羽根車)を左心室内に留置し、インペラが回転することで、左心室内に留置したカテーテルから血液を吸入し、上行大動脈へ順行性に拍出して流量補助を行います。
つまりは、補助人工心臓(VAD、VAS)と同等の機能を有します(カテーテルVAD)。
IMPELLAカテ本体:Moegi撮影
IMPELLA吸入部:Moegi撮影
インペラ部
ABIOME社提供
IMPELLAの種類について
IMPELLAには複数のカテーテルが存在します。世に出たばかりの最新医療機器ですがこの数年でさらに改良が加えられました。
- IMPELLA 2.5
IMPELLA登場当初に発売されていたカテーテルです。2.5[L/min]まで補助できていましたが、溶血が問題となることが多かったです。現在は販売ありません。 - IMPELLA 5.0
こちらも登場当初から販売されていました。5.0[L/min]まで補助できますが、鎖骨下動脈などに人工血管を立ててから導入する必要がありました。IMPELLA 5.5 SmartAssistの登場により在庫限りの使用となります。 - IMPELLA CP
2019年7月よりIMPELLA 2.5の改良型としてパイロット導入をし、同年10月より日本での正式導入となりました。人工血管を立てずに3.7[L/min]まで導入可能となりました。現在はIMPELLA CP SmartAssistへ置き換わりつつあります。 - IMPELLA CP SmartAssist
IMPELLA CPにSmartAssist機能が搭載されました。 - IMPELLA 5.5 SmartAssist
IMPELLA 5.0の改良型で5.5[L/min]まで補助できます。2022年9月現在、記事を執筆している少し前に導入されました。
補助循環によるサポートはどの程度できるのか(ECMO/IABP/IMPELLAの比較)
まずはおさらいです。補助循環装置として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation, 【通称:エクモ】)と大動脈内バルーンパンピング(IABP:Intra Aortic Balloon Pumping)があります。ここでは補助人工心臓(VAS、VAD)は省略させていただきます。
ECMO
重症コロナ症例で使用され、ニュースなどTV番組でも話題となたECMOですが、今回はV-A ECMOを想定します。
遠心ポンプと膜型人工肺にて、心機能と呼吸を補助します。心臓機能としては、流量補助にて80%程度の補助が出来ます。
ただし、逆行性送血による後負荷(after load)が問題となってきます。
IABP
IMPELLAの登場にて、使用頻度が少し減少したように思えますが、重症心不全の開心術、高リスクPCI症例などで使用されています。
下行大動脈にバルーンを留置して、冠動脈血流増加や後負荷軽減を軽減して心機能回復をサポートします。
圧補助にて15%程度の補助ができます。
IMPELLA CP SmartAssist
上記で説明しましたが、流量補助にて最大流量3.7[L/min]まで補助可能です。心拍出量を4.0-5.0[L/min]とすると70-80%の補助となります。冠動脈血流も増加させます。
ECMOと異なり、順行性送血となるため後負荷はかかりません。
IMPELLA 5.5 SmartAssist
改良もあり、5.5[L/min]まで流量補助が可能です。大柄な患者様でない限りはtotal flowまで補助可能です。
導入にはカットダウンから鎖骨下動脈や腋窩動脈に人工血管を立てて挿入する必要があります。
使用目的
IMPELLAは心原性ショック等の薬物療法抵抗性の急性心不全に対して使用します。
IMPELLAの使用に関しては、補助循環人工心臓治療関連学会協議会が定めている「IMPELLA 適正使用指針」を厳守して、IABPまたはV-A ECMOによる補助循環のみで循環補助が不充分と想定される病態に使用します。
日本循環器学会心原性ショックレジストリに準じます。
【定義】 院内外発症の心疾患による救急初療時ショック状態を呈した患者
→初療前もしくは初療中で以下の大項目のうち一つと小項目を一つ以上満たした者
※院外心停止患者については自己心拍再開後もショック状態が遷延しているものを含める。
【大項目】
・収縮期血圧100[mmHg]未満かつ心拍数60[bpm]未満もしくは100[bpm]以上
・通常収縮期血圧より30[mmHg]以上の低下
【小項目】
冷汗、皮膚蒼白、チアノーゼ、爪床反応2秒以上の遅延、意識障害(JCS-2以上)、初療医が末梢循環不全と判断した場合
どんな患者に使用しているか
前項で心原性ショック患者に使用すると述べましたが、Moegiの手元のデータからどのような患者に導入したかを紹介したいと思います。
①急性心筋梗塞(AMI、STEMI、ACS)
ECMO導入までには至らなかったが、IABPでは循環補助不足が予想される患者ですね。
ただし、適正指針からはPCI中のみの使用はできませんので、仮にPCI後に循環動態を持ち直したとしてもPCI後は一旦ICUやCCUへ入室してから翌日に抜去する形となります。
②CPA後
ECMO導入までは不要だが補助循環は必要な患者ですね。
③劇症心筋炎
同じくECMO導入までは不要だが補助循環は必要な患者ですね。
心機能が回復せずにL-VAD導入となった患者など報告があります。
④開心術後
呼吸状態は良いが、心機能立ち上がりが悪かった患者です。
⑤緊急CABG
緊急カテにて三枝病変(TVD)であり、緊急で冠動脈バイパス術(CABG)をすることになった患者です。IABPでは不安といったところでの導入です。
⑥MitraClip前
重度僧帽弁閉鎖不全症(severe MR)による急性心不全にてMitraClipまでのbridgeに使用されます。
⑦ECMO導入患者
V-A ECMO導入患者で、LVのベント目的で使用します。
V-A ECMOとIMPELLAの併用を「ECPELLA【エクペラ】」と呼んでいます。
IMPELLAカテーテル本体価格は?
ちなみにですが、IMPELLAのカテーテル1本の価格は、なんと・・・2,600,000円します。
敢えて、”万”を使用しませんでしたが、ポンポン使用できる価格ではありませんね。
さいごに
補助循環用ポンプカテーテル マスターガイド - Impella A to Z
IMPELLAに関して専門的に書かれている唯一といっていい参考書です。
当然私も所持しています。
以上でIMPELLAについての触りとなる部分についての解説でした。
次回は、IMPELLAの治療目標やカテーテルの構造などを解説したいと考えております。
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