血液浄化の記事は、他のブロガーさんが先行して執筆されているため、競合しますし差別化を図るために中々進められずにいました。
しかし、先月、当ブログが分かりやすい、見やすいとユーザーさん同士で紹介していただいたり、「血漿交換についてのブログを期待しています」とのご意見を頂戴しましたので、血液透析などに先行して執筆となりました。
といっても、Moegiは慢性期よりは急性期血液浄化の専門のため、血液透析(HD)や血液透析濾過(HDF)などの慢性期血液浄化とは別で執筆を進めても良いかもしれません。
では、本題へ。血漿交換療法(PE)ですが、透析室だけではなくICUやPICUでも施行されることがあります。これ故に看護師さんや医師だけではなく、今回の希望元のように薬剤師さんからも質問を受けることがあります。質問には出来るだけ詰まらずに答えたいものですね。(可愛い薬剤師さんに良いとこも見せたいと思いませんか?いえ、見せましょう!!)
本記事では、「PEとは何ぞや」、「ターゲットは?分子量は?」「アルブミン置換とFFP置換の使い分けは?」などの疑問を解決していただければと思います。
血漿交換療法とは
生体にとって病因物質となっている不必要な成分を除去するための治療です。
「血漿交換」広義の意味では、つまり【診療点数上での表記】では「血漿と血漿以外とを分離し、二重濾過法、血漿吸着法等により有害物質等を除去する療法を行った場合に算定出来る物であり、必ずしも血漿補充を要しない」となっております。
というのも、あまりアフェレシス領域に詳しくない先生方が「血漿交換」と言うと、単純血漿交換療法(PE)、二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)、免疫吸着療法(IAPP or PA)、LDL吸着(LDL-A)のことを示すこともありますので、混乱の原因になるかもしれません。カルテの「血漿交換」という表記だけをみて単純血漿交換療法(PE)であると判断してはいけません。
私達CEが血漿交換というと「単純血漿交換療法(PE)」を示します。
この記事ではPEについての解説とさせていただきます。
単純血漿交換療法(PE:plasma exchange )
PEでは、病因物質を含んだ血漿を血漿分離器を使用して血液回路から分離して破棄し、破棄した血漿分を置換液として補充するといった治療となります。つまり、in – outという意味ではプラマイゼロです。
PEは血液から分離した血漿をそのまま破棄するため、メリットとしては病因物質を丸ごと除去出来ますが、デメリットとして生体に有用な物質まで破棄してしまうという点にあります。
病因物質だけ選択的に除去出来る二重膜濾過血漿交換療法(DFPP)がありますがICUで管理される患者は複雑な病態であることも多いので、DFPPはせずにPEを実施することがほとんどのはずです。
筆者Moegiは5年以上集中治療にも関わっていますが、ICUにてDFPPを実施したのは1名だけでした。それも病態というよりは、ある理由で鎮静管理をしないとDFPPが安全に施行できないと判断されたため透析室ではなくICUでの施行となりました。
ですので、ICUではDFPPをすることは、ほぼ無いと考えて良いです。
ターゲット物質と分子量
ターゲット物質
不規則抗体や抗○○抗体といった抗体類が主にターゲットとなります。もう少し詳細に言いますと、主にIgG、次にIgMといった免疫グロブリンがターゲットです。他にもアルブミン結合した病因物質なども対象なることも考えられますが、基本的にはIgG、IgMと思っていただいたら結構です。
【抗○○抗体の例】
・視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)抗AQP4抗体
・重症賞筋無力症(MG):抗MuSK抗体
・重症筋無力症(MG):抗AChR抗体
※実際の現場では、抗体の種類によって、PEをするかIAPP(免疫吸着療法)をするかを判断しなければならないので、代表的な抗体名は知っておくと良いです。
分子量
次に「ターゲットの分子量」はとても重要なのですが、主なターゲットとなるIgG、IgMの分子量は、IgGは15万[Da]、IgMは95万[Da](〜100万[Da]で覚えていただいて結構です)となります。
つまり、IgGやIgMを除去するということは、血液内成分で最も重要な成分の一つであるアルブミン(分子量66,000[Da])も破棄されてしまうということです。
それ故に、PEではアルブミン製剤やFFPの置換液が必須となります。
ICUで薬剤師さんや先生は、投与する薬剤が抜けてしまうかどうかがを気にされるため、質問されることは時折あります。薬剤自体はそんなに分子量が大きくなく、またアルブミン結合するものが多いため、大抵の薬剤は除去してしまいます。
重要な薬剤を投与する際はPE終了後に投与するように依頼するようにすると良いですね。
置換液の選択
「アルブミン置換? or FFP置換?」
ここがこれからアフェレシスを始めるCEさんや学生さんが1番知りたいところだと思います。
PEの治療をするにあたって最も大事なのは置換液の選択ではないでしょうか。
いつも実習生や新人に教える方法で解説します。
アルブミン製剤と新鮮凍結血漿(FFP:fresh frozen plasma)では何が大きく異なるでしょうか(正確には異なりますが電解質は同等とします)。
それは「凝固因子」の有無です。
もちろん、FFPにはクエン酸Naが添加さてているだとかありますが、置換液の選択では「凝固因子」の有無が重要となります。
では、どういった疾患にどちらの置換液を使用するのでしょうか。
それは、その患者に肝機能障害があるかどうか、または出血傾向があるかどうかで判断します。
PEの治療担当を繰り返していくうちに解ってくるとは思いますが、イメージとしては神経内科から依頼される自己免疫疾患系はアルブミン置換、ICUから依頼のある肝不全や膠原病などはFFP置換をします。
FFP置換
FFPは献血で採取したヒトの血漿です。表記的には「FFP-LR 240」といった感じとなっており、「LR(leukocyte reduced)」は採取後速やかに白血球除去をしたという意味であり、数字はそのパックに何[mL]入っているかを示します。1単位120[mL]で、PEでは4単位480[mL]パックを使用するのが一般的かと思います。
FFP-LR 240mL製剤バッグ
日本赤十字社:https://www.jrc.or.jp/mr/blood_product/about/plasma/
血液の成分であるため凝固因子を有しているため、凝固しないようにクエン酸Naが添加されてます。
クエン酸は血中Caと結合してしまうためFFP置換中は低Ca血症に注意し、Ca製剤を適切に使用します。
また、融解後は再凍結は出来ないため、もし治療中止や中断になると破棄しないといけないため、治療計画はしっかりと立てましょう。
以下、FFP置換のメリット、デメリットです。※重要
・凝固因子の補充が出来る
・免疫グロブリンの補充が出来る
・アレルギー反応→最悪アナフィラキシーショックへ
・未知のウイルス感染
・輸血関連急性肺障害(TRALI)
・低Ca血症
・アルブミン置換に比べ、コストがかかる
アルブミン置換
FFP同様にヒト由来ですが、エタノール分画法と液状加熱法(パスツリゼーション法)にて純度の高いアルブミンが分離精製されます。
アルブミン製剤販売から現在までウイルス感染の副作用は報告なく、私が10年弱実際にPEを見てきて、アルブミン製剤が原因の副作用らしい副作用は認めていません。
25%ALB製剤
日本血液製剤機構:https://www.jbpo.or.jp/med/di/product/alb/photo/
以下、アルブミン置換のメリット、デメリットです。※重要
・アレルギー反応が少ない
・感染のリスクが低い
・その他副作用が出現しにくい
・FFPに比べ、コストを抑えられる
・凝固因子の補充が出来ない
・免疫グロブリンの補充が出来ない
・むしろ、凝固因子を廃棄してしまう
さいごに
ER・ICU診療を深めるリアル血液浄化 シリーズ
ER・ICUで血液浄化を行う上で、これほど分かりやすいテキストは正直他にないです。理屈やその分野の歴史・背景なども詳細に書かれているため、順序立てて理解しやすいと思います。
以上で血漿交換パート1を終わります。今回は「PEとは?」、「置換液の特徴は?」、「置換液の使い分けは?」といったところの解説でした。
パート2は置換液量や治療条件の設定に触れたいと思います。
パート2「血漿交換療法 Part2 ― 処理量の計算 ―」はこちら。
コメント