本記事では「右心カテーテル検査」を解説したいと思います。
右心カテーテル検査の内容は国家試験で頻出の題材であり、カテーテル業務を担当するようになってから最初に躓く内容の一つです。
スワンガンツカテーテル(Swan-Ganz catheter:以下S-Gカテとします。)が開発されてから50年程度経過しますが、このS-Gカテによって心不全治療が飛躍的に向上されました。
今回はこの右心カテーテル検査及びS-Gカテに関わる内容について基礎から解説したいと思います。
右心カテーテル検査(RHC:right heart catheterization)とは
右心カテーテル検査(以下、右心カテ)は、S-Gカテを用いることで循環動態や心機能心不全の評価を行うことができます。また、心臓の手術後に循環動態のモニタリングとしてもS-Gカテが使用されます。
右心カテで出来ること
右心カテによって、
- 右心系の心内圧
- 心拍出量
- 各所血液ガス測定
- 酸素飽和度
- 肺血管抵抗
- シャント率
- 間接的な左心系の心内圧
などを測定することができます。これらの指標を総合的に判断し、治療方針を決定していきます。
サーモダイリューションカテーテル【名称・構成・仕組み】
あれれぇ~?おかしいぞ~?
さっきまでS-Gカテの話をしていたのに、いきなり「サーモダイリューションカテーテル」という単語が出てきました。
名称について
実は「スワンガンツカテーテル」は、1970年にSwanさんとGanzさんが開発したカテーテルのことであり「Swan-Ganzカテーテル®」という名称は登録商標をEdwards Lifesciences社が保有しているため、他のメーカーはこの製品名で販売することができません。
そのため、正式名称を「サーモダイリューションカテーテル」といいます。国家試験の選択肢にS-Gカテーテルではなくサーモダイリューションカテーテルとなっていることがありますので両方の名称で覚えておいてください。
当記事ではS-Gカテで統一します。
カテーテルの構成・仕組みについて
さて、名称の話を長々としていまいました。S-Gカテの特徴ですが、カテーテル先端にバルーンがついており、血流に乗せてカテーテル先端を肺動脈まで挿入するといった使用方法です。
S-Gカテーテル本体
Edwards Lifesciences社:https://www.edwards.com/jp/uploads/pdf/SwanGanz_brochure_2021.pdf
S-Gカテの構造はバルーンの他に、注入用側ルーメンやサーミスタなど図のような構成となっております。
S-G名称
Edwards Lifesciences社:https://www.edwards.com/jp/uploads/pdf/SwanGanz_brochure_2021.pdf
穿刺部位(アプローチ部位)
右心カテにおいて、S-Gカテの挿入するためのアプローチ部位は当然ながら静脈からとなる。
穿刺アプローチ候補は、内頸静脈、大腿静脈、上腕静脈(肘静脈)鎖骨下静脈です。
穿刺部から右心房までの到達長も載せておきます。
穿刺部位
黒澤博身「全部見える スーパービジュアル 循環器疾患」p.65, 成美堂出版
穿刺部位
中川義久「改訂版 確実に身につく心臓カテーテル検査の基本とコツ」p.180, 羊土社
穿刺部から右心房までの到達長
Edwards Lifesciences社 血行動態モニタリング -その生理学的基礎と露印象応用- p.22:https://www.edwards.com/jp/uploads/files/support-guide-ecce-hm.pdf
どの血管からのアプローチが良いかは優先順位があります。
左右含めて下記の通りです。
第1選択 内頸静脈【IJV:Internal jugular vein】
右心カテでは基本的には内頸静脈が選択されます。
内頸静脈は上大静脈(SVC)へほぼ直線的に走行しているためカテーテルが挿入しやすいという理由です。右内頸静脈はSVCへ真っ直ぐに、左内頚静脈は曲がってSVCへ走行しているため右内頸静脈が選択されます。
また、検査が終了して止血後の患者さんの身体的拘束、それに伴うストレスが後述の別のアプローチに比べ少ないことがメリットと言えます。
個人的にはデメリットは特に無いように思えます。
(くそー、説明用だからとはいえ、全部略語で書きてぇーっ。Rt.IJV、Rt.FVなどで普段はメモや記録には書きますからね・・・。)
第2選択 大腿静脈【FV:femoral vein】
大腿静脈アプローチは、内頸静脈に血栓があったり、走行異常があったり、CVカテやバスキュラアクセス(AV)など既に別のカテーテルが挿入されていたりした際に選択されます。心筋生検(biopsy)なども大腿静脈を選択されることがあります。
左右に関しては内頸静脈と同様に解剖学的に右大腿静脈は下大静脈(IVC)へ直線的に走行しており、左大腿静脈はこちらも解剖学的に右総腸骨動脈が左総腸骨静脈と交差しており圧迫しているため左大腿静脈からカテーテル挿入が難しいことがあります。
以上より右大腿静脈が一般的です。
大腿静脈アプローチでは、止血後再出血してはいけないため、しばらく安静にしておかなければならないことがデメリットです(もっとも、静脈ですので動脈ほど負担ではありませんが・・・)。
メリットは術者がカテーテルの操作がしやすいとう点です。イメージし難いと思いますが、仰臥位(仰向け)で寝ている患者の右側に立ってカテーテルの操作をし、右利きが多いため、患者の心臓方向である左側へカテーテルを挿入する操作がしやすいです。
カテ立ち位置
KAIKOU INTERNATIONAL HEALTHCARE CORPORATION:https://kaikoukai-kih.co.jp/medical-checkup/mc04.html
【補足】
内頸静脈の時にも少し漏らしましたが、循環器領域では様々な略語が飛び交います。別記事で、循環器領域で重要な血管略語集など作成予定ですが、早めに覚えておくとカテーテル業務がスムーズに行え、先生達とのコミュニケーションも取りやすくなります。
略語のメリットは他にもあります。文章でみると解るのですが、上記に「右総腸骨動脈が左総腸骨静脈と交差をしており」とありますが、左なのか右なのか、動脈なのか静脈なのか一瞬迷うし、もしかすると間違えている可能性があります。間違い防止にもなるかと個人的には思えます。
仮に「第2選択 大腿静脈」の前半部分を略語で書いてみます。
〇第2選択 FV:femoral vein
FV approachは、IJVに血栓があったり、走行異常があったり、CVカテやAVなど既に別のカテーテルが挿入されていたりした際に選択されます。biopsyなどもFVを選択されることがあります。左右に関してはIJVと同様に解剖学的にRt.FVはIVCへ直線的に走行しており、Lt.FVはこちらも解剖学的にRt.CIAがLt.CIVと交差しており圧迫しているためLt.FVからカテーテル挿入が難しいことがあります。以上よりRt.FVが一般的です。FV approachでは、止血後再出血してはいけないため、しばらく安静にしておかなければならないことがデメリットです。
・・・まぁ、こんなかんじでしょうか。
第3選択 上腕静脈(肘静脈)【BV:brachial vein】
上腕静脈アプローチはほとんど選択されません。
内頸静脈に血栓や走行異常があり、かつ、IC(インフォームドコンセント)つまりは事前の説明で患者が大腿静脈での穿刺を敬遠したり拒否したりする場合に選択されます。
若い女性患者では特にですが、内頸静脈がアプローチ不可の場合、鼠径部アプローチ(脚の付け根)は下着を脱ぐことになりますので当然誰もが嫌がりますし、拒否したいですよね。
もちろん、男性も嫌ですが・・・。という風に、内頸静脈、大腿静脈アプローチともにできない場合に上腕静脈アプローチが選択されます。
しかし、上腕静脈アプローチは医師が嫌がる傾向にあります。理由は再出血リスクです。止血もし難い部位ですし、どうしても肘を曲げてしまい再出血してします恐れが高いです。それでも、動脈に比べれば大したことはありません。
左右についてですが、解剖学的に左上腕静脈の方が走行が自然であるためどちらかというと左が多いと思います。
第4選択 鎖骨下静脈【SCV:subclavian vein】
鎖骨下静脈アプローチは、ほぼすることはないでしょう。穿刺する場合は、上腕静脈でもリスクがある場合・・・くらいですかね。ですが、鎖骨下静脈アプローチは、気胸のリスクがあるため慎重に穿刺を行う必要があります。解剖学的に左鎖骨下静脈の方が走行が自然であるため左からが多いと思います。
前編を終えて・・・
・・・おっと、右心カテの説明したい内容のまだ半分程度しか終わっていないのですが、ずいぶんボリュームが多くなってしまいました。ここで一旦区切らせていただきます。
確実に身につく心臓カテーテル検査の基本とコツ 第3版
心臓カテーテル介助 スタンダードマニュアル
私が心臓カテーテル業務に携わる上で、必読だと思っている書籍の紹介です。当ブログの参考資料としても重宝しています。
中編・後編は右心カテで得られる検査データについて説明したいと思います。
むしろこちらの方が皆さんが知りたい内容ではないでしょうか。
続きの【中編】「右心カテーテル検査 ― スワンガンツカテーテルで得られる一次情報まとめ」はこちらから
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