本記事では「酸素療法」を解説したいと思います。
一言に酸素療法と言っても、酸素投与方法は何種類かあります。
今回は各酸素療法の種類の紹介と解説をします。
筆者の記事では、何度も繰り返し調べて欲しい、反復して覚えて欲しいという思いから、略語などは一度だけ正式名称と共に記載するだけで、その記事内では以降は略語表記のみとします。
低流量系と高流量系
酸素療法は投与する酸素の流量によって低流量系と高流量系の2種類に分けられます。教科書、参考書、文献等によって低流量系と高流量系のボーダーラインは前後していますので、筆者の記事内では10L/minを超えるものを分類上高流量系とさせていただきます。「分類上」としたのは、筆者自身は30L/minを高流量系と考えているためです。
「30L/min」は理論的に患者が1秒間に500mLを吸入した時の1分間量です
低流量系
鼻カニューレ、酸素マスク、リザーバマスク
といった種類があります。
酸素吸入といえば、これらの低流量系をイメージされる方がほとんどだと思います。
低流量系の特徴は投与する酸素に加えて、外気の空気と混合させて吸入されるということです。
つまり、酸素供給源からの酸素濃度は100%でも、低流量系ではいくら酸素流量を上げても吸入される酸素濃度FIO2は100%には到達しないということです。
ただし、リザーバマスクに関してはFIO2をほぼ100%にすることができます。
高流量系
ベンチュリマスク、ネブライザー付き酸素吸入器、最近番組などで話題のネーザルハイフロー
といった種類があります。
低流量系とは異なり、患者の呼吸状態にFIO2が影響を受けにくく一定にできるといった利点があります。
なお、教科書等にはあまり出てこないがネーザルハイフローは実際の臨床では使いまくっています。
ネーザルハイフローだけの記事も後日書く予定です。
鼻カニューレ(低流量系)
鼻カニューレ(nasal cannula)は単に「ネーザル」とも呼ばれます。低酸素血症への初期に導入する基本的な酸素療法です。鼻の穴に入れるプロングを鼻孔に設置して酸素を吸入させます。
ATOM MEDICAL株式会社:https://www.atomed.co.jp/product/cat_disposables/104.html
最大のメリットは会話や食事が可能なことです。デメリットとしては患者の換気量にFIO2が影響してきますので、口呼吸をされると効果が得られません。
また、6L/minの酸素投与量を超えてくるとFIO2の上昇が40[%]までしか上昇が期待できず、また乾燥した酸素ガスが鼻腔粘膜を刺激するため高流量使用は推奨できません。
- 過換気時:FIO2低下
- 低換気時:FIO2上昇
酸素流量 L/min | FIO2[%] |
1 | 24 |
2 | 28 |
3 | 32 |
4 | 36 |
5 | 40 |
6 | 44 |
ちなみに「cannula」は英語で「カニューラ」、「Kanüle」はドイツ語で「カニューレ」ですが、筆者は他の単語も含めほとんどドイツ語読みしますね。
臨床現場ではよくドイツ語が飛び交うので、よく出てくるものは両方把握しておくと良いでしょう。
酸素マスク(低流量系)
酸素マスクは鼻と口を覆うようにして酸素を投与します。「ダイレクトマスク」とも呼ばれます。
ネーザルカニューレと同様で酸素ガスに加えてマスクと顔の隙間から外気を取り込むため、患者の換気状況によってFIO2が変動します。
ネーザルカニューレと異なる点は、呼気がマスク内腔に溜まってしまうので呼気の再呼吸が問題となってくるため基本的には5L/min以上で使用されます。
5L/min以上の投与でマスク内腔の呼気を追い出せるため、ネーザルカニューレよりはFIO2が安定し高く設定できます。
それでも8L/minくらいでFIO2 60[%]までしか上がりません。
5L/min未満の低流量で使用する際は二酸化炭素血症に注意してくだい。
ATOM MEDICAL株式会社:https://www.atomed.co.jp/product/cat_disposables/112.html
酸素流量 L/min | FIO2[%] |
5~6 | 40 |
6~7 | 50 |
7~8 | 60 |
ちなみにですが、再呼吸を低減しつつFIO2が維持できる酸素マスクが存在します。上図の参考画像がその酸素マスクで、マスクに穴だらけの構造をしている開放型酸素マスクとなっています。穴を通してストローから飲水ができたり、吸引処置ができたりとメリットがあります。
リザーバマスク(低流量系)
リザーバマスクは酸素マスクに酸素ガスを溜め込むリザーババッグが取り付いている構造となっています。
リザーバマスクは吸気をリザーババッグから吸入することで高濃度酸素を投与することが可能であると共に二酸化炭素の再呼吸の防止ができます。
リザーババッグが空にならないように酸素流量の調整が必要で通常は6L/minで使用します。
酸素流量の上限は15mL/min程度で、100[%]近い酸素投与ができますが、乾燥した酸素ガスを投与するため10L/minを超えての使用は加湿する必要が出てきます。
ATOM MEDICAL株式会社: https://www.atomed.co.jp/openfacemask/
酸素流量 L/min | FIO2[%] |
6 | 60 |
7 | 70 |
8 | 80 |
9 | 90 |
10 | 90+α |
ベンチュリマスク(高流量系)
ベンチュリマスクは国試では単発でよく見かけますね。
各酸素濃度に対応したダイリュータを使用することでFIO2 24-50%の30L/min以上の高流量ガスを投与することができます。
原理としてはベルヌーイの原理に基づいたベンチュリ効果を利用しています。
酸素と外気とのトータルフローは30L/min以上となります。使用する酸素流量計は必ず恒圧式を使用し、ガス排出のために穴あきマスクを使用します。
日本メディカルネクスト株式会社:https://www.j-mednext.co.jp/cms/wp-content/uploads/2017/12/20210301_Inspiron-1.pdf
ダイリュータカラー | 設定FIO2[%] | 最適酸素流量[L/min] | トータルフロー[L/min] |
青 | 24 | 2 | 52 |
黄 | 28 | 3 | 34 |
白 | 31 | 4 | 32 |
緑 | 35 | 6 | 34 |
赤 | 40 | 8 | 33 |
橙 | 50 | 12 | 32 |
ネーザルハイフロー(高流量系)
最近巷で話題のネーザルハイフロー(NHF:nasal high flow)ですが、「ネーハイ」と呼ばれ、NHFは別名ハイフローネーザルカニューレ(HFNC)とも呼ばれます。
Fisher & Paykel HEALTHCARE社 提供:https://www.fphcare.com/ja-jp/hospital/adult-respiratory/optiflow/
NHFはこれまでの酸素療法と異なり、酸素配管に加えて空気配管に接続したりコンプレッサーが内臓されたりしているものがあり、FIO2を一定にして投与することができます。
挿管管理までは不要だが低流量系では酸素化が維持できない比較的重症度は高い患者へ使用します
(病院によっては重症度の意味合いが変わってきますが…。)
設定は吸入ガス流量は30~60L/min、FIO2は40~50[%]が多いイメージです。使用するNHFの機種によっては空気配管が必要なため、使用できる病室が限られます。
酸素及び空気配管からのガスは乾燥されるため、NHFでは加温加湿器が必須となります。
今回は解説はこの程度で済ませ後日、NHFだけの記事を書きます
まとめ
- 低流量系と高流量系
低流量系と高流量系のボーダーは30L/minで考えると良い - 鼻カニューレ(低流量系)
- 6L/minまでの使用とする
- FIO2は40[%]程度まで
- 酸素マスク(低流量系)
- 8L/minまでの使用とする
- FIO2は60[%]程度まで
- 5L/min以下では高二酸化炭素血症に注意する
- リザーバマスク(低流量系)
- 100[%]近い高濃度酸素を投与できる
- リザーババッグから吸気を取り込むため再呼吸が低減される
- 10L/min以上の使用は加湿状況に注意する
- ベンチュリマスク(高流量系)
- FIO2 24-50[%]で管理できる
- ベルヌーイの定理のベンチュリ効果を利用
- 30L/min以上の流量が得られる
- ネーザルハイフロー(高流量系)
- FIO2と吸入ガス流量を個別に設定できる
- 空気配管が必要(コンプレッサーが搭載されていない機種)
- 加温加湿器が必須
以上で酸素療法の解説としました。各酸素療法と設定できるFIO2値を覚えてください。そして何よりも加湿に気を配るようにしてください。
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