前々回の記事では、大腿膝窩動脈(FPA)高度石灰化病変の治療方法として新たに登場した、アテローム切除アブレーション式血管形成術用カテーテル「JETSTREAM」の概要と適正使用指針について解説していきました。
そして前回の記事ではJEATSTREAMのデバイスの構成・カテーテルスペック・必要物品・セットアップの内容など、より臨床使用に即した内容を解説していきました。
JETSTREAMの【適正使用指針】についてはこちら
【デバイス概要】についてはこちら
そして最終稿となる本記事ではJEATSTREAMを安全に施行するコツについて解説したいと思います。
はじめに
不具合/トラブルが生じないようにするための準備や確認事項、実際のトラブルシューティング、そして「SLOW」の合言葉である意識してほしい注意事項などを解説したいと思います。
本記事はBoston社のJETSTREAMの説明会資料を参考に執筆しています。基本的には文言は同じにさせていただいておりますので、JETSTRESMをご存知ない方向けとなっていることにご了承ください。
JESTREAMを適正に使用するために
承認されたばかりの治療では、不具合やトラブルが発生しやすいです。
適正指針使用指針を厳守して安全に治療を施行します。
以下に海外での不具合の原因と適正使用のための確認事項を説明します。
海外における主な不具合の原因
国内の事例がまだ承認されたばかりで少ないため、海外の事例を例に挙げます。
- 互換性のない併用機器の使用
- 手技や解剖学的構造に起因するカテーテルのキンク
- カテーテルを速く進めすぎる等による吸引ポートの詰まり
- 病変でカテーテルを速く進める、強く押し付ける
適正使用のための確認事項
アテレクトミーデバイス・・・つまり、JETSTREAMを適切に使用するために以下を必ず確認します。
【準備】
- ガイドワイヤは指定のものを使用する
- トイボーストバルブ(回転式止血バルブ)をシースイントロデューサと併用しない
【操作】
- いかなる場合もゆっくり進める(1秒間に約1mm)[重要]
- 切削は近位から遠位の順方向にのみで行う
- 遠位から近位への引戻しは必ず引戻しスイッチを押して行う
- カッターサイズは必要に応じて段階的に上げていく
- カッター部をガイドワイヤ先端10cm以内に進めない
- デバイス不具合の原因となりうるためカテーテルキンクは生じないように注意する
【手技中の動作確認】
- 回転音から切削時の回転速度の低下に注意する
- 吸引チューブから回収バッグへの吸引の流れを常に観察する
JETSTREAMのトラブルシューティング
良く生じ得るトラブルととラブルシューティングを紹介します。
吸引ポートの詰まり
リトラクション(REX)スイッチで病変近位側の正常血管までカテーテル先端を引き戻し、吸引出来ることを 確認して吸引ができない場合は再度プライミングを行う。
プライミングしても解決しない場合はカテーテルを新しいものに交換する。
【原因】
- カテーテルを1秒間に1mmを超える速度で進めた
- カテーテルが吸引する時間を十分に取れていない
吸引が追いつかない場合、切除片で吸引ポートの詰まりを起こす可能性があります。
早くカテを進めたい気持ちは分かりますが、原則カテは1秒間に1mmまでのスピードに抑えます。
ガイドワイヤスタック
カテーテルとガイドワイヤを一緒に抜去して、 新しいカテーテルとガイドワイヤに交換して手技を再開する。
- 作動時間10分を超えてカテーテルを使用した
- 推奨されていないガイドワイヤを併用してカテーテルを使用した
- 作動中のカテーテルを数秒にわたりガイドワイヤの同位置に留めた
- キンクしたガイドワイヤを使用した
遠位塞栓(distal emboli)の原因と対策
JETSTREAMの合併症として、切削片による遠位/末梢塞栓(distal emboli)が問題となってきます。
distal emboliの原因と対策についてまとめます。
遠位塞栓が生じる主な原因
- 吸引効率に対して切削スピードが速すぎることで吸引物が過剰になる
- ワイヤ巻込みやカテーテルの抵抗増大による回転停止
- 吸引ポートの詰まりによる吸引不全
遠位塞栓のリスクを防ぐ対策(SLOW)
distal emboliの対策について、JETSTREAMを使用する上で意識することをメーカーさんは合言葉を謳われています。
その合言葉は・・・「SLOW」です。
デカデカと表示して申し訳ありませんが、distal emboli対策では重要な内容となります。
Speed:カテーテル操作(速度、前進・引戻しの動き、カッターサイズ)
Listen:回転音の確認・抵抗の感覚
Outflow:吸引チューブから回収バッグへの流れの観察
Wire:ガイドワイヤの動きを確認
メーカーさんも説明会で冗談混じりで、「循環器の先生方は、少々せっかちなとことがあり、速くカテを進めたいとは十分お気持ちはわかりますが、【いかなる場合もゆっくり(SLOW)カテを進める】ということを常に意識してください」と仰っていました。
手技中に意識すること【SLOW】
では、合言葉「SLOW」について内容を説明します。
Speed:カテーテル操作(速度、前進・引戻しの動き、カッターサイズ)
結局のところ、吸引ポートから回収できない速度で切削するとポートが詰まる可能性が高まります。
最適な吸引を得るためにカテーテルの操作速度に注意します。
何度も登場しますが、カテーテルは1秒間に1mm程度の速さでゆっくり進めます。
- 一度に多くの吸引をすると、吸引不良やガイドワイヤスタックの原因となることがある
- スピードを判断するためX線不透過性の定規及び高倍率を推奨
- 病変の固い箇所:速いスピードで前進させると失速のおそれがある(失速により切削と同時に吸引も停止する)
- 重度石灰化ではない軽度な石灰化病変部をカテーテル先端が通過する際は操作スピードが速くならないように注意する
順行性に切削し、失速させない。
カテーテルを引き戻す際は必ずREXモードを使用する
- 病変をつつく操作(タッピングモーション)は前進1mm/引戻し2mmで操作を行い失速させない
- 病変通過1回ごとに、必ずREXモードで遠位から近位に引き戻す
- 近位から遠位に向かって切削する(絶対に逆方向に切削を行わない)
サイズは徐々にアップする。
SC → XC(ブレードダウン) → XC(ブレードアップ)の順での使用を推奨
- SCカテーテルは複雑な病変または太い血管などにおいて、誘導路を作るために使用することもある。誘導路を 作った後、治療を完了するために、術者はより大きいXCカテーテルにサイズアップするか否かを判断する
- XCカテーテルは常にブレードダウンで使用開始する。始めにブレードダウンで最低2回通過させ、その後ブレード アップを行う(ブレードダウンの追加やブレードアップへの移行は、病変部の抵抗や回転音に基づき判断する)
Listen:回転音の確認・抵抗の感覚
回転音や抵抗の感覚が詰りや回転速度の低下の指標になります。
特に急激な回転速度の低下は、カッターと病変がスタックしてしまい、どうにもならなくなってしまう恐れがありますので、回転音は注意して聞きます。
- カテーテルを失速させないように注意し、回転速度を一定に維持する
- 病変部にカテーテルを強く押しつけない
- 抵抗を感じたり音の変化が聞こえ、カテーテルが失速しはじめた場合は、一度引き戻してから、慎重に再度切削する
- ブレードアップ時に病変部で著しい抵抗や詰りが発生した場合はブレードダウンに戻して使用する
固い病変ではカテーテル速度が適切か判断するには、速す過ぎる場合は音の変化でわかります。
Outflow:吸引チューブから回収バッグへの流れの観察
常に吸引途絶に注意します。
切削片を回収できないと、distal emboliの原因になります。
- 回転開始3~5秒後にチューブの血液及び生理食塩液の流れを必ず観察する
- 治療中も定期的にチューブを確認し流れを観察する
- カテーテルを病変の近位側までREXで引戻してから再度作動させ、流れが戻っていることを確認する
- 上記の処置をしても流れが確認されない場合は、カテーテルを抜去してプライミングを実施する
Wire:ガイドワイヤの動きを確認
大前提に、ガイドワイヤコーティングの剥がれ、バルブによる固い締め付けによるシャフト損傷の恐れがあるため
本品と互換性のないガイドワイヤ及び機器は使用しないこと。
ガイドワイヤの巻込み防止をするために以下のことに注意します。
- ガイドワイヤの先端10cm以内にカテーテル先端を進めないこと
- カテーテルを同じ位置で回転し続けないこと
- カテーテルの抜去時にはガイドワイヤをしっかりと保持すること
- ガイドワイヤのスタック時、カテーテルとガイドワイヤが一緒に回転するため、即時カテーテルの作動を停止すること
【参考】エラー表示
エラー表示と対応:Boston社提供資料
さいごに
以上でJETSTREAMを安全に使用するために注意することやトラブルシューティングの解説でした。
術中に気を付ける点などを覚えて、先生のサポートに徹しましょう。
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