循環器シリーズについて
この循環器シリーズは、学生さんはもちろんのこと、これから心臓カテーテル業務や人工心肺業務、集中治療業務を始めようとするCEを筆頭に、ICUや循環器病棟で勤務する看護師、アンギオ室を担当する放射線技師をターゲットとした循環器全般に関する内容にしていきたいと思っております。
循環器、心臓カテーテル業務と聞けば、「心臓の手術とか、ミスをしたら患者が死んでしまうかもしれない、怖い」と感じている方はいらっしゃるはずです。
興味はあるけど業務を担当するのはちょっと・・・と思っている実習生や、透析や集中治療を担当しているうちに循環器業務やりたいな、という後輩を何人も見てきました。
筆者Moegiは日本心血管インターベーション治療学会(CVIT)の認定制度である「心血管インターベーション技師(ITE:Intervention Technical Expert)」を取得していることもあり、CE業務の中でも最も得意とする領域でもあるため、各単元でより詳しい解説を心掛けて、皆様読者のサポートをさせていただきたいと思います。
循環器領域における臨床工学技士の役割
近年、カテーテル治療の分野は目紛るしく進歩し、目を見張るものがあります。
もはや、医師だけでは賄いきれず、チーム医療として私達コメディカルのサポートが欠かせなくなってきています。
循環器領域、特にカテーテル業務でのCEの役割は、
- 患者のバイタル観察
- カテーテル物品の準備
- IVUS(血管内超音波)やOCT(光干渉断層法)の操作
- 補助循環装置の導入及び管理
など術者(Dr.)の手技が円滑に進められるよう各種業務に精通する必要があります。
CE業務の中で特にカテーテル業務は医師やコメディカルとのコミュニケーションが大事になる業務と言え、時には医師へ助言をしたり、補助循環導入時は主導権を握ったりと見せ所は沢山あります。
CEは循環器部門における安全管理に大きく貢献をしていると言えます。
「循環」とは
では、始めにしては少々難しいかもしれませんが、本シリーズの触りとして、循環とは何かを説明したいと思います。「循環が成立している」、「循環が保てている」とは一体どういう状態のことを示しているのでしょうか。
答えは「dysoxia (ジソキシア):組織酸素代謝失調」または「hypoxia (ハイポキシア):低酸素症」に陥っていない状態を言います。
酸素供給不足で好気性代謝が制限され臓器障害を生じる状態であり、もう少し簡単に言うと酸素が不足して各臓器の細胞へのエネルギーが産生されなくなり臓器に障害を生じる状態です。
つまり、心臓が動いて血圧が保てているだけでは循環の管理はできておらず、循環=心臓だけみれば良いという考えをやめなければなりません。
循環管理の指標
では、循環を管理する上で必要な指標は何をモニタリングすれば良いでしょうか。以下がその指標例です。
- 血圧:ABP(観血的血圧…所謂Aライン)
NIBP(非観血的血圧…皆さんが思い浮かべる腕に巻く方法) - 心拍数(HR)
- 動脈血酸素飽和度(\(S_pO_2\))
- 混合静脈血酸素飽和度(\(S_\bar{V}O_2\))
- 中心静脈圧(CVP)
- 心拍出量(CO)
- 肺動脈圧(PAP)
- 肺動脈楔入圧(PAWP…通称ウィッジ圧)
- 血中ヘモグロビン値(Hb)
- 尿量(Hr…ハルン)
- 体温(BT):中枢温、末梢温
各値の正常値を覚えるより先に、まずは循環管理にはどんな指標が必要かを覚えてください。
循環を管理するとは
上記で循環を管理する上で必要な指標を示しましたが、つまりは酸素供給が不足しないように混合静脈血酸素飽和度(\(S_\bar{V}O_2\))を適切に高く保ち、嫌気性代謝による乳酸の産生を減らすことが循環を管理する目的です。
循環管理における腎機能の管理
循環の管理に大切なことは沢山ありますが、尿量の管理もとても重要になります。
尿量の管理をするということは、「循環動態の評価」と「体内の水分バランスの管理」を行うということになります。
ヒトの身体機能がとても優れているというのは言うまでも内のですが、各臓器には血流を自動的に調整する機能があります。その機能をautoregulation(オートレギュレーション機能、自動調節能)と呼びます。このautoregulationは灌流圧(各臓器にかかる血圧)が一定範囲内にある状態では、その臓器への血流量は一定に保たれるという機能です。
autoregulationの範囲[mmHg] | |
腎臓 | 90 – 180 |
冠動脈 | 60 – 180 |
脳 | 60 – 160 |
小腸 | 30 – 125 |
骨格筋 | 20 – 120 |
表よりautoregulationの灌流圧下限値が一番高いのは腎臓であることが確認できます。何故、尿量の管理が重要なのかというと、尿量が確保できる、すなわち腎臓が機能しているということは脳も含めその他すべての臓器への血流が保障されていることになります。
さいごに
周術期管理チームテキスト第4版
麻酔領域だけではなく、手術室業務全般において大切な情報が勉強できる1冊です。手術室業務を担当されている方へどうぞ。
以上で循環器シリーズの紹介記事とさせていただきます。このシリーズを通して循環器分野への苦手意識を減らしていき、是非とも面白いと思っていただくよう頑張って執筆させていただきたいと思います。
また最後のautoregulationにつきましては、いつになる分かりませんがもっと詳しい記事にしたいと思います。
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