今回はTwitter(X)CE界隈で盛り上がっていた問題をプチ解説したいとおもいます。
透析後半の血圧上昇した場合の対応を求める問題について解説
- 血液透析開始時の血圧が130mmHgであった患者が、透析4時間経過時より180mmHgへ血圧上昇を認めた。
このときの対処として正しいものはどれか?
【2014年 認定血液浄化臨床工学技士 過去問】
a.除水速度を上げる
b.血流量を下げる
c.透析を終了する
d.透析液の液温を下げる
e.生理食塩水を静脈より持続投与する -
答えは記事の最後の方で!
まず消去法なのと、除水しているときのBP増加の際🔳🔳🔳🔳するのはダメです。
消去法で🔳だけども、選択肢がないと悩みますねこれ。
一般に血液透析といえば「除水をしているので血圧は下がっていく」というイメージを持つことが多いと思います。
もちろん大部分はそのイメージに当てはまるのですが、中には「透析で除水をしているにもかかわらず血圧が上がっていく」なんてケースも当然あり、特に臨床に出た最初のころに思う疑問の一つではないでしょうか。
というのも私自身最初はなんでだ?と思っていたからです。
今回Moegiから執筆依頼が来たので、透析技術認定士持ちの編集部が執筆しています。
透析中の血圧を維持する手技について 選択肢を詳しく解説
多分今回の問題で選ぶならaかcかの2択になると思います。よってこれらは後に回します。
残りの選択肢について軽く述べます。
b.血流量を下げる
血流量(QB)を下げることで、考えられる効果といえば「拡散能力の低下」ですね。
この結果僅かながらでしょうが、小中分子量物質の拡散・除去が阻害され、多少のプラズマリフィリングの改善、強いて言えば血圧上昇効果を生み出すことが考えられます。
実臨床では、主に「ショック時」や「導入初期の不均衡症候群防止」の際に行われることが多いです。
あとはそうですね、食事の取れていない高齢者の透析効率落としたいとか、脱血不良で無理な陰圧をかけたくない時辺りですかね。
ちなみにですが昔の世代の人に教わると、QBを上げると「心臓に負担がかる」「血圧が低下する」と言われておりましたが、血圧の話はともかく心臓に負担云々は否定されています(※1)
QBは多ければ多いほど長期成績が良いとされているので、基本的に緊急時以外は下げたくないですね。
※1 透析時血流量が心拍出量に及ぼす影響
「高血流量透析を行うと静脈還流量が増加し前負荷が上昇する結果、心臓への負担を増大させるのではないか。」
という疑問に対し、2015年発表の論文で
「血流量を高血流から通常血流,そして高血流に戻したときの心拍出量および下大静脈径に有意な変化を認めなかった。今回の検討から、高血流透析により心負荷を増大させる可能性は低いと考えられた。」
透析時血流量が心拍出量に及ぼす影響
と結論付けされています。
いずれにせよ、血圧低下時にQBを下げることで、除去効率低下による多少の血圧上昇はあるとは思いますが、出題の血圧上昇時の対応を問われているこの問題からすると不適です。
とはいえこの辺は色々な意見がある気がします・・・。
d.透析液の液温を下げる
先ほどよりは悩まず不適と選択できる選択肢です。
透析液の液温を下げることにより、末梢血管が収縮し、血圧の上昇効果が期待できるとされています(※2)
臨床でも透析中血圧が下がったら、よく取られている手技だと個人的は捉えています。
こちらの選択肢も血圧上昇時の対応を問われているこの問題からすると不適です。
「透析液温を上げる」だと🔳の正答とどっちが正解かわからなくなり不適切問題になっていたでしょうけどね。
※2 透析液温度、特に低温透析による低血圧の低減効果について
説明も不要なぐらいメジャーな手法だと個人的には考えておりましたが、最初の記載がよろしくなくエビデンスの強度についてX(Twitter)にてご意見をいただいたので一応それらしき文献を引用します。
Nicholas ら 73) は,論 文 22 編(症 例 数 408 例)をsystematic review してメタアナリシスした結果を報告した.その結果,透析液温が 34.0〜35.5℃の低温透析を使用した群にくらべ,透析液温が 36.5〜38.5℃の対照透析液を使用した群における透析低血圧の発生頻度が 7.1 倍(95% CI 5.3-8.9)と高く,低温透析液使用群における透析後の平均血圧が 11.3 mmHg(95%CI 7.7-15.0)も高かった.これらの結果から,透析低血圧の発生予防策として低温透析液使用も考慮されるべきかも知れない.
透析関連低血圧 (ステートメント) 日本透析医学会雑誌 44 巻 5 号 2011
引用先の論文には「prospective randomized studies」の記載もあり、おおよそ「透析液の温度を下げることは透析低血圧の低減に役立つ」ことはエビデンスレベルの高いものだと個人的には思っております。
ですがこの文献にしても「考慮されるべきかもしれない」という微妙な言い回しでありましたほか、他の論文に関しても思っていたよりは明言を避けていたり、そもそも研究が少ない状態でした。
透析液の温度を下げるという手技も実はそこまで確立された手技ではなかったのだなと勉強させていただいた次第です。
e.生理食塩水を静脈より持続投与する
これも血圧低下時の対応です。
急激な除水で血管内ハイポとなった際に、生食やオンライン透析液で補液を行うことにより血圧上昇を促します。
こちらの選択肢も血圧上昇時の対応を問われているこの問題からすると不適です。
過度の脱水や、除水によりプラズマリフィリングが破綻し、血管内の循環血液量が減った状態のことを臨床ではよく「ハイポ(ハイポボレミア:hypovolemia)」と言ってます。
この辺のことはそれだけで一記事かけそうなので詳細は保留としておきます。
正解はどっち? 答えは意外?な回答に
というわけで選択肢はaかcかに絞り込まれました。3つの選択肢が「血圧が下がった時」の対応でしたからね。
透析の原理をきちんと理解し、知識を整理しておけばここまでは絞り込めるはずです。
国試もそうですが、選択肢の問題はこのようにまずあり得ないという選択肢を消去していく作業です。
さて、問題はaとcの選択肢です。改めて問題をよく読みましょう。
- 血液透析開始時の血圧が130mmHgであった患者が、透析4時間経過時より180mmHgへ血圧上昇を認めた。
このときの対処として正しいものはどれか? -
a.除水速度を上げる
c.透析を終了する
ここまで選択肢を絞り込めてる方なら、「除水速度を上げれば血圧は下がる、当然だろ」となると思います。
・・・多分私も時間がなく焦ってたらaと即答して、見直ししない限り気が付かない気がします。
しかしなんと、答えは「c」なんです。
確かにこの問題では標準治療とされる4時間の透析時間はすぎているので、別に終わっても良いとは思いますが、「血圧高いまま、なにもせず終わって良いの?」という疑問は当然出てくると思います。
・・・はい、これを限られた時間で解くにはある種の相当な知識量が要求されます。
さすが認定血液浄化臨床工学技士の問題というべきですかね。。。
レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAA系)とは
でました、RAA系。これの理解に学生時代(今も笑)どれだけ苦しんだことでしょう。
以下にRA系・RAA系、およびそれに関連するキーワードを簡単にまとめます。
RA・RAA系の作用機序およびキーワード
※当然ながら透析による除水はリスク因子です。
- 輸入細動脈の灌流圧低下
- 遠位尿細管緻密班領域の尿流量減少(Cl– 濃度低下)
- 交感神経活性化
⇨輸入細動脈の傍糸球体細胞によるレニン分泌が亢進
※アンジオテンシノーゲンは主に肝臓でつくられますが、脂肪細胞でもつくられており、内臓脂肪の増加に伴ってその産生・分泌が高まり、血中濃度が増加します。
アンジオテンシノーゲン e-ヘルスネット
余談ですが肥満と高血圧、肥満関連腎臓病ってここで結びつくのか
(※参考:日本肥満症予防協会)
- ACE:アンジオテンシン変換酵素
-
ACEは血管内皮細胞(肺血管ほか)で合成される
アンジオテンシンⅡは最終的に血圧上昇と循環血漿量増加を引き起こします
アンジオテンシンⅡは強力な末梢血管収縮作用をもつほか、副腎皮質でつくられるアルドステロンの分泌を促します
アンジオテンシノーゲン e-ヘルスネット
作用箇所 | 効果 |
---|---|
全身の血管 | 全身の血管を収縮させる |
脳(視床下部) | 下垂体後葉からのバソプレシンの分泌を促進する 口渇を増強して飲水行動をとらせる |
副腎皮質 | アルドステロン分泌を促進 |
腎臓ー近位尿細管ー | Naと水の再吸収を促進 |
腎臓ー輸出細動脈ー | 輸出細動脈を収縮させGFRを正常値に保つ |
表に示した通り、アンジオテンシンⅡの作用は多彩です。
アンジオテンシンⅡは全身の血管を収縮させ、脳の視床下部に作用しバソプレシンを分泌、口渇を増強して飲水行動を取らせるほか、副腎皮質に作用してアルドステロン分泌を促進させRAA系を亢進、腎臓には近位尿細管にナトリウムと水の再吸収を促進させ、輸出細動脈を収縮させる効果があります。
総括して主に体内の水分量を増やし、血管を収縮させ、血圧を上げる作用があります。・・・言えるかw
上記の作用のうち、全身の血管を収縮させる作用は即効性がありますが、その他の作用は遅効性です。
特に次に示す副腎皮質からアルドステロンが分泌され腎臓で作用するまでには数時間以上を要します。
ここまでのレニン分泌からアンジオテンシンⅡ分泌に至る過程や、アンジオテンシンⅡの作用をレニン・アンジオテンシン(RA)系と呼びます
- アルドステロンとは
-
副腎皮質から合成・分泌されるステロイドホルモン
- アルドステロンの合成・分泌について
-
- RAA系
-
RA系によって産生されたアンジオテンシンⅡの作用により亢進
- 非RAA系
-
血漿カリウム濃度の上昇により亢進
- アルドステロンの作用
-
上皮型Na +チャネル(ENaC)を増加させ、ナトリウム再吸収と二次的な水の再吸収を促進
レニン・アンジオテンシン(RA)系からアルドステロンが腎集合管に作用するまでの一連の過程をレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系と呼びます。
太文字、特にマーカーの箇所に関しては国試で嫌というほど見たなという内容です。RA-RAA系の復習になると幸いです。
他に透析中の血圧の上がる要因は?
以上のように今回の出題に関しては、RA・RAA系がこれ以上亢進するをのを避けるべく、循環血漿量減少を止める、つまりは除水、透析を終了するというのが正答という問題でした。
他に透析中の血圧の上がる要因は何があるでしょうか。
今回の主題(RA・RAA系)とは逸れてしまうので、簡単に述べます。
- ドライウェイトの設定が甘い(溢水である)
- 体外循環による体温の低下
- 降圧薬等の飲み忘れ
あくまで透析中に血圧が上がってくる要因として考えられるものです。
このあたりは次項のおまけコーナーでボヤいています。
透析後半の血圧上昇が実際に起きた場合の対応は?
ここからはMoegiと編集部が実際に交わした雑談を解釈したものです。
この先のエビデンスの有無は特に保証しません(強いていうなら黄色>緑色です)。
問題自体は冷静に消去法やけど、色々考えること多いよな。
そうだね。ただこれ問題的には正しくても、実際の臨床で透析止めるのなかなか難しいやろうな。
・・・ちなみにこれ問題成立しないだろうけど、2時間経過時でこうなった場合どうしたい?
4時間経過じゃなくて2時間経過時ってことやんな。
実際には患者情報少ないからあれやけど、選択肢に上げるなら
①頭部挙上
②液温を上げる
③除水速度下げる(①,②が選択肢に無ければ)
かな・・・?選択肢としてありなら
④頭痛とかがないことを確認して続行
⑤X-pや採血結果を確認し、担当医に確認してDWを再評価し、除水を止めて血液浄化のみにする(長い笑)かな?
降圧剤は無しかな。
①、②、④は同意、まぁ突き詰めるなら⑤やろな笑
でも2時間でも③とか⑤みたいに除水落とすのか・・・。
維持透析をしてると計画除水とかで逆に除水あげてしまいそうやし、降圧剤とか確認してしまうなぁ。
元々血圧高い人なら自覚症状聞いてから降圧剤でもいいと思うけどな。
それも180mmHg台とかが200mmHg以上とかになったらの話やけど。
透析中は降圧剤はできるだけ使いたくないかな。
ちなみにこの論文の結論だけサラッと読んだだけやけど、長期透析に伴ってRAA系亢進は弱まるって理解でええよな。
(参考:長期透析患者の血圧とレニン)
導入期なら除水止めるとか選択肢としてあるのかもしれないけど、慢性期だとパッとしないのよねぇ・・・。
そう。
患者情報が少ないというのは、そういうところが知りたいことやな。
実際の臨床では、
・長期透析患者で透析後半に血圧が上がるならDWが甘い可能性
・透析導入初期の患者で透析後半に血圧が上がるならRAA系が亢進している可能性があるため除水or透析を止める
って結論かな。
そんなところやろな。あと長時間なら体外循環による体温低下を疑うとかかな。
※これらは臨床工学技士による雑談です。実際の臨床では透析担当医の指示に従いましょう。
まとめ
いかがでしょうか。今回の記事は主題から逸れすぎないよう諸々の記述に関してはだいぶ簡略化させていただきましたので、気になった方はご自身で調べていただけたらと思います。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
お気づきの方がいるかもしれませんが、X上で8月末・9月頃に盛り上がっていた内容になります。
内容が内容だけに、筆が進まず没記事になっていましたが、改めて加筆し公開いたしました。
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