ガス分圧の基本 A-aDO2やP/F比とは?

本記事ではガス交換に関わる分圧という考えについて触れていきたいと思います。

血液内にどれだけの酸素や二酸化炭素が存在しているかという話となります。
やはり呼吸療法で必要な基礎となる内容です。

筆者の記事では、何度も繰り返し調べて欲しい、反復して覚えて欲しいという思いから、略語などは一度だけ正式名称と共に記載するだけで、その記事内では以降は略語表記のみとします。

目次

分圧とは

まず、大気中には複数の気体が存在し混合気体として存在します。混合気体全体が示した圧力を全圧と言います。

そして、ある気体1種類だけを集めたときに示す圧力をその気体の分圧と言います。
ちなみに、理想気体では、分圧の和は全圧に等しくなるとういう法則があり、ドルトンの法則と言います。
さらに分圧比はモル(mol)比と等しくなります。理想気体の状態方程式にて照明できますが、ここでは省略します。

以下に、医療ガスの圧縮空気と合成空気のガス構成についての表を示します。圧縮空気=大気のガス構成と考えていただいて結構です。特に合成空気の酸素と窒素の割合は覚えてください。

ガス組成圧縮空気(大気)[%]合成空気 [%]
酸素21(20.93)22
窒素78(78.10)78
二酸化炭素0.04
その他アルゴンなど0.93
水分少々ゼロ
塵埃稀に混入ゼロ
圧縮空気と合成空気のガス組成

空気におけるガス分圧

血液ガス分析検査、通称「血ガス」ですが、この検査は迅速に動脈血や静脈血に含まれる酸素や二酸化炭素の量、その他電解質などを知ることができます。
動脈血酸素分圧PaO2や動脈血二酸化炭素分圧PaCO2の単位は[mmHg]で示されます。
ここでは、ガス交換に関わる大気中と気道内の空気における各種ガス分圧を考えていきましょう。

大気中の分圧

上記表より、\(O_2\) 21%、\(N_2\) 79%、\(CO_2\) 0.04%とし、大気圧760[mmHg]、湿度0%とすると、

\begin{align}
PO_2&=&760\times0.21=160[mmHg]\\
PN_2&=&760\times0.79=600[mmHg]\\
PCO_2&=&760\times 0.0004=0.30[mmHg]\\
\end{align}

となります。

吸入空気におけるガス分圧

では、呼吸により気道内へ吸入された空気の各種ガス分圧はどうなるでしょうか。
気道内は37℃の飽和水蒸気圧となります。
よって、\(P_IH_2O\)=47[mmHg]となり、全圧(=大気圧)より飽和水蒸気圧分を差し引いてから吸入分圧を計算すると、

\begin{align}
P_IO_2&=&(760-47)\times0.21=150[mmHg] \\
P_IN_2&=&(760-47)\times0.79=563[mmHg] \\
P_ICO_2&=&(760-47)\times0.0004=0.29[mmHg]
\end{align}

となります。すなわち、吸入酸素濃度を\(F_IO_2\)とすると吸入酸素分圧\(P_IO_2\)は、

$$P_IO_2=(760-47)×F_IO_2$$

と表されます。

図に呼吸及び循環系の各部位のガス分圧を示します。各\(O_2\)と\(CO_2\)の分圧値は覚えておきましょう。

臓器別酸素分圧(O2カスケード:単位は[mmHg])
小野哲章, 峰島三千男, 堀川宗之, 渡辺敏「臨床工学技士標準テキスト(第2版増補)」, p29
Moegi

※もしここまで読まれて、FやIってなんだっけ?と思われた方は、こちらの記事に呼吸療法で用いられる記号及び略記号に関するルールがまとめられているので復習しておきましょう。

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PaO2の決定因子とは

ガス交換は拡散によって行われます。拡散とは濃度や圧力に差があるとき、平衡に保つ働きが生じ、高い方から低い方へ物質が移動することを言います。

\(P_aO_2\)(動脈血酸素分圧)を決定する最重要決定因子は\(P_AO_2\)(肺胞気酸素分圧)です。拡散能は二酸化炭素は酸素の20倍あるため、拡散障害が高二酸化炭素血症の原因にはなりにくいです。

「呼吸療法シリーズ 呼吸療法の基本」でも述べていますが、略記号のルールに基づき、2次記号は気体を大文字、液体を小文字で表すので、PAO2は肺胞気酸素分圧、PaO2は動脈血酸素分圧となります(肺胞=alveolar、動脈=arterial)。

\begin{align}
P_AO_2&=(760-47)×0.21ー\frac{P_aCO_2}{R}&\\
&=(760-47)×0.21ー\frac{40}{0.8}&\\
&=99.7&\\
&≒100[mmHg]&
\end{align}

と求めることができます。これが、健常者の\(P_aO_2\)の正常値の証明計算ですね。

分圧から考えるガス交換

図1の混合静脈血酸素分圧\(P_\bar{V}O_2\) 40[mmHg]、混合静脈血二酸化炭素分圧 \(P_\bar{V}CO_2\) 46[mmHg]と肺胞の\(P_AO_2\) 100[mmHg]、\(P_aO_2\) 40[mmHg]からその分圧差は

\begin{align}
酸素:P_AO_2 – P_\bar{V}O_2 &=100-40\\
&=60[mmHg]
\end{align}

\begin{align}
二酸化炭素:P_ACO_2 – P_\bar{V}O_2 &=40-46\\
&=-6[mmHg]
\end{align}

となり、酸素は肺胞から血液へ60[mmHg]、二酸化炭素は血液から肺胞へ6[mmHg]の分圧勾配により拡散、つまりガス交換が行われることになります。

ガス交換分圧(単位は[mmhg])
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.25

A-aDO2

皆さんは臓器別酸素分圧の図を見て、何か疑問に思うことはありませんでしたか。というのも、\(P_AO_2\)が100[mmHg]であるのに対し、\(P_aO_2\)は95[mmHg]を示していることに疑問を持っていただきたかったからです。

臓器別酸素分圧(O2カスケード:単位は[mmHg])
小野哲章, 峰島三千男, 堀川宗之, 渡辺敏「臨床工学技士標準テキスト(第2版増補)」, p29

理論的には酸素分圧は平衡状態に達したとき、\(P_AO_2\)=\(P_aO_2\)となるはずです。この\(P_AO_2\)と\(P_aO_2\)の格差を肺胞気-動脈血酸素分圧格差 \(A\textrm-a DO_2\)といい、下記式で表されます。

$$A\textrm-aDO_2=P_AO_2-P_aO_2$$

\(A\textrm-aDO_2\)は、肺胞気から血液へ酸素が移行する際に生じるガス交換障害を示します。正常値は10[mmHg]以下です。ガス交換障害には、換気血流不均等分布、シャント効果、拡散障害の3つ存在しますが、書き出したら、1つの用語ごとに1記事かけてしまいます。詳しくは別の記事で記載したいと思いますので、今回は用語だけ覚えてください。

P/F ratio(P/F比)

先程の\(A\textrm-aDO_2\)は大気を吸っているときのガス交換障害の指標となりますので、酸素吸入や人工呼吸器などの呼吸療法中に使用できません。そこでよく使用されるのが\(P_aO_2\)と\(F_IO_2\)から求められるP/F ratio(P/F比)という指標です。

P/F ratio(P/F比)は\(P_aO_2\)を\(F_IO_2\)で割ると求められます。例えば、健常人について、\(F_IO_2\)から求められるP/F ratio(P/F比)という指標です。が大気=0.21であり、\(P_aO_2\)が95%であるためそのP/Fは

$$\frac{P}{F}=\frac{95}{0.21}=452$$

となります。急性呼吸不全である、急性肺障害(ALI)はP/Fが300以下、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は200以下となる。私の勤める病院ではほとんどP/F 300以下で、ICUで長期化してる患者はP/F 200前後であることが多いですね。

まとめ

  1. 分圧
    • \(P_aO_2\):動脈血酸素分圧
    • \(P_aCO_2\):動脈血二酸化炭素分圧
    • \(P_IH_2O\):気道内水蒸気圧=47[mmHg]
  2. 各部位の血ガス正常値
    • 吸気:\(P_IO_2\)=150、\(P_ICO_2\)=0.3
    • 肺胞気:\(P_AO_2\)=100、\(P_ACO_2\)=40
    • 動脈血:\(P_aO_2\)=95、\(P_aCO_2\)=40
    • 混合静脈血:\(P_\bar{V}O_2\)=40、\(P_\bar{V}CO_2\)=46
  3. A-aDO2
    • 正常値は10[mmHg]以下
    • ガス交換障害の指標
    • 換気血流不均等分布、シャント効果、拡散障害に影響する
  4. P/F ratio(P/F比)
    • 肺のガス交換の指標
    • 正常値は450[mmHg]前後
    • P/F 200以下は重篤な呼吸状態であり、ARDSと呼ばれる。

以上、ガス交換に関する基礎事項でした。試験に合格するためには単に正常値を覚えるだけで良いですが、臨床の現場で本当に理解するにはその正常値がどのように導かれているかを考えて理解を深めるのが良いと考えます。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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