JETSTREAM ― 大腿膝窩動脈(FPA)高度石灰化病変の治療 ― 【適正使用指針編】

本記事では、2023年8月より販売されることになった「JETSTREAM Atherectomy System(ジェットストリーム アテレクトミー システム)」について紹介していきたいと思います。

施設基準や医師要件などがあり、最新デバイスということもあり、まだまだ導入されている施設は少ないと思います。

まだまだ販売間もないといっていいこの最新デバイスを当サイト「CEじゃーなる」が解説します。

目次

JETSTREAMとは

正式名称を「JETSTREAM Atherectomy System(ジェットストリーム アテレクトミー システム, 以下JETSTREAMとする)」といい、高度石灰化病変の下肢EVTにて使用するdebulkingデバイスです。

「アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル」ということですが、これまではdebulkingデバイスとして、DCA(一方向性冠動脈アテレクトミー)、Rotablator(高速回転アテレクトミー:Rotational Coronary Atherectomy)、Diamondback(OAS:Coronary Orbital atherectomy)、Shockwaveなど販売されていますが、coronary用しか登場しておりませんでした

このJETSTREAMはRotablatorと似たようなデバイスです。

Rotablatorについて、欧米では下肢動脈への使用が認可されていますが、日本ではcoronaryにのみ使用ができるのが現状でした。

今回JETSTREAMが登場したことは非常に喜ばしいことだと思います。

debulkingとは・・・

debulking(デバルキング)とは、「石灰化病変の除去」を意味するのですが、要は石灰化によってバルーンやステントなどが通過できないので、石灰化している動脈硬化を取り除くことで、バルーン拡張やステント留置を可能にします。

【RESCUE BTK治験】
下肢EVTでのRotablatorの認可が下りていないため、EVTでも使用できるようにRESCUE BTK治験という重症虚血肢に対するRotablatorの有効性を評価する医師主導型治験が2018年から開始されていました。

本品(JETSTREAM)は2021年10月26日に浅大腿動脈(SFA)および/または近位膝窩動脈(PPA)の重度石灰化病変(ステント内病変を除く)を対象とした国内初の回転式アテローム切除術システムとして薬事承認を取得、2022年9月に新区分(C1)にて保険収載されました。

その後、販売に必要なすべての要件が満たされ販売されています。

アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル『ジェットストリーム アテレクトミー システム』を販売開始
~重度石灰化病変に対する治療選択拡大への期待~:https://www.bostonscientific.com/jp-JP/news-releases/2023-news-releases/2023-8-7-news-release.html

原理

JETSTREAMの先端に放射状に配置されたブレード(エクスパンダブルブレード、ディスタルカッター)が1分間当たり7万回転程度のスピードで回転します。

Rotablatorと同様で、動脈硬化病変などの極めて硬い組織のみが選択的に粉砕され,柔らかい弾性組織は切除されないという、いわゆるdifferential cuttingの原理で切除しています。

回転のモーター駆動は、Rotablatorは窒素ボンベが必要であるが、JETSTREAMは電気的エネルギーのみでモーターを回転させています。

また、Rotablatorと異なる点として、灌流注入ポートと吸引ポートが存在し、治療部位の粘性を下げて吸引を容易にし、同時に切削片を機械的に吸引して回収することが可能です。

JETSTREAM原理:Boston社提供資料

JETSTREAMが使用可能な血管は?

JETSTREAMは下肢血管用のdebulkingデバイスですが、全ての下肢血管に使用できるわけではありません
関連学会とメーカーが作成している適正使用指針を確認するようにしてください。

添付文書を参照/引用しますと、JETSTREAMが使用可能な血管は以下の通りで、

浅大腿動脈SFA:superficial femoral artery)及び/又は近位膝窩動proximal Pop.A:popliteal artery)において、重度石灰化病変を有し薬剤塗布型バルーン治療の前拡張に使用する経皮的血管形成術用バルーンカテーテルが不通過又は拡張困難な病変(ステント内を除く。)に対し、固いアテローム塊や狭窄病変を除去することで、前拡張を容易にする目的で使用する。

とありますので、

Iliac(腸骨動脈)とCFA(総大腿動脈)、そしてBK領域は適応外

ということになります。

Moegi

BKに関してはRotablatorの治験も実施したことですし、Rotablatorにて適応になればと思っています。

JETSTREAMの適応病変は?

適応病変に関しては、上記の添付文書引用より、

重度石灰化病変を有し、薬剤塗布型バルーン治療の前拡張に使用する経皮的血管形成術用バルーンカテーテルが不通過又は拡張困難な病変(ステント内を除く。)

となっております。

CVITが公表している適正使用指針では、

大腿膝窩動脈の狭窄病変、再狭窄病変又は閉塞病変への血管内治療において、アテレクトミーデバイスによる
治療が適切と考えられる病変、

つまり、重度石灰化を有し、至適サイズバルーン不通過またはバルーン拡張後に残存狭窄が50%以上になると想定される病変

とされています。

双方「重度石灰化病変」の具体性が示されていませんが、ちゃんと適正使用指針で基準がありますのでご安心を。

重度石灰化の定義

狭窄度70%以上、かつ術前の血管造影評価により血管の両側に石灰化病変が確認できる

ただし、上記の重度石灰化の定義を満たせば全ての病変でJETSTREAMを使用できるわけではありません。

JETSTREAMを適応するにあたっての留意事項は次の通りです。

  • 国内臨床試験では、DCBとの併用を標準的な使用方法として実施されたことから、本品は重度石灰化病変にDCBを使用する目的として使用すること
  • 国内臨床試験では、150mmを超える病変に対する本品の有効性、安全性は評価されていない
  • 非重度石灰化病変部を通過する際には、遠位塞栓等の発生リスクが上昇する可能性がある。
  • 「プライマリーのステント治療」を想定した本品の有効性・安全性は評価されていない

J-SUPREME II (J-SII)臨床試験
上記で「国内臨床試験」で示している臨床試験です。
詳細は割愛させていただきますが、JETSTREAMの安全性と有効性を評価するための臨床試験です。

【添付文書】
JETSTREAM Atherectomy System(ジェットストリーム アテレクトミー システム)

大腿膝窩動脈用アテレクトミーデバイスとDCBとの併用

高度石灰化を有している大腿膝窩動脈(FPA:femoropopliteal artery)のEVT(endovascular therapy)は、石灰化により病変部の拡張不全(残存狭窄)やPOBA後の重篤な解離が生じやすいので、治療が難渋するcaseが多いだけでなく、初期及び遠隔期成績の低下が報告されています

近年、薬剤コーティングバルーンDCB:drug-coated balloon, 以下DCBとする)がいくつか発売されていますが、DCBは血管内に異物を残さないことにより、stent留置など次の治療選択肢を制限することなく、再狭窄率を低減する治療として承認され実臨床で使用されています

しかしながら、重度石灰化病変への使用は、前拡張後の拡張不全がDCB治療成績に悪影響を及ぼすことより、現在本邦では治療対象から除外されています

以上などの背景から、重度石灰化病変に対し、アテレクトミーデバイスを用い病変部を切削し、DCBの拡張不良や薬剤送
達の改善から治療成績向上が期待されています

※JETSTREAM適正使用指針より引用

【適正使用指針】
ジェットストリーム アテレクトミー システムの適正使用指針

Moegi

現在、国内で販売されているDCBは、Ranger(Boston Scientific社)、Lutonix(Becton Dickinson社)、IN.PACT Admiral(Medtronic社)ですね。

医師要件

JETSTREAMを取り扱うにあたり、医師に求められる要件です。

  • 日本心血管インターベンション治療学会認定医日本IVR学会専門医日本血管外科学会認定血管内治療医のいずれかであること
  • 本製品についての研修プログラムを受講していること
  • 末梢閉塞性動脈疾患に対する血管内治療の経験を有する医師が使用する

施設要件

JETSTREAMを取り扱うにあたり、施設に求められる要件です。

  • 日本心血管インターベンション治療学会認定研修施設・研修関連施設、IVR専門医修練施設、心臓血管外科専門医認定機構認定修練施設のいずれかであること
  • 手術室または血管造影室にDSA装置が常設されている体制を有すること
  • アテレクトミー、バルーン拡張術に伴う合併症に対して、外科との連携による緊急時の体制が整っている医療機関であること

JETSTREAM使用における注意点

JETSTREAMを使用する上で気を付けなければならないのが、本機器を使用する症例ではstent留置は保険適応とならず、DCBを使用しなければなりません

JETSTREAMの使用における禁忌・禁止事項は以下の通りです。

適応患者
  • ナイチノールステンレス鋼その他のステント材料又は造影剤に対する管理不能なアレルギーのある患者
  • 適切な抗血小板療法を受けられない患者
    →血栓症を発症するおそれがある
使用方法
  • 灌流液を加温して使用しないこと
    →カテーテルのアウターシースのしわや膨張、破裂を引き起こし、患者の傷害を招くおそれがある。
  • 本品と互換性のある指定のガイドワイヤ及びシースイントロデューサのみを使用すること
    →互換性のないデバイスを使用すると、本品が損傷したり、性能が損なわれたりするおそれがある。
  • トイボーストバルブ(回転式止血バルブ)をシースイントロデューサと併用しないこと。
  • 再使用禁止、再滅菌禁止

さいごに

以上で、大腿膝窩動脈用アテレクトミーデバイス「JETSTREAM」の適正使用についての解説でした。

続編として次回は、コンソールやデバイスのスペック、CEの業務として関係してくるコンソールのセッティングなどについて触れていきたいと思います。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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