レオカーナとは ASO/CLI治療の新たな可能性

この度は筆者の透析施設にて「レオカーナ」という最新の血液浄化器を使用する機会を得たため、自分自身の勉強も兼ねてまとめていきたいと思います。

目次

はじめに レオカーナの概略

レオカーナとは?

「レオカーナ」は令和2年8月に製造販売が承認された最新の血液浄化器です。
吸着式血液浄化用浄化器(閉塞性動脈硬化症用)として令和3年3月1日より保険適用が開始されています。

使用目的は?

血行再建術が不適応なASO(特にCLI)における潰瘍の改善を目的に使用されます。

レオカーナのメリットは?

血液吸着療法(hemoadsorption;HA)であるため、(透析コンソールさえあれば)特別な装置を必要とせず、透析クリニックでも施行可能な点が最大のメリットだと考えます。

HAのことを別称で「直接血液灌流法(direct hemoperfusion;DHP)」とも呼びます。
以下略語はDHPで統一しています。

ASO・CLIとはなにか【LEAD・CLTI】

詳しくはこちらの記事で紹介しております。併せてご参照ください。

編集部

記事執筆当時はまだASO・CLIが主流のイメージでしたが、最近ではLEAD・CLTIという呼び方にトレンドが変化しています。

レオカーナの適用条件

レオカーナの適用患者は2022年04月現在、「血行再建術不適応な潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症患者(フォンテイン分類Ⅳ度)」に対してのみ保険が適用されます。

閉塞性動脈硬化症(ASO)及び血行再建術不適応な患者とは

  • 解剖学的困難(不適用)
  • 血行再建術が手技的に不成功(不応答)
  • 血行再建術が臨床的に不成功(不応答)
  • その他の理由(不適用)

血行再建術とは大まかにいうとカテーテル治療やバイパス術のことを指します。

記事執筆時点で膝下(BK;below-the-knee)領域に対する認可されたステントを使用する施設は現状なく(※1)、このBK領域にはバルーン拡張(POBA)が主流になっているのが実情です。

(※1)訂正と追記:記事の文言の訂正につきまして(2023.04.25)

※こちらの記述について「膝下(BK;below-the-knee)領域に対する認可されたステントを使用する施設は非常に限られており」と記載しておりましたが、読者からの指摘があり、改めて調べ直しましたが、国内での治験や保険適応は今の所ありませんでした
訂正してお詫び申し上げます。

とはいえ英語ソースの上の機械翻訳ですのであまり自信はないのですが、海外では膝下領域に対するステントに関する論文がいくつかあります。

本題のレオカーナとはだいぶ逸れるため、トグル下での解説です。また引用が少ない、情報に抜けが多い等というご指摘も受けましたのでこの際少し引用します。

In a 2009 systematic review, data were pooled from 18 nonrandomized studies comprising 640 patients who had below-the-knee (BTK) stent implantation at experienced centers; 232 had balloon-expandable BMSs, 116 self-expanding BMSs, 272 balloon-expandable drug-eluting stents (DESs), and 20 bioresorbable stents.
(中略)
BMSs are effective in treating residual stenosis, elastic recoil, and dissection after PTA, but they do not result in improved long-term patency due to significant restenosis.The State of Stenting in Below-the-Knee Applications
https://evtoday.com/articles/2021-may/the-state-of-stenting-in-below-the-knee-applications

Available data from randomized controlled trials and their meta-analysis demonstrated that the use of infrapopliteal drug-eluting stents (DES), in short- to medium- length lesions, obtains significantly better results compared to plain balloon angioplasty and bare metal stenting with regards to vascular restenosis, target lesion revascularization, wound healing and amputations.
(中略)
Moreover, there is still little evidence on whether this technology can be as effective for longer BTK lesions, where a considerable number of DES is required[20,21]. The development and investigation of new, longer balloon-expanding or perhaps self-expanding DES could be the answer to this problem.
Revisiting endovascular treatment in below-the-knee disease. Are drug-eluting stents the best option?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6259030/

またどちらの論文でもinfrapopliteal(:膝下動脈下の)DES(:薬剤溶出性ステント)にも言及していますね。

(英語はほんとに自信ないんで意図から外れていたらすいません。)

しかし現状「膝下領域治療におけるデバイスの更なる発展に期待します。」ぐらいの結語で綴じられていることからもあまり成績は芳しくないようです(DESはともかくBMSはPOBAと同程度?)。
・・・これだけで記事かけそうな内容なので気になる方は引用先をお読みください。

本文中の「BK領域はバルーン拡張(POBA)が主流」という内容と大きく文脈を逸れるとは考えていませんが、一部語句に語弊があったことを謝罪いたします。

補足事項

近年、近位膝窩動脈に適応のある「Superaステント」が登場し、「ローターブレーターの膝下領域への治験」が各地で行われるなど様々な発展を遂げているため、「膝下領域にはPOBAしか適用がない」という通説もいずれ変わってくるかもしれません。

またBK-POBAの効果を最大限に高めようと、血管造影(QVA)ではなくIVUSガイド下で適切なバルーン径を選択するIVUS-Guide POBAといった手法も、近年は取り入れられつつあるようです。

編集部

ざっくり言うと「膝下領域は血管造影だと実際の径より小さく写りやすいから+0.5mmのバルーン選択した方がいいよ」ってやつです。

しかし編集して思いましたがカテって略語多くて難しいですねほんとに。この辺りは私自身が調べたことを踏まえた上でITE持ちのMoegiにしっかり査読してもらっています。

その結果として狭窄が再発するリスクも非常に高く、この領域の治療は血流障害が原因で足の傷や潰瘍が治癒せず最終的に下肢切断に至るというケースが非常に多いです。

編集部

主観ですが、筆者の透析施設でも膝下領域に関するPOBAで紹介した人の予後はかなり悪いです。そもそも患者選択が結構シビアで「径やABIはあり適用がない」「膝下なので対応できない」など送り返されることが結構あり、保存的治療に頼ってるのが実情な気がします。

レオカーナの適用を有する潰瘍とは

下肢の潰瘍と言えども、すべての潰瘍にレオカーナの適用があるわけではありません。

  • 骨もしくは腱の露出を伴わない潰瘍(慎重に適用)
  • 明らかな感染兆候を認めないこと

感染に関しては、「レオカーナによる血流改善により感染が広範囲に広がる可能性が否定できないため、感染の管理には十分に注意すること。」とあります。

レオカーナの保険点数

記事執筆時点(2022年04月)で、

  • 吸着式血液浄化用浄化器(閉塞性動脈硬化症用)として償還価格 91600円
  • 吸着式潰瘍治療法(1日につき)1680点

が認められています。

非常に高額な治療のため、先の適用条件も厳しく、適正な治療適用の判断が望まれます。

レオカーナの治療原理

レオカーナの治療原理はデキストラン硫酸トリプトファンリガンドとし、血液中よりLDL-Cフィブリノゲンを選択的に吸着除去することです。

これにより血液の粘性を低下させ、末梢血液循環の改善を導き、下肢抹消の難治性潰瘍を改善することを原理とします。

レオカーナの禁忌要件

  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)服用中の患者
  • 抗凝固剤使用が禁忌である患者

陰性荷電の強い膜とACE阻害薬との組み合わせが禁忌の訳

前述の通り、レオカーナのリガンドには陰性荷電の強いデキストラン硫酸が使用されています。

その結果この治療中には血中ブラジキニン濃度が上昇します。

このブラジキニンを分解するアンジオテンシン変換酵素(ACE:キニナーゼⅡ)はACE阻害薬により抑制されるため、血中ブラジキニン濃度が上昇する結果、アナフィラキシー様ショックを呈する危険性が高いためです。

【追記 2024.02】PMDA 医療安全情報より

2024年2月PMDAよりレオカーナの禁忌事項に関わる3件の事例報告がありましたので、当サイトでも周知を図りたいと思います。

【報告された事例の主な背景】
ACE阻害薬服用患者にレオカーナを使用するとショックを起こすことがあるため禁忌であると知らず、休薬を指示していなかった。
・当該医療機関で初めて行う治療であったが、循環器内科と腎臓内科の間で治療開始日を共有しておらず、ACE阻害薬の休薬について検討していなかった。

併用注意

  • ACE阻害薬以外の降圧薬服用中の患者でも、本治療中に血圧が低下することがあるので、慎重に観察すること。
    • 多少作用機序は違いますが、ACEと似たようなARBも避けることが望ましいと考えます
  • 抗凝固作用、抗血小板作用を有する薬剤を併用する場合には、出血助長や止血不良に注意すること
  • 本治療の日には、デブリードメントなどの出血を伴う恐れのある処置は可能な限り避けること

レオカーナの治療について

治療のスケジュール

  • 一回の治療は約2時間
  • 週2回の実施を基本
  • 中1日以上治療間隔を明ける
  • 12週間(計24回)を1クールとする

治療の手技

DHPであるため、(透析コンソールさえあれば)特別な装置を必要とせず、一般的な透析クリニックでも十分に施行が可能です(ホルダーとか諸物品は当然必要です)。

回路も一般的な透析用回路で問題なく使用でき、膜をレオカーナに置き換えるだけの簡便な回路仕様です。
プライミングは手動にてヘパリン化生食にて行います。

レオカーナ治療に関する必要物品や手技、使用感に関しては別の記事にまとめてあります。

治療にあたっての注意点

他の体外循環療法と同様血圧変動のリスクがあります。特に治療開始後30分間の血圧低下には注意が必要です。

そのため初回開始時のQBは50mL/min以下が推奨されています。
添付文章には体調に応じて最大QB200mL/minと書かれていますが現実的には厳しいようです。

そのためリクセルのように透析回路と直列に繋いで透析もDHPもやる…なんてことは容態にもよりますが難しそうですね。
そもそも現状だと保険適用の関係上、単独使用が前提のようです。
つまり透析患者さんには週5回来てもらうか、DHPの後HDを回す形となりそうです。

編集部

うちではメーカー立ち合いのもとQB20mL/minで開始するよう指導がありました。
DHPといえどもリスクはリポソーバーと変わらないようです。

またDHPなので当然ですが、回路がかなり固まり易いため圧の上昇には十分注意が必要です。
目安としては入口圧と出口圧の差が150mmHg以内で使用し、超えた場合は治療を中止し即座に回収します。

治療の終了

創部の治癒(浸出液がなく皮膚欠損がない状態)が確認出来た時点で治療を終了します。

1クール(週2回×12週で24回)で治療の効果が認められなかった場合、他の潰瘍治療(植皮、皮弁、局所陰圧閉鎖療法等)の選択の可否を検討するなど、レオカーナによる治療継続については慎重に判断することを要します。

(補足)リポソーバーとレオカーナの違いについて

因みにここで砕けた話題を一つ。少しマニアックな話となりますが、リガンドが「デキストラン硫酸」と聞いて「リポソーバー」を想起された勘の鋭い方もいるのではないでしょうか(君のような勘のいいAA略

閑話休題。

リポソーバー(LA-15やLA-40S)の販売元は実はレオカーナと同じメーカーであるカネカであり、そういった意味ではかなり類似性のある製品と言えます。

リポソーバーはレオカーナと同じく血中LDL-Cを選択的に吸着除去する吸着型の膜ですが、分類は「吸着型血漿浄化器」であり、レオカーナの「吸着型血液浄化器」とは異なります。
つまりは血液から分離された血漿か、血液そのもの(全血)かの違いですね。
そのため前者は血漿分離方式によるLDLアフェレーシス、後者はDHPに分類されます。

保険適用の違い

リポソーバーの対象患者(適応症)は難治性高コレステロール血症であって、LDL-C吸着はこの目的のために行われます。保険適応は併発するFontaine分類II度以上のASO患者です。

これに対しレオカーナの対象患者(適応症)は血行再建術が不適応なASOにおける潰瘍の改善を目的に使用するものです。
血流に影響を及ぼすと考えられる血中LDL-Cとフィブリノゲンの双方を吸着し、高コレステロール血症を併発しない患者にも使用できます。保険適応は併発するFontaine分類度以上のASO患者です。

(おまけ)リポソーバーの必要物品

血漿浄化器ということは当然、血漿分離器(サルフラックスプラズマフロー)が必要です。
さらに特殊な回路構成のためMA-03という専用の機器が必要です。

リポソーバーを用いたLDL吸着療法では、吸着飽和に達した吸着器を5%高張食塩液(賦活液;RF)で脱着・再生し、その間はもう一本の吸着器を用いて交互に吸着を行なっています。
さらにその賦活液を置換するための乳酸リンゲル液などのCa含有等張電解質液も必要です。

・・・つまりそれだけ詰まりやすく、性能や治療可能時間を確保するため、回路も複雑になっている訳です。

編集部

筆者も大学病院時代リポソーバーでの治療を目にする機会がありましたが、プライミングにせよ治療にせよなかなか難しい(メンドクサイ)代物です。

それがDHPだから全血の、カラム一本の簡便な回路構成で済むんですから、保険適応の範囲が違うとはいえレオカーナはほんと画期的な治療法だと思います。

かがくのちからってすげー!(流石カガクでネガイをカナエル会社)

編集部

(真面目すぎる記事書いて疲れた反動がきてます。)

国産の、しかも外国には類似製品ないようなのでどんどん売って外貨稼いで欲しいものですね。新工場も2024年05月に北海道にできるようですし。

カネカ 北海道に医療機器工場を新設

今回生産を予定している医療機器は米国での適応拡大や昨年発売した新製品の投入が奏功し、着実に販売が伸びています。血中の悪玉コレステロールを選択的に除去する「リポソーバー®」は、欧米を中心に今後も堅調な需要の伸長を見通しています。また新規の「レオカーナ®」は、重症化した閉塞性動脈硬化症(ASO)*1に対する新たな治療法として市場から高い評価を受けております。今後、潜在患者数が多い米国、中国などで需要の急拡大が見込まれ、今回の工場新設による供給基盤の確保により飛躍的な事業拡大を図ります

https://www.kaneka.co.jp/topics/news/2022/nr2201241.html

・・・株買うか(投資は自己責任でお願いします)。

レオカーナについて まとめ

この記事のまとめです。

  • レオカーナは令和3年から保険適応が始まった新しい治療法です。
  • 血行再建術不適応な潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症患者(フォンテイン分類Ⅳ度)」に対してのみ保険が適用されます。
  • 償還価格は91600円 吸着式潰瘍治療法(1日につき)1680点が保険適用されます。
  • レオカーナの治療原理はデキストラン硫酸トリプトファンリガンドとし、血液中よりLDL-Cとフィブリノゲンを選択的に吸着除去することで、血液の粘性を低下させ、末梢血液循環の改善を導き、下肢抹消の難治性潰瘍を改善することを原理とします。
  • 禁忌事項として、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)服用中の患者抗凝固剤使用が禁忌である患者が挙げられます。
  • 一回の治療は約2時間。週2回計24回が1クールです
  • DHPであるため回路は非常に簡便です。
  • 特に治療開始後30分間の血圧低下には注意が必要です。
  • 初回開始時のQBは50mL/min以下が推奨されています。
  • 創部の治癒(浸出液がなく皮膚欠損がない状態)が確認出来た時点で治療を終了します。
  • 似たようなリポソーバーはLDLアフェレーシス治療であり難治性高コレステロール血症に使用します。間違えないようにしましょう。

編集後記

今回の記事は新しい治療法と関連分野の知識を包括して学べるような記事構成を心掛けました。ASOやPOBAにLDL吸着と内容的には盛りだくさんでしたね。血液浄化領域と循環器領域が密接に関わり合っていることを感じて頂けたのではないでしょうか。

筆者にとっても初めての医療系記事となる血液浄化を書く上で良い題材だったなと個人的に思っております。
本文中の太字の部分は特に臨床工学技士の国家試験対策や実習、就職した後も役立つと思われる知識をピックアップしておいたのでお役に立てると嬉しいです。

またレオカーナのことを書いてあるHPはまだまだ少ないのでこれが知名度向上の一環になれば良いなと思います。もっと詳しく知りたい方は下記リンク欄にあるガイドラインを参考にしてみてください。

「閉塞性動脈硬化症の潰瘍治療における吸着型血液浄化器に関する適正使用指針 第 1 版」

またこちらの記事で書ききれていない、必要物品や治療の手順、レオカーナに関する個人的な使用感といった内容は別の記事をご参照ください。

ここまでご覧いただきありがとうございました。

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Moegi

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この記事を書いた人

CEじゃーなるを陰ながら支える管理人です。
相方のMoegiと二人で当サイトおよびCE LIFEを運営中。
【保有資格】臨床工学技士・透析技術認定士
ブログ運営やら自己啓発・投資やら色々行なっています。

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