【特集】新学期に向けた「学生にオススメの参考書22選」

電解質:マグネシウム【Mg2+】の役割について

今回は以前に公開させていただいた「活動電位」について、Na+、K+、Ca2+が主役として執筆させていただきました。

今回のテーマは「Mg2+」です

どの参考書を読んでもClやMg2+について記載されているところをあまり見かけません。
しかし、Mg2+についてはイオン濃度としてよく表に掲載されていて、血中濃度的にも主要な電解質として存在しているにも関わらず、活動電位の項では触れられることはほとんどありません。

また、血ガスや採血データにおいても、Na+、K+、Ca2+などがどうしても重視され、ClやMg2+を軽視しがちです。

筆者としてもClやMg2+についてどのような役割があるのか気になったのでまとめることにしました。
今回はMg2+についてまとめており、別記事でClについてまとめております。

目次

膜電位に関わるイオン

以前に執筆した記事では、静止膜電位や活動電位に関連するイオンは、Na+、K+、Ca2+、Clの4種類を掲載しました。ここで、細胞内外の上記イオンの濃度を確認しておきます。

細胞内のイオン濃度は、普段の採血で見るデータと全然異なることに注目ですね。

細胞内外のイオン濃度

Mg2+には諸説あり、調べても細胞内濃度、細胞外濃度については様々な値が散見されました。
私自身も単位変換や計算を尽くして比較しつつ調べましたが、2023年11月現在では確信には至っておりません。

現時点では図の数値で進めさせていただきます。蛋白結合等を含めた総Mg濃度とイオンのみの遊離Mg2+濃度という2つの表現がありますので、お調べになる際はこの点にご注意ください。

読者の皆さんで正しい数値や情報お持ちでしたらご意見いただけたら幸いです。
ただし、報告の際は単位と上記の総Mg濃度なのか遊離Mg2+濃度なのかにご注意いただきますようお願い致します。

Mg2+の単位換算

まず手始めにMg2+の単位換算をします。

資料を見渡すとMg2+の濃度は、[mg/dL]、[mEq/L]、[mmol/L]でバラバラに表記されており非常に比較しにくいです。下記がMg2+の濃度1[mmol/L]を基準とした変換式です。

1[mmol] = 2[mEq/L] = 2.4[mg/dL]

細胞内外のMg2+濃度
細胞内Mg2+

細胞内遊離Mg2+濃度を0.8[mmol/L]とすると
0.80[mmol/L] =1.60 [mEq/L] = 1.92[mg/dL]

細胞内遊離Mg2+は5〜10%と言われているため、総Mg濃度としては
8〜16[mmol/L] = 16〜32[mEq/L] = 19.2〜38.4[mg/dL] 

細胞外Mg2+

細胞外Mg2+濃度を1.5[mmol/L]とすると
1.50[mmol/L] = 3.00[mEq/L] = 3.60[mg/dL]

Mg2+の基準値

血清Mg2+の基準値は

0.74~1.07[mmol/L] = 1.48~2.14[mEq/L] = 1.78~2.57[mg/dL]

となっています。

しかし蛋白結合などをしていない遊離Mg2+総Mgの64%程度であるため、イオンとしては

0.47~0.68[mmol/L] = 0.94~1.36[mEq/L] = 1.13~1.63[mg/dL]

です。

Mg2+の役割

Mgは体内に存在する電解質の1つですが、その血液中の大半がタンパク質と結合していたり、骨内に貯蔵されています。

体内のMgの半数は骨内に存在します。

血液内のMgは微量ではありますが、骨や歯の形成、300種類以上もの酵素の活性化、神経情報の伝達、筋収縮、体温や血圧の調整、CaやKの代謝、鬱、長期記憶などMgの役割は多岐に渡ります。

特にMg欠乏は細胞内外のNa+、K+、Ca2+のバランスが崩れて心機能に影響をもたらします。

ちなみに、Mgは腎排出ですので、腎疾患では血中Mg濃度が高くなることがあります。

マグミットのような薬のように、サプリや薬剤でのMg過剰摂取では下痢の症状が引き起こされることがあります。

Mg2+異常値での病態

低Mg2+

低Mg2+ 原因
  • 大量飲酒 → 排泄量が増加
  • 下痢 → 排泄量が増加
  • アルドステロン症
  • バソプレシン(抗利尿ホルモン)高値
  • 甲状腺ホルモン高値 → 甲状腺機能亢進症
  • 利尿薬、抗真菌薬のアムホテリシンB、化学療法薬のシスプラチンなどの薬剤
  • プロトンポンプ阻害薬
  • 授乳
  • 慢性腎盂腎炎
低Mg2+ 症状
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 眠気
  • 脱力
  • 人格の変化(抑うつ、幻覚、認知機能の低下、見当識障害)
  • 筋肉のけいれん
  • 振戦
  • 食欲不振
  • けいれん発作(特に小児)

高Mg2+

高Mg2+ 原因
  • 腎不全
  • 尿崩症
  • アジソン病
  • 甲状腺機能低下症
  • 組織崩壊
  • Mg過剰投与
  • リチウム投与
高Mg2+ 症状
  • 筋力低下
  • 低血圧
  • 呼吸障害
  • 昏睡
  • 心電図変化(PR延長、QRS延長、QT延長)
  • 心停止
高Mg血症
木村琢磨:JIM 18(11), 2008、川村祐一郎:臨床医 31(6)、2005

Mg2+の電解質としての役割

さて、ここが本記事のメインとなると筆者は思っています。
なんせ、参考書には記載がほとんど無い内容でしたので・・・。

Mg2+の腸管吸収、尿細管再吸収

経口摂取されたMg2+腸管で吸収され腎臓で排泄されます

Mgの代謝
Jeroen H. F. de Baaij et al. Clin Kidney J.2012 Feb;5(Suppl 1):i15-i24.doi: 10.1093/ndtplus/sfr164.
「Regulation of magnesium balance: lessons learned from human genetic disease」

腸管では単純拡散(simple diffusion)及びTRPM6(Transient Receptor Potential Cation Channel Subfamily M Member 6)、TRPM7(略)という陽イオンチャネルによって細胞内へ能動輸送されています。

Mg2+の移動
Jeroen H. F. de Baaij et al. Clin Kidney J.2012 Feb;5(Suppl 1):i15-i24.doi: 10.1093/ndtplus/sfr164.
「Regulation of magnesium balance: lessons learned from human genetic disease」

そして、血中Mg2+は糸球体で濾過され一旦尿中に排泄されますが、ほとんどがヘンレループ尿細管で再吸収されることになります。

Mg2+再吸収
Jeroen H. F. de Baaij et al. Clin Kidney J.2012 Feb;5(Suppl 1):i15-i24.doi: 10.1093/ndtplus/sfr164.
「Regulation of magnesium balance: lessons learned from human genetic disease」

Mg2+による他の電解質異常への相互作用

Mg2+の変化が他の電解質異常への原因となり得ることがあります。
ここでは、Mg2+が低下した際のCa2+とK+への影響をご紹介したいと思います。

周術期とMg2+の関係

周術期には様々なストレスによりカテコラミン分泌上昇、脂質加水分解促進をしますが、カテコラミン濃度上昇と脂質加水分解促進により以下の作用が働きます。

カテコラミン濃度上昇によるMg2+の変化

①血圧上昇↑
 ⇒②腎血流増加↑
   ⇒③尿量増加↑
     ⇒④血管-腹腔内Mg2+濃度勾配低下↓
       ⇒⑤Mg2+再吸収低下↓
         ⇒⑥尿中Mg2+増加↑
           ⇒⑦血中Mg2+低下↓

脂質加水分解促進によるMg2+の変化

①脂肪加水分解促進
 ⇒②遊離脂肪酸増加↑(-COOHなど)
   ⇒③Mg2+のキレート
     ⇒④遊離Mg2+低下↓
       ⇒⑤脂肪便につきMg2+吸収低下↓
         ⇒⑥血中Mg2+低下↓

次に血中Mg2+が低下した後のCa2+とK+の変化は以下の通りです。

K+への影響

①血中Mg2+低下↓
 ⇒②Na+-K+ ATPase活性低下↓
   ⇒③細胞内へのK+汲み取り低下↓
     ⇒④細胞外の余剰K+が増加↑
       ⇒⑤K+尿中排泄増加↑
         ⇒⑥K+低下↓

Ca2+への影響

①血中Mg2+低下↓
 ⇒②CaSR(Ca sensing receptor)活性低下↓
   ⇒③副甲状腺ホルモンPTH活性低下↓
     ⇒④Ca2+低下↓
       ⇒⑤骨からCa2+動員増加↑

周術期患者と低Mg2+

低Mg血症はICU患者で65%一般入院患者でも20%以上に達するという報告があり(Noronha JL, Matuschak GM. Magnesium in critical illness:metabolism, assessment, and treatment. Intensive Care Med 2002;28:667-679.)、少し古いですが別の報告でもICU患者で60%、一般入院患者で11%に達すると報告されています(Am J Clin Pathol. 1983 Mar;79(3):348-52.)。

上記のようにICU患者ではかなりの確率で低Mg血症がみられ、低Mg血症が無い患者と比較しても致死率は高いとされています。しかし、日常的にMgの測定は行われいないために低Mg血症が見逃されている場合も多々あることでしょう。

その上、血清Mg濃度、遊離Mg2+濃度は体内の総Mg量を必ずしも反映しているわけでもなく、血清Mg濃度や遊離Mg2+濃度が正常であったとしても体内総Mg量が欠乏していることもあります。

Mg2+に関わるイオンチャネル

前項にてMg2+が低下することでK+とCa2+が低下すると説明しました。
本項では、Mg2+に関わるイオンチャネルの話を絡めて、もう少し詳しく説明します。

Mg2+とK+

低Mg血症患者では低K血症を引き起こすということを先述しましたが、実は低Mg血症患者では40~60%程度の確率で低K血症を合併(JAMA. 1990;263(22):3063「Frequency of Hypomagnesemia and Hypermagnesemia」)、低K血症患者では50%程度で低Mg血症を合併している(J Am Soc Nephrol 18:2649–2652,2007「Mechanism of hypokalemia in magnesium deficiency」)と報告されており、Mg2+とK+は密接に関係性があるのです。

Mg2+とK+が関わるイオンチャネルが存在しています。
主にヘンレループ尿細管に発現している陽イオンチャネルで、ROMKチャネル(Renal outer medullary potassium channel)と呼ばれています。

ROMKチャネルは細胞内からK+を排泄する機能があるのですが、細胞内のMg2+はROMKチャネルの抑制因子であり、ROMKチャネルと結合することにより細胞外へのK+排泄を抑制します

逆に言えば、細胞内のMg2+が減少・・・つまりは低Mg血症になるとROMKチャネルの抑制が解除されて、K+排泄が亢進されます。これにより尿中へK+排泄され低K血症が進行するのです。

細胞膜にはNa+/K+ATPseとNKCC2が存在するので、細胞内へのK+供給は途絶えません。
Mg2+による抑制がなければ、ROMKチャネルによってどんどんK+は排泄されることになります。

低Mg2+を是正させない限り、K+を補充してもK+が改善されない治療抵抗性低K血症となることでしょう。

Mg2+とROMKチャネル
Jeroen H. F. de Baaij et al. Clin Kidney J.2012 Feb;5(Suppl 1):i15-i24.doi: 10.1093/ndtplus/sfr164.
「Regulation of magnesium balance: lessons learned from human genetic disease」

Mg2+とCa2+

次にCa2+についてです。

血清Ca2+の40%はアルブミン(ALB)などの蛋白と、10%はリン酸、クエン酸、HCO3と結合しています。残りの50%がCa2+イオンとして血中にて存在しています

生体内ではイオン化状態での存在が重要で、副甲状腺ホルモン(PTH)とカルシトリオール(1,25-(OH)2VD3)すなわちビタミンDの骨、腸管、腎臓への作用によって調節されています

Mg2+とCa2+が関わるイオンチャネルや受容体を見ていきましょう。

Mg2+とCa2+のいずれかが関わる機構として、カルシウム感知受容体(CaSR:calcium sensing receptor)、Na+/Ca2+交換体(NCX:Na+/Ca2+exchanger)、Ca2+ATPaseなどがあります。

カルシウム感知受容体(CaSR:calcium sensing receptor)

血中Ca2+を感知する受容体。Mg2+がこのCaSRを活性化している。
また、副甲状腺細胞にも存在し、PTH分泌を調整している。
CaSRの活性化でPTH分泌抑制、ROMKチャネルの抑制をする。

Na+/Ca2+交換体(NCX:Na+/Ca2+exchanger)

細胞内へNa+を、細胞外へCa2+を移動させている。

Ca2+ATPase

ATPとMg2+の存在下で細胞内へH+を、細胞外へCa2+を移動させている。

電圧依存性Ca2+チャネル(VDCC:Voltage-dependent calcium channel)

膜電位依存でCa2+を細胞内へ取り込むが、Mg2+により競合的阻害される。

Yago MD manas J Singh j front biosci 5:D602-618,2000
Mg2+を始めとした尿細管での吸収
志水英明, 藤田芳郎, 伊藤恭彦, 松尾清一,日腎会誌 2008;50(2):91-96.「カルシウム,マグネシウム代謝の考え方」

高Mg血症であっても、低Mg血症であっても低Ca血症が引き起こされます

高Mg血症の場合、CaSRと結合して活性化することでPTH分泌が抑制されて低Ca血症が引き起こされます。

低Mg血症の場合、PTHの合成は行われているものの分泌不全状態となっているようですCa2+を細胞外から細胞内へ取り込むチャネルとして、電圧依存性Ca2+チャネル(VDCC:Voltage-dependent calcium channel)が存在します。
このCa2+チャネルは通常、Mg2+により競合的阻害されますが、Mg2+が枯渇してくることによってCa2+が細胞内へ取り込まれ、CaSRと結合することになるので、恒常的にCaSRが活性化することになります。
そのためにPTH分泌が抑制され、さらに骨の PTH に対する反応性が低下することによって低Ca血症が引き起こされます。

さいごに

以上でMg2+に関する内容でした。
TRPM6やTRPM7、MgtEなどを含めたMg2+チャネルについての話もしようとしたのですが、内容が非常に難しくなる予感がして、「この記事どこに向かってるんだ?」となりそうだったのでここまでとしました。

ただ、Mg2+は活動電位での役割、心筋保護液での役割、血管の石灰化への影響などに関わってくるため取り扱いたかったのですが、1つの記事で説明できるものではないですし、plegiaに関して語るにも勉強不足ですので、今回は断念させていただきました。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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