この記事を読まれる前に、「血漿交換療法 Part1 ― PEの基本知識 ―」及び「血漿交換療法 Part2 ― 処理量の計算 ―」を先に読まれることをお勧めします。
Part1ではPEの基礎知識、Part2ではPEの処理量の計算について解説しました。
今回の記事では、アルブミン置換液の組成の設定、及びFFPの単位数の計算について解説します。
つまりは医師から「何をどれだけオーダーすればいいの?」、「FFPは何単位オーダーすればいいの?」といった疑問に対応できるようにすることを目標とします。
ただし、条件設定は施設毎に異なることが予想されますので、あくまでも一例ということをご了承ください。
アルブミン置換液の組成設定
アルブミン置換では処理量を設定したあとは、置換液の組成を決めなければなりません。
基本的には捨てた分をできるだけ同じ組成で補充することです。
特に捨てたアルブミンの量は必ず補充します。
必要分のアルブミン製剤以外はリンゲル液を補充します。酢酸、乳酸、重炭酸のどれを採用しているかは施設によるかと思いますが、当院では重炭酸リンゲル液を使用しています。
※アルブミン製剤について
採用は施設によると思いますが、25% 50[mL](12.5g)または20% 50[mL](10g)のどちらかであると思います。重要なのは1バイアル当たり何[g]のアルブミンが含まれているかです。
※補足
アンケートを実施しました、皆様ご協力ありがとうございました。
アンケートによると25%製剤が多く採用されているようですね。
本記事では25%製剤で計算を進めます。
アルブミンのバイアル量の算出
では、アルブミン製剤のバイアル数の計算をしたいのですが、必要な項目は計算した処理量(=置換液量)と患者のALB値です。
以下計算式です。※今回は院内採用のアルブミン製剤を25% 50[mL](12.5g)とします。
必要なアルブミン製剤のバイアル数は
\begin{equation}
\smallバイアル数=\frac{処理量[mL]}{100} \times{\textrm{ALB}値[\scriptsize\frac{g}{dL}}]\div{12.5[g]}
\end{equation}
となります。
※補足
計算式の解説をしますと、
①「処理量[mL] / 100」
[mL]から[dL]への単位変換です。
②「×ALB値[g/dL]」
破棄される患者の血漿に含まれるアルブミンの量の算出です。
つまり、破棄されるアルブミン量=補充すべきアルブミン量です。
③「÷12.5[g]」
②で求めた補充すべきアルブミン値から1バイアル当たりのアルブミン量で割ってあげると、必要なアルブミン製剤のバイアル数となります。今回は25% 50[mL](12.5g)を採用しています。
上記、計算結果は四捨五入ではなく切り上げです。
極端な話ですが、計算結果が「8.1」だろうが「8.9」であっても必要バイアル数は9バイアルです。
というのも、血液内で膠質浸透圧を維持している重要なアルブミンですから、治療前よりALB値は下げたくないのです。
もちろん例外はあり、患者さんの栄養状態が良くALB値が高い患者さんでは必要バイアル数が多くなりがちですので、そういう時は1バイアルくらい少なくすることがあります。
あとは稀にですが、先生から使用バイアル数抑えたいので少なめにしてくださいという依頼もあったりします。その場合は治療後患者ALB理論値を計算して、可能なら3.5[g/dL]以上、少なくとも3.0[g/dL]以上確保出来る量とします。
リンゲル液量の算出
こちらは単純です。処理量の内、アルブミン製剤のトータル分を差し引いた量です。
簡単な例を挙げます。
処理量3000[mL]、アルブミン製剤25% 50[mL]が10[V]とすると
\begin{align}
リンゲル液量&=3000-50×10\\
&=2500[mL]\\
\end{align}
となり、リンゲル液1本500[mL]だと思うので5本用意すれば良いですね。
FFP置換の単位数決定
FFPの単位数を求めるのは、さほど難しくありません。FFP1単位は120[mL]ですので、処理量を120で割ってあげれば良いです。
そして、PEで使用するFFP製剤は4単位(=480[mL])ですので4の倍数に調整するのですが、計算結果を切り上げ、切り捨てかはcase by caseです。
例題を解いてみましょう。
例題①処理量3000[mL]
3000÷120=25単位です。
先述した通り、4の倍数に調整しますが24単位で良いでしょう。
ただし、患者が重症のようでしたら、28単位にしても良いかも知れません。
PV×1.2が3000[mL](PV=2500[mL])を想定しており、28単位=3360[mL]ですのでPV換算だとPV×1.34ですので妥当な処理量と思われます。
例題②処理量4500[mL]
4500÷120=37.5単位です。
同様に4の倍数に調整しますが、36単位(4320[mL])か40単位(4800[mL])か悩ましいところですね。筆者Moegiなら40単位にするかと思いますが、PV換算(PV=3750[mL])で36単位ならPV×1.15、40単位ならPV×1.28ですので、やはり重症度に合わせて設定すると良いでしょう。
処理量設定の例題
それでは計算方法や処理量の設定方法が解ったところで、例題をこなすことで理解を深めましょう。
疾患、体重、Hct、アルブミン置換ではALB値をデモ値にて処理量を求めてみましょう。
※登場する患者モデルは筆者の経験を基とした架空の設定です。実際に対応した患者と同じ数値ではありません。
Case1
神経内科の医師より、視神経脊髄炎(NMO)患者で抗AQP4抗体陽性のためPV×1.2にて単純血漿交換(PE)の治療依頼がありました。処理量をいくらにしますか。
50代女性、体重50kg、Hct 35[%]、ALB 3.5[g/dL]です。
\begin{align}
処理量&=\small Bwt\times\frac{1}{13}\times{(1-Hct)\times}1000\times1.2\\
&=50/13\times{(1-0.35)}\times1000\times1.2\\
&=50/13\times0.65\times1000\times1.2\\
&≒3000\rm{[mL]}\\
\end{align}
と、処理量は3000[mL]と求まりました。
次に、置換液の選択ですが、NMOは自己免疫疾患であり、肝機能は正常であることが一般的です。
採血データにて肝機能を確認します。今回は正常と仮定し、アルブミン置換を選択することになります。
アルブミン製剤のバイアル数ですが、
\begin{align}
バイアル数&=3000/100\times3.5\div12.5\\
&=105\div12.5\\
&=8.4\\
\end{align}
と求まり、計算結果は切り上げのため、アルブミン製剤は9[V]であり、リンゲル液は
\begin{align}
リンゲル液量&=3000-50\times9\\
&=2550\rm{[mL]}\\
\end{align}
ですので、リンゲル液は500[mL]バッグ6本必要ですね。
以上より、PEの条件は処理量3000[mL]、置換液の組成は25% アルブミン50[mL]が9[V]とリンゲル液500[mL]バッグを6本オーダーしてもらいます。
Case2
移植外科医師より、血栓性微小血管症(TMA)患者で、PV×1.5にて単純血漿交換(PE)の治療依頼がありました。処理量をいくらにしますか。
40代男性、体重70kg、Hct 37[%]、ALB 3.7[g/dL]です。
では、型通り処理量を計算します。
\begin{align}
処理量&=\small Bwt\times\frac{1}{13}\times{(1-Hct)\times}1000\times1.5\\
&=70/13\times{(1-0.37)}\times1000×1.5\\
&=70/13\times0.63\times1000\times1.5\\
&≒5088.5\\
&≒5100\rm{[mL]}\\
\end{align}
※FFPの計算があるため、ここではまだ処理量は決定できません。仮の処理量ですので、5000[mL]など大体で良いです。
続いて、置換液の選択ですが、今回はTMAといった血小板が減少するような疾患です。
出血傾向であり、移植後の拒絶を考慮するとFFP置換を選択します。
では、FFPの単位数の計算です。
\begin{align}
\rm{FFP}単位数&=5100\div120\\
&=42.5\\
\end{align}
上記にて42.5単位と求まりました。
今回はTMAで移植後拒絶も考慮されるためしっかりと処理したいため、切り上げて44単位の処理量5280[mL]となります。
以上より、FFP-LR 44単位とPE施行であればカルチコール5[mL] 10[A]をオーダしてもらいます(※次項補足参照)。
【補足】PE施行時におけるカルシウム補給剤について
カルシウム補給剤について
Part1にて説明した通りFFPの副作用で血中Ca濃度低下がありました。
HDやHDFとの並列稼働であればCa補正をされるので問題になりませんが、PE単独施行であれば無視はできません。持続的にカルチコールなどのカルチウム補給剤を投与します。
カルチコールの準備する量の目安は、FFP-LR 4単位バッグ1本につき、カルチコール5[mL] 1[A]です。
例えば、FFP-LR 40単位であれば、カルチコール10[A]が目安ですが、実際与量はしてみると30[mL]程度と、目安よりは少なめになる印象です。
血ガスを採取しつつ、カルチコール投与量を調整し、終盤ではリバウンドを考えて少しずつtaperingしていく・・・と、この辺りは実際に症例経験を積み重ねていくものでしょうか。
さいごに
以上でPart3を終えたいと思います。
今回は処理量の計算方法と置換液の種類によっての処理量の決定方法考え方についての内容でした。Part4 治療実践編の執筆に関しては今のところ考えておりません。
手技自体は施設ごとに異なりますが、治療設定などは大きく変わることはないはずです。
需要があれば執筆しようと思います。
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