前記事に引き続き「呼吸療法に必要な解剖生理」のパート2を記載していきます。
クドいようですが、解剖は医療従事者にとっては基礎の基礎なのでしっかり押さえるべきポイントとなります。
ではいきましょう。
呼吸器に関わる血管系
肺循環はガス交換に関与する肺動脈系(肺循環系)と肺・気管支を栄養をする気管支動脈系(大循環系)から成ります。それぞれについてまとめます。
肺循環系
肺動脈は右心室より肺動脈主幹として出た後、左右に分岐しそれぞれ左右の肺へ入り、気管支に伴走して気管支が分岐するとともに肺動脈も分岐し、毛細血管となり肺胞に到達します。
ガス交換の後、毛細血管が束ねられ肺静脈となり肺門にて左右の肺静脈が合流し左心房へ入る。
ただし、肺動脈の時とは異なり、肺静脈は気管支には伴走せず、気管支間を通って肺門へ向かいます。
気管支動脈系
気管支動脈は通常下行大動脈より分岐し、稀に肋間動脈より分岐することもあります。
通常、左右1~2本ずつ下行大動脈から分岐し、気管支に沿って肺へ入り気管支~細気管支へ栄養するが肺実質には分布しません。
気管支動脈の血流量は健常人で心拍出量の1~2%です。
気管支静脈はその走行が明らかになっていませんが、奇静脈や半奇静脈へ入り右心房へ戻るケース、右心室へバイパスされ肺静脈へ戻るケースなどがあります。
気管支動脈
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.21
リンパ系
呼吸器に関わるリンパ系は、肺内リンパ管・リンパ節、縦隔のリンパ管・リンパ節へ分けられます。
肺内リンパ流
肺の間質に漏出したリンパ液は肺胸膜直下に存在する肺胸膜直下リンパ管と深在性リンパ管の2つの経路を経て肺門へ到達します。
リンパ液は途中の肺内リンパ節を経由して肺門リンパ節へ流入します。
肺胸膜直下リンパ管
肺胸膜直下の結合組織内にリンパ管網を経由し、胸膜下を流れて肺門へ流入します。
深在性リンパ管
気管支周囲や肺血管周囲の結合組織のリンパ管網を経由して肺門へ流入します。
縦隔リンパ流
肺門に流入したリンパ液は左右の胸管を経て、両側の静脈角より静脈内へ還流します。
胸郭
胸郭は、胸壁と横隔膜から構成され、その内部の空間を胸腔(胸膜腔)と言います。
胸郭と横隔膜
山口 修「臨床工学技士のための呼吸療法ガイドブック」p.10, メジカルビュー社, 2014
胸膜と胸膜腔
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.26
胸壁
骨性胸壁と呼吸筋から構成されます。
- 骨性胸壁:胸骨、肋骨、肋骨軟骨、鎖骨、肩甲骨、脊椎骨など
- 呼吸筋:外肋間筋、内肋間筋、横隔膜など
- 横隔膜:胸部と腹部を隔てる筋肉
- 縦隔:左右の肺、胸椎、胸骨に囲まれた部分で、心臓、大動脈、気管、食道、胸腺、神経、リンパ節で構成させている
- 肋骨:胸郭上部で水平に、下部になる程斜走
胸腔
胸腔は胸膜で構成された閉鎖空間です。
胸膜は胸壁と横隔膜を内張りするように覆っている壁側胸膜と肺表面を覆っている臓側胸膜(肺胸膜)から成っています。
壁側胸膜と臓側胸膜は肺門部にてお互いに移行しています。
胸膜は常に大量の胸水を産生しており、同等量の胸水を吸収することでバランスと保っています。通常、胸腔内は常に陰圧です。
その胸腔内圧は吸気時で-4~-8cmH2O (Torr)、呼気時で-2~-8cmH2O(Torr)となっています。深呼吸や努力呼吸では-40cmH2O、努力呼気では+40cmH2Oに達します。
呼吸筋(呼吸補助筋)
呼吸は呼吸筋とその補助をする呼吸補助筋が働くことで行われます。
呼吸筋
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.28
呼吸筋
- 吸気時
安静時の吸気は横隔膜と外肋間筋の収縮によって行われます。特に安静時の呼吸量の7~8割を横隔膜が担っています。残りを外肋間筋が担っているわけです。 - 呼気時
安静時の呼気では、関与している筋肉は無く、横隔膜と外肋間筋が弛緩することにより、肺と胸郭が自然に収縮することによって行われます。 - 努力呼吸時
横隔膜と外肋間筋に加え、呼吸補助筋も使用されます。
呼吸補助筋
努力吸気時と努力呼気時を働く補助筋肉が異なるため、しっかりと押さえておきましょう。
- 努力吸気時
胸鎖乳突筋、斜角筋が収縮することで、胸郭を挙上させるように補助します。
その他に、僧帽筋、肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋があります。 - 努力呼気時
主に内肋間筋、腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)の収縮によって補助されます。
その他に下後鋸筋、広背筋、腰方形筋があります。
神経系
迷走神経と交感神経
肺には迷走神経と交感神経より神経線維の枝分かれを受けています。
迷走神経と交感神経からの遠位性神経は気管支壁と血管壁平滑筋、気管支腺の分泌細胞や気管支上皮の杯細胞に分布しています。
迷走神経が刺激を受けると、気管支平滑筋の収縮、気管支の狭窄、腺分泌亢進などを引き起こします。逆に交感神経が刺激を受けると気管支平滑筋の弛緩、気管支の拡張、腺分泌抑制を引き起こします。
内臓知覚反射
咳嗽反射
気管や気管支に何かしらの刺激を受けると咳嗽によって、刺激原因物質を気道から排除しようとする反射です。
余談ですが、気管~気管支分岐部に機械的刺激受容体、気管支には化学的刺激受容体が存在しており、それらに受けた刺激は迷走神経を経て、咳嗽中枢(延髄第四脳室)→迷走神経→交感神経→気管支壁の平滑筋の順で刺激が伝わる。それと同時に横隔神経や反回神経、肋間神経を通じて横隔膜や声帯、肋間筋へ信号が伝わり咳嗽を引き起こします。
迷走神経反射
肺や気管支に刺激を受けた際に、急激な心拍数低下、血圧低下、稀に心停止などの循環不全を引き起こす反射です。
肺迷走神経反射
呼吸のリズムと深さを調節する反射です。肺胞が一定の大きさに拡張すると、気道平滑筋の肺伸展受容体からの刺激によって吸気運動が抑制され、呼気運動に切り替わるというものです。
ヘーリング・ブロイル反射と呼ばれますね。
その他呼吸に関わる反射
次に、呼吸運動に関わる神経として、横隔膜は横隔神経、肋間筋は肋間神経に支配を受けます。横隔神経は、第3~5頸髄より出て横隔膜へ到達している。そのため、第6頸髄より下位の損傷で脊髄麻痺が生じても呼吸運動は残ります。
最後に反回神経についてです。反回神経は声帯の運動を支配する神経で、胸部の迷走神経本幹より分岐しいています。右側は右鎖骨下動脈の高さで、左側は大動脈弓の高さで迷走神経から分岐して喉頭へ繋がっています。
左右のどちらかの反回神経が麻痺または損傷を受けると声帯運動は障害され、誤嚥や嗄声を引き起こされます。稀にですが両側声帯麻痺を生じた場合は呼吸困難を来たすことがあります。
まとめ
- 呼吸器に関わる血管系
- 肺動脈は気管支に伴走し、肺動脈は気管支に伴しない
- 気管支動脈は通常下行大動脈より分岐し、稀に肋間動脈より分岐する
- 気管支動脈は左右1~2本ずつで、血流量は健常人で心拍出量の1~2%
- リンパ系
- 肺内リンパ流:結合組織からリンパ管を経由して門脈へ
- 縦隔リンパ流:肺門から左右の胸管を経て、両側の静脈角より静脈内へ還流する
- 胸郭
- 胸郭:胸壁、横隔膜から構成される
- 骨性胸壁:胸骨、肋骨、肋骨軟骨、鎖骨、肩甲骨、脊椎骨など
- 呼吸筋:外肋間筋、内肋間筋、横隔膜など
- 胸腔:胸膜で構成された閉鎖空間。壁側胸膜と臓側胸膜は肺門部にて互いに移行
- 胸腔内圧:吸気時で-4~-8cmH2O、呼気時で-2~-8cmH2O
- 呼吸筋
- 吸気:横隔膜と外肋間筋の収縮
- 呼気:肺と胸郭の自然収縮
- 努力吸気:主に胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋、大胸筋など
- 努力呼気:主に内肋間筋、腹筋(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)など
- 神経系
- 肺には迷走神経と交感神経がある
- 迷走神経の刺激:気管支平滑筋の収縮、気管支の狭窄、腺分泌亢進
- 交感神経の刺激:気管支平滑筋の弛緩、気管支の拡張、腺分泌抑制
- 咳嗽反射:咳嗽によって、刺激原因物質を気道から排除しようとする反射
- 迷走神経反射:急激な心拍数低下、血圧低下、稀に心停止などの循環不全を引き起こす反射
- 肺迷走神経反射:呼吸のリズムと深さを調節する反射→ヘーリング・ブロイル反射
- 横隔神経:第3~5頸髄
- 反回神経麻痺:声帯運動は障害され、誤嚥や嗄声を引き起す
- 稀に両側声帯麻痺を生じ呼吸困難を来たすことがある
長い長いパート2となってしましました。しかし、この解剖が終わるといよいよ呼吸療法の話に進められます。前回と次回と解剖の範囲は覚えるべきことが多く大変ですがしっかりと押さえておきましょう。
コメント