この記事は以前に執筆した「レオカーナとは ASO/CLI治療の新たな可能性」の続編記事となります。
編集部の施設での事例を踏まえて、「レオカーナ」での治療を行うための必要物品や治療の手順に触れている他、個人的な使用感や本音についても可能な限り触れております。
はじめに 前回記事の紹介
レオカーナの記事は当サイトの中でもX(Twitter)での反響が非常に大きく、「記事がわかりやす過ぎてすぐに読めちゃう」「初めて触れた時にこの記事を読みたかった」など非常に高評価を頂いております。
また検索流入数でも当サイトでもトップクラスのアクセスを誇っており、レオカーナの注目度の高さを感じているところです。
好意的な反応は執筆者冥利につきます。
レオカーナの治療目的・機能等についてはこちらをご覧ください。
当記事は当時途中まで書き終えた後「もっと症例を重ねてから公開したい!」と没記事となっておりましたが、後述のとある理由で再編集のうえ公開することにいたしました。
レオカーナを実施する上での必要物品
レオカーナの治療に必要な物品の一例です。
- 生理食塩水(プライミング用)1000mL以上
- 生理食塩水(補液用)500mL等
- 連結菅(生食バックに使用、必要に応じて)
- 透析用血液回路
- レオカーナ本体
- 抗凝固剤
主に非分画ヘパリンを使用。
プライミング・初回投与・持続投与分を合わせ合計8000単位以上を推奨 - カラムホルダー
同社製品の「リクセル」と共用です - 血液浄化装置
- 透析用セット(消毒・穿刺針・防水シーツなど)
血液透析を扱っている施設であれば、レオカーナとカラムホルダーさえあれば特に苦労なく物品を集められると思います。
また注意点としまして
- 血液浄化装置は「血液ポンプ・抗凝固剤注入ポンプ・吸着器血液入口/出口の圧力モニター」が備わっていること
- 血液回路は各装置の専用回路であって、レオカーナとの接続部がルアーロック形状であること
が条件です。
うちの施設では東レのTR-3000で実施しました。
問題なく実施可能でした。
抗凝固剤について
抗凝固剤については原則非分画ヘパリンを用いますが、メーカーによると低分子ヘパリンやナファモスタットの使用実績もあるにはあるようです。
非分画ヘパリンは8000単位以上必要なので、1万単位のアンプルを用意した方がいいと思われます。
(この欄はあくまでぼやきです。)
余談ですが当院でも一度怪我による出血を危惧した際、低分子ヘパリンを使用したりもしました。しかし出血傾向を疑うような時には治療をしないのが原則なので正直この処置いるのかなぁと思ったりもしました。
あと陰性荷電膜であるレオカーナに対してナファモスタット(フサン)は正直どうなのって思うところですが、ちょっと詳しく調べきれなかったため「先行施設で使った事例があるみたいだよ」程度に濁しときます。
レオカーナのプライミング
ヘパリン加生理食塩水(1000mL あたり 2000 単位のヘパリンを加えたもの)をプライミング液として使用します。
上記ヘパリン加生理食塩水を用いて最低でも1000mL以上をQB150mL/min程度でプライミングを行い、回路内及び本品内を洗浄し、プライミング流路から気泡を除去します。
レオカーナ本体は、クエン酸とクエン酸ナトリウムの混合水溶液によって内部が充填されたウェットタイプの膜ですので、Airの混入を防ぐため、血液回路の脱血側はプライミング液で充填された状態で接続するようにしましょう。
あとは膜が違うだけで透析と特に差異はないと思うので詳細は省きます。
レオカーナの治療の手順
適応や禁忌事項は前回記事を参照ください。
先の項目で述べたように、ヘパリン加生理食塩水を用いて行います。
血液浄化装置(以後透析用コンソールと仮定)の設定の詳細です。
- モードについて
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透析液は不要のためECUMに設定します。
- 圧関連のアラームの設定
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QBが少ないため圧が0に近い、または陰圧となるため、警報を解除します。
また圧の振幅幅を自動設定するような設定は解除しておいた方が無難です。
(※通常透析用の仕様だとアラームが頻回になると思われます)
困る方もいるかもなので一応補足です。
東レのTR-3000や3300では「準備ボタン長押しで準備完了→透析ボタン」「カプラをカプラハンガーから外す」などのほか「静脈圧自動設定時間」「動脈/PD圧自動設定時間」「透析液圧自動設定時間」を0分に設定するなどをしていました。
血圧測定後穿刺を行い、治療を開始します。
ヘパリン初回量3000単位を目処に投与を行います。
- 血圧測定について
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治療開始後30分間は血圧低下に特に注意が必要です。
その他にもなるべく頻回に血圧測定を行いましょう。 - 血流量について
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治療初回のQBは20mL/min が(メーカーからの聞き取り上)推奨されています。
QBは最高 200mL/minとガイドラインや添付文章では定義されていますが、患者の状態を観察しながら、段階的に上昇させてください(10mL/min単位を推奨)。
血圧低下が見られた場合すぐにQBを下げます。
- 動脈圧・静脈圧のモニタリング
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入口圧と出口圧の差が150mmHgを超えた場合はすぐに治療を中止し、返血を行います。
- 抗凝固薬について
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凝固しやすいため、基本的にオフにしません。
(当施設では未分画ヘパリン1500単位/hで実施を行いました。)止血が悪い時は、残血がない場合に限り持続量を少しずつ減らしていきます。
生食300mL程度で返血を行い、抜針します。
メーカーから聞き取りした推奨方法を当施設や私なりの解釈でまとめております。
実際の運用は各施設の方針や医師の指示に従いましょう。
レオカーナと人工透析の併用について
やはり気になる内容だとおもうのでもう一度記載しておきます。
これは親記事にも記載したことですが、
現状だと保険適用の関係上、(レオカーナ)単独使用が前提のようです。
つまり透析患者さんには週5回来てもらうか、DHPの後HDを回す形となりそうです。
透析と直列に繋いで一度に透析も血液吸着も行うことは現状では無理と考えてください。
透析患者の場合、レオカーナによる血液吸着治療後の体重増加(プライミングボリューム分)が無視できないため、透析と同日に行う場合は先にレオカーナによる治療をおこなった後に透析を行います。
うちの施設でも慣れてきたら別日ではなく透析日に2hレオカーナ+4h HDで回していました。
患者の負担という意味ではこちらのほうが楽でしょうね。
また別日に行う(週5回来てもらう)場合でも、中二日の次の日がレオカーナになるようなスケジュールは避けた方がよろしいでしょう(尿毒素的な問題もありますし)。
ただし、透析患者等水分管理上プライミング液を注入することが困難である場合等には、必要に応じプライミング液を返血側回路を患者に接続する前に廃棄することも取説によると可能なようです。
しかし、HDと同時にレオカーナを回してる施設があるなどの発言もX(Twitter)などを通じて少しずつ聞くようになりました。
レオカーナでCLIはどこまで改善されるのか
この記事では学術的な資料ではなくあえて主観的な話で終始しております。
臨床実績は「ガイドライン」などをご参照ください
現状私が直接的に経験した症例は結局1症例だけです(間接的になら何例かあります)。
無論個人差もありますし、実際の画像をここに貼るわけにもいかないので簡単にだけいうと「(わずかながら)効果はありました」。
最初の数週間で潰瘍の進行は見た目で停止、1ヶ月も経つ頃には改善傾向にあるのは(医師やスタッフの視点からは)明らかでした。
この辺りはガイドラインにある以下の図の通りの経過なのかなぁと個人的感想です。
しかしといいますか、そもそもの背景因子からその後の経過はあまりよろしくなく、その後もずるずると尾を引き最終的には残念な結果となりました。
結局レオカーナによる治療はあくまで「血液をサラサラにして、血流の流れを良くし、壊死しそうな病変に血流を取り戻す」だけであるため、治療を始めたタイミングや患者個人の因子に大きく左右されるというのが正直なところです。
レオカーナについて個人的に感じること
適応がなかなか厳しい
レオカーナの適応条件にもありますが、血行再建術不適応な潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症患者(フォンテイン分類Ⅳ度)という適応がなかなかの曲者です。
私が働いている透析クリニック(というか大部分の透析施設)では循環器内科もPOBAをできるようなカテーテルの設備も存在していません。そのため
下肢潰瘍発見→(皮膚科や形成外科への受診)→循環器内科への受診→(場合によってはPOBA)
→血行再建術不適応の診断→レオカーナ開始
という段階を踏むだけでどうしてもタイムラグが発生してしまいます。
その最低でも2、3週間はかかるであろうタイムラグの間に急速にASOが進行し、アンプタに至るというケースが当院でも少なからず発生しており、「せっかく施設としてレオカーナの経験があっても、レオカーナに着手できない」という現状があります。
ましてや初導入ともなればレオカーナを開始するのに、さらに準備が必要となりますからね。
クリニックでもできる治療というのが一つの売りのレオカーナですが、少なくとも循環器内科やカテ設備を併設しているような施設でないと有効なタイミングで利用できないんじゃないかという歯痒い思いをしているのが現状です。
(※あくまで一個人の感想です。有効なタイミングに関して等のご指摘は勘弁願います)
ただし先の記事でも述べましたがレオカーナは非常に高額な治療のため、適用条件が厳しいのは当然です。
医師による適正な治療適用の判断が望まれます。
フットケアは関わる診療科が多く大変
日本では足病学による教育や専門医制度がなく、単科ですべての足病患者の診療を行うことは困難であるため、疾患により形成外科、整形外科、外科、血管外科、循環器内科、皮膚科などの診療科が疾患別に診療が必要になります。特に重症下肢虚血、糖尿病壊疽の下肢救済治療においては、血行再建と創傷治療の医療連携が不可欠です。
日本フットケア・足病医学会
引用でも述べさせてもらったように、フットケアに関わる診療は多岐に渡ります。
当院ではこれまでの症例とその後の経過を踏まえて、以後は近隣の基幹病院よりも下肢潰瘍専門の病院に積極的に紹介するようになり、実質的に当院でレオカーナは行われなくなりました。
紹介先の下肢潰瘍専門の病院では、従来の治療はもちろんのことレオカーナも積極的に考慮してくれており、その後の経過は程度にもよりますが小切断で済んでいます。
(※大切断を避けることができる臨床的意義は、この記事に辿り着いている方には十分理解できることと存じます。)
「連携によって下肢救済を積極的に行っている専門病院」の学会HP
あまり大きな声では言えませんが、近隣の基幹病院、「この状態で退院させるの?!」という事例が相次いでて、うちの医師もスタッフも(できれば初めから)信頼できる専門のところに送りたいというのが本音です。。。
患者さん自身の危機感の有無にも大きく経過は左右される印象ですね。
まとめ
結論としてレオカーナにもやはり限界はあります。
約2年前の執筆時は(個人的に)大きく持ち上げていたレオカーナですが、そもそもの背景因子や、運用上の制約や限界といった点で、一透析クリニックで出来るフットケアの限界を感じる一連の出来事でした。
そしてやはり大事なのは日頃のフットケア体制の構築や、患者自身のセルフケア教育が重要だというのを改めて実感いたしました。
スタッフ教育や患者教育を行い、足病変の早期発見、および早期の治療介入ができる体制づくりを心がけていきたいですね。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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