呼吸療法シリーズ「呼吸中枢と調節について」

本記事では「呼吸中枢と調節」を解説したいと思います。
正直今回はとても眠くなるような内容です(苦笑)

長期シリーズ化しそうなこの呼吸療法シリーズですが、候補のテーマがありすぎて困っています。早く、「人工呼吸器をして」と思っている方々は多いと思いますが(筆者も思っています笑)、とことん基礎からいきます。

筆者の記事では、何度も繰り返し調べて欲しい、反復して覚えて欲しいという思いから、略語などは一度だけ正式名称と共に記載するだけで、その記事内では以降は略語表記のみとします。

目次

呼吸中枢

私達ヒトは無意識下に12回程度1分間に呼吸をしています。この呼吸サイクルは延髄などを中心としている脳幹の呼吸中枢が司っています

呼吸中枢には様々な受容体が存在しています。
この記事ではそれらについて解説していきたいと思います。

延髄の働き

延髄には呼吸中枢の領域が大きく2種類存在します。

背側呼吸ニューロン群(DRG:dorsal respiratory group)

孤束核の腹側側部にあり、吸息ニューロンからなり、横隔膜や外肋間筋に分布しています。
また、後述しますが、末梢化学受容体や機械的受容体(肺伸展受容体)からの情報を迷走神経舌咽神経を通じて呼吸調整が行われていると考えられています。

腹側呼吸ニューロン群(VRG:ventral respiratory group)

疑核後疑核を中心としており、吸息ニューロン呼息ニューロンからなり、後疑核尾側部に呼息ニューロン、吻側部に吸息ニューロンが存在しています。吸息ニューロンは腹筋や内肋間筋へインパルスを送っています。疑核からは咽頭や喉頭の筋肉を支配している迷走神経舌咽神経がある。

余談ですが、VRG最吻側はpre-Botzinger complex(プレベツィンガー・コンプレックス)と呼ばれています。

延髄呼吸中枢と呼吸調整
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.43

化学的調節

生体内の酸素、二酸化炭素、pHは化学受容体により安静時、労作時ともに一定レベルに保たれています。化学受容体には中枢化学受容体末梢化学受容体が存在しています。

中枢化学受容体

中枢化学受容体は延髄に存在しており、脳脊髄液のpHH+)や二酸化炭素に反応して呼吸を調整しています。

この受容体は血液脳関門にて動脈血と隔てられています。というのは、H+やHCO3は血液脳関門を通過できず、二酸化炭素を通過させるといった特徴があります。

高二酸化炭素血症となり、脳脊髄液中へ二酸化炭素が移動し、脳脊髄液中のH+HCO3濃度が増加することで受容体が刺激され、呼吸が促進されます。

末梢化学受容体

末梢化学受容体は総頸動脈分岐部の頸動脈小体と大動脈弓の大動脈小体が存在しています。
この2つは主に酸素分圧に反応して呼吸を調節しますが、二酸化炭素分圧、pHの変化にも反応します。頸動脈小体は舌咽神経支配大動脈小体は迷走神経支配で脳幹部へ信号伝達をしています。


高二酸化炭素血症やアシドーシス進行といった病態にも頸動脈小体は反応しますが、中枢化学受容体程の反応は示しません。しかし、脳脊髄関門は存在していない分、二酸化炭素分圧、pHの変化には敏感となっています。酸素分圧低下、二酸化炭素分圧上昇、pH低下で呼吸が促進されます。

機械的調節

機械的受容体として、筋紡錘があります。横隔膜や肋間筋に存在する筋紡錘は機械的負荷に対して換気する条件を一定に保つように働きます。

末梢受容体

末梢受容体は、気道、肺血管、呼吸筋、肺などから迷走神経を介して延髄のDRGへ到達して呼吸を調節しています。

被刺激受容体

気道の粘膜内や粘膜下に存在します。迷走神経を介して、食道の異物による機械的刺激を感知し、咳嗽、くしゃみ、気管支痙攣、咽頭痙攣などが誘発されます。

J受容体

肺毛細血管近傍に存在します。ガス吸入や肺水腫などの刺激が迷走神経を介して、呼吸促進、呼吸困難感を誘発されます。

肺伸展受容体

肺が拡張されると吸息筋ニューロンの抑制により呼気を促される。逆に肺を収縮させると吸気が促されたり、呼吸数が増加したりする。これは気道内の平滑筋に存在する伸展受容体から迷走神経を介して行われており、この呼吸の周期が調節される反射をHering-Breuer反射(ヘーリング・ブロイエル反射)と呼ばれます。

まとめ

  1. 呼吸中枢
    ・延髄
    ・橋
    ・背側呼吸ニューロン群:吸息ニューロン
    ・腹側呼吸ニューロン群:主に呼息ニューロン
  2. 化学的調節
    ・中枢化学受容体:延髄に存在、脳脊髄液のpH(H+)や二酸化炭素に反応
    ・末梢化学受容体:総頸動脈分岐部の頸動脈小体と大動脈弓の大動脈小体
    ・頸動脈小体は舌咽神経支配
    ・大動脈小体は迷走神経支配
    ・酸素分圧低下、二酸化炭素分圧上昇、pH低下で呼吸が促進
  3. 機械的調節
    ・筋紡錘:換気条件を一定に保つ
  4. 末梢受容体
    ・被刺激受容体:気道の粘膜、粘膜下
    ・J受容体:肺毛細血管
    ・肺伸展受容体:気道内平滑筋の伸展受容体、ヘーリング・ブロイエル反射

最後に

以上で、「呼吸中枢と調節」は終了です。ボリューム的にはそれほど多くなかったかと思います。
この記事で一番覚えていただきたいところは、「化学受容体」と「Hering-Breuer反射」です。

そろそろ人工呼吸器の内容へ入りたいところですが、もうしばらく生理学的な内容となろそうです。
次の記事もよろしくお願いします。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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