ガス運搬と酸素解離曲線について

本記事では、「ガス運搬と酸素解離曲線」を解説したいと思います。
酸素解離曲線は呼吸不全の考えでとても大切な内容です。
まだまだ呼吸療法を理解するための基礎の内容となります。
基礎だからこそ重要です。

筆者の記事では、何度も繰り返し調べて欲しい、反復して覚えて欲しいという思いから、略語などは一度だけ正式名称と共に記載するだけで、その記事内では以降は略語表記のみとします。
特に呼吸療法に頻出の略語については「呼吸療法シリーズ 呼吸療法の基本」を参照ください。

目次

酸素の運搬

血液中の酸素は、結合酸素(化学的溶解)溶存酸素(物理的溶解)の2種類の形で存在します。
呼吸療法においては結合酸素の方が重要となります

結合酸素

結合酸素は、血液中のヘモグロビン(Hb)と結合した酸素を示します。

Hbは分子量約64500の蛋白質で1つのHbに鉄原子を含むヘムが4つあり、Hb1分子につき酸素4分子が結合できます。このHb1[g]あたりの酸素結合能力は1.39[mL/g]ですが、生体内におけるHbは、メトヘモグロビンや一酸化炭素ヘモグロビンが存在するため、酸素結合能力は1.34[mL/g]です。

酸素結合能力はHb濃度と動脈血酸素飽和度\(S_aO_2\)に比例します。ちなみに、ミオグロビンはミオグロビン分子1つに酸素分子1つのみ結合します。

溶存酸素

溶存酸素は、物理的に血液中に溶解している酸素を示します。

こちらは単純に動脈血酸素分圧\(P_aO_2\)に比例し、37[℃]の血液に対しての溶解係数は0.003です。よって、1気圧の大気下では血液100[mL]中の溶存酸素量は

\begin{align}
溶存酸素量[mL]&=0.003\times{P_aO_2}\\
&=0.003\times{100}\\
&=0.30[mL]
\end{align}

となります。

動脈血酸素含量 \(C_aO_2\)

100mLあたりの動脈血酸素含量 CaO2は以下の式で表されます。

\begin{align}
C_aO_2[mL]&=結合酸素量+溶存酸素量\\
&=1.34\times{Hb濃度}\times{\frac{S_aO_2}{100}}+0.003\times{P_aO_2}\\
\end{align}

仮にHb:15[g/dL]、\(S_aO_2\):98[%]、\(P_aO_2\):100[mmHg]の条件では\(C_aO_2\)は約20.7[mL/dL]です。

上記の式より、溶存酸素量は結合酸素量に相対してわずかな量しかないことが分かります。
そのため、吸入させる酸素濃度 \(F_IO_2\)を上げることよりも、血液中Hb濃度を上げることが重要となります。

酸素飽和度 \(SO_2\)

Hbは酸素と結合したoxy-Hb(オキシヘモグロビン、酸化ヘモグロビン)と、酸素と結合していないdeoxy-Hb(デオキシヘモグロビン、還元ヘモグロビン)があります。

ご存じの通り動脈血の鮮血色はoxy-Hb、静脈血の暗赤色はdeoxy-Hbの色となります。

動脈血中のoxy-Hbの割合を動脈血酸素飽和度 \(S_pO_2\)といい、現場では「サチュレーション」や「サーチ」と呼んでいます。次の式で表されます。

\begin{align}
SpO2=\frac{oxy\textrm-Hb濃度}{Hb濃度}\times{100}
\end{align}

動脈血酸素飽和度\(S_aO_2\)(\(S_pO_2\))の正常値は98[%]前後、混合静脈血酸素飽和度\(S_\bar{V}O_2\)の正常値は75[%]前後です。

二酸化炭素の運搬

一旦、酸素の話から離れます。二酸化炭素は酸素同様に物理的溶解とHbと結合して運搬されますが、二酸化炭素に関しては運搬される二酸化炭素の80[%]はイオンの形として運搬されます。動脈血100[mL]中の動脈血二酸化炭素含量\(C_aCO_2\)は約49[mL]です。

物理的溶存

酸素よりも溶存量が多く、動脈血100[mL]中に約2.6[mL]です。

化学的溶存

運搬される25%の二酸化炭素は、ヘモグロビンのNH2基と結合し、カルバミノHbとして存在します。このカルバミノHbは、Hbと酸素の親和性に関与し、酸素運搬を効率化させると言われています。

重炭酸イオン \(HCO_3^-\)

各組織から血液中へ移動した二酸化炭素は赤血球中へ拡散したのちに炭酸脱水酵素により

\begin{align}
CO_2+H_2O → H_2CO_3 → H^++HCO_3^-
\end{align}

の反応が進みます。そして、肺胞へ運ばれた\(HCO_3^-\)は上記と逆反応が起きて\(CO_2\)が呼気中へ排出されます。

酸素解離曲線

お待たせしました、今回のメインテーマの「酸素解離曲線」です。酸素解離曲線は、\(S_aO_2\)と\(P_aO_2\)の変化を表したグラフとなり、試験にもよく出題されますね。以下の図に示すのが酸素解離曲線です。

酸素解離曲線

例えば、\(P_aO_2\) 100[mmHg]のときは、\(S_pO_2\) 98[%]前後を示します。特に重要なのは\(P_aO_2\)60 [mmHg]のとき、\(S_pO_2\)90[%]を示すことです。

酸素解離曲線から考える呼吸不全の定義

\(P_aO_2\)60[mmHg]以下は呼吸不全の定義でもあります。

これは酸素解離曲線の特性上、\(P_aO_2\)100 → 60[mmHg]へ変化しても\(S_pO_2\)の変化は98 → 90 [%]の低下で済みますが、これが\(P_aO_2\) 60 → 40[mmHg]変化すると\(S_pO_2\)は90 →75[%]まで低下してしまうため、すぐに処置が必要となる状態です。

大事なことなので繰り返しになりますが、\(S_pO_2\)90%前後の患者さんは\(P_aO_2\)を注意深く観察する必要があります。

なお呼吸不全についてはこちらの記事で詳しく解説していきます。

【補足】アロステリック効果について

\(S_pO_2\)と\(P_aO_2\)の関係グラフはイメージ的には、\(P_aO_2\)に比例して\(S_pO_2\)が直線的に上昇するグラフを想像されるかと思われますが実際にはS字状曲線を描きます。

これはHbが酸素分圧の高いところでは1つの酸素分子が結合するとその他の酸素との親和性が上昇し、結合する反応が加速することと、逆に酸素分圧が低いところでは飽和状態からHbが酸素分子を1つ放出すると残りの酸素を次々に放出されるという特性を持っているためにS字状曲線を描きます。

この特性をアロステリック効果と呼びます。

Bohr効果(ボーア効果)

標準酸素解離曲線は1[atm]、37[℃]、pH:7.40、PaCO2:40[mmHg]の条件下のグラフです。

以下のの条件が変化することで曲線全体が左右にシフトして、Hbと酸素の親和性が変化します。この現象をBohr効果(ボーア効果)と呼ばれます。ここは試験頻出ですので押さえてください。

Bohr効果
  • 左方シフト(酸素親和性上昇):体温低下、pHの上昇、\(P_aCO_2\)減少、2,3-DPG減少
  • 右方シフト(酸素親和性低下):体温上昇、pHの低下、\(P_aCO_2\)増加、2,3-DPG増加

二酸化炭素解離曲線

こちらは完全に余談となります。教科書、参考書には注釈程度で記載されている内容です。呼吸療法認定士テキストではグラフまで記載されています。

二酸化炭素解離曲線は、\(P_aCO_2\)と\(CO_2\)含有量(\(HCO_3^-\)濃度や総炭酸濃度など)の関係を表した曲線になります。

二酸化炭素解離曲線
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.41

二酸化炭素解離曲線は、脱酸素化した、つまりは酸素濃度が低下した血液はより二酸化炭素を運搬でき(上方シフト)、逆に酸素濃度が上昇した血液は二酸化炭素運搬能力が低下(下方シフト)します。

つまりは、当然のことのようですが、動脈血より静脈血の方が二酸化炭素含量が多くまります。

二酸化炭素解離曲線の酸素分圧によるシフト
3学会合同呼吸療法認定士認定委員会, [第15回3学会合同呼吸療法認定士] 認定講習会テキスト, p.48

まとめ

本記事を簡単にまとめます。

  1. 酸素の運搬
    ・溶存酸素:酸素分圧により血液中に溶解した酸素
    ・結合酸素:ヘモグロビンと結合した酸素
  2. 酸素飽和度 \(SO_2\)
    ・oxy-Hb(オキシヘモグロビン、酸化ヘモグロビン)と酸素と結合し、鮮血色
    ・deoxy-Hb(デオキシヘモグロビン、還元ヘモグロビン)酸素と結合しておらず暗赤色
    ・動脈血酸素飽和度\(S_aO_2\)の正常値は98[%]前後
    ・混合静脈血酸素飽和度(S_\bar{V}O_2\)の正常値は75[%]前後
  3. 二酸化炭素の運搬
    ・物理的溶存:酸素より多く溶解できる
    ・化学的溶存:カルバミノHb
    ・イオン化:重炭酸イオン \(HCO_3^-\)
  4. 酸素解離曲線
    ・\(P_aO_2\) 60 [mmHg]のとき、\(S_pO_2\)90[%]地点が重要
    ・左方シフト(酸素親和性上昇):温度低下、pHの上昇、PCO2減少、2,3-DPG減少
    ・右方シフト(酸素親和性低下):温度上昇、pHの低下、PCO2増加、2,3-DPG増加

最後に

いかがでしたか。今回のテーマは試験に良く出題される内容だと思います。
特に酸素含有量の計算式や酸素解離曲線は頻出かと思います。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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