補助循環 IMPELLA — 文献紹介【生命予後編】 —

本記事ではIMPELLAに関する臨床データ生命予後に着目して紹介したいと思います。

【前置き】IMPELLAについて

IMPELLAは日本に導入されて2022年10月の時点でちょうど5年が経過します。
逆にいうとまだ5年しか経過していないため、やはり文献を調べる方も多々いらっしゃるかと思います。

この記事では、「IMPELLAの文献は英語ばかりだな・・・」、「翻訳面倒だな・・・」と思われている方に、「で、結局のところIMPELLAってどうよ?」といった方向けへの内容とします。

目次

はじめに

IMPELLAは海外ではずっと前から使用されています。そして、様々な臨床シチュエーションでIMPELLAは使用されてきており、臨床試験及び臨床研究によってIMPELLAの有効性は数多く評価されてきています。

そして、Moegiの病院でもそうですが、最近は臨床試験や臨床研究の結果から得られたデータを基に予後改善に寄与することを考慮した治療プロトコルの作成や導入が進められております。

複数の記事に渡って、数々の文献の中からひと齧りだけですが、文献を紹介したいと思います。

基本的には日本語の文献はありません。また、筆者Moegiは英語が得意という訳ではありませんので、多少のニュアンスや翻訳が異なる場合がありますので、その点はご了承ください(英語もっと勉強しときゃ良かった・・・。)。

生命予後について

ご存じの通り、カテーテルのデバイスとする補助循環は昔からIABPが使用され、2017年にIMPELLAが日本に導入となりました。
今では、IABPの代わりにIMPELLAを導入という時代になりつつあるのかもしれません。

では、IABPとIMPELLAを比較して心原性生命予後に関してどうなのか見ていきましょう。

ここでは急性心筋梗塞(AMI)に伴う心原性ショックに対するIMPELLAの有効性と予後を検証した試験についてまとめます。

ISAR-SHOCK試験

ISAR-SHOCK試験、そのタイトルを「 A randomized clinical trial to evaluate the safety and efficacy of a percutaneous left ventricular assist device versus intra-aortic balloon pumping for treatment of cardiogenic shock caused by myocardial ionfarction (Seyfarth M, Sibbing D, et al, J Am Coll Cardiol 2008;52(19):1584-1588.)」という、IMPELLA 2.5 vs IABPを比較したランダム化比較試験です。

ISAR-SHOCK試験:https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S073510970802826X?token=9C812DC076028C42258ED7832EAD601AFF14A11C55A02DB8E69724E62DC5FCC9C105A43E39B7CD4A9B728F0990B07D02&originRegion=us-east-1&originCreation=20220917195922

AMI発症に伴う心原性ショック患者を対象とし、13名ずつ(n=26)IMPELLA 2.5群とIABP群に割り振られています。

各群で6名ずつ死亡されており、その30日生存率に関して共に46%でした(ただし、IMPELLA群にて1名が導入前に死亡されています)。

IMPELLA vs IABP生存率:
A randomized clinical trial to evaluate the safety and efficacy of a percutaneous left ventricular assist device versus intra-aortic balloon pumping for treatment of cardiogenic shock caused by myocardial ionfarction (Seyfarth M, Sibbing D, et al, J Am Coll Cardiol 2008;52(19):1584-1588.)

なんとですね、IMPELLA 2.5とIABPの間には生命予後改善においては差はなく、IABPに対するIMPELLA 2.5の優位性は見られなかったのです。

「IMPELLA 2.5は2.5[L/min]程度しか補助しないからこうなったのでは?」、「IMPELLA 2.5は結構溶血の問題あったよね」と思う方もいらっしゃるかと思われますので、次の検証試験へ。

ISAR-SHOCK試験についての論文はこちら

あわせて読みたい

IMPRESS in Severe Shock試験

IMPRESS in Severe Shock試験、そのタイトルを「Percutaneous mechanical circulatory support versus intra-aortic balloon pump in cardiogenic shock after acute myocardial infarction (Ouweneel DM, Eriksen E MD, et al, J Am Coll Cardiol 2017;69:278-287.)」という、こちらはIMPELLA CP vs IABPを比較したランダム化比較試験です。

IMPRESS in Severe Shock試験:https://www.jacc.org/doi/epdf/10.1016/j.jacc.2016.10.022

AMI発症に伴う心原性ショック患者を対象とし、24名ずつ(n=48)IMPELLA CP群(pMCS群)とIABPに割り振られています。

30日間のうちにpMCS群は11名、IABP群は21名死亡されており、30日生存率に関してpMCS群は46%、IABP群は50%でした。
また、2次endpointとして6ヶ月死亡率は共に50%となりました。

IMPELL vs IABP 6ヶ月死亡率:
Percutaneous mechanical circulatory support versus intra-aortic balloon pump in cardiogenic shock after acute myocardial infarction (Ouweneel DM, Eriksen E MD, et al, J Am Coll Cardiol 2017;69:278-287.)

なんとも個人的には予想外な結果となってしまいました。
IMPELLA CPであってもIABPの間には生命予後改善においては差は無いということになりました。

これでは260万円も掛かってしまうIMPELLAを使用するより、数十万で済むIABPを使用した方がコスト的にも良いとなってしまいます。

・・・というわけで、次です。

IMPRESS in Severe Shock試験についての論文はこちら

あわせて読みたい

USpella Registry

USpella Registry、そのタイトルを「The Current Use of Impella 2.5 in Acute Myocardial Infarction Complicated by Cardiogenic Shock: Results from the USpella Registry (OʼNeill WW, Schreiber T, Wohns DH, et al, J Interv Cardiol 2014; 27: 1-11)」という、こちらはAMI発症後心原性ショック患者に対して、IMPELLA 2.5をPCI目前に導入するのか、PCI後に導入するのかで生命予後がどうかを比較する多施設、後ろ向きレジストリー研究です。

USPELLA Registry:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4238821/pdf/joic0027-0001.pdf

AMI発症に伴う心原性ショック患者のPCI 154例について、IMPELLA 2.5をPCI前に導入する群 63例、PCI後に挿入する群 91例を比較検討しています。

結果ですが、退院までの全生存率は【IMPELLA pre-PCI】65.1% 対 【IMPELLA post-PCI】40.7%(p=0.003)でありました。ただし、30日間追跡データの9名について追跡できなくなったようで、30日間生存率では【pre PCI】57.4% 対 【post PCI】38.2%(p=0.004)となり、PCI前にIMPELLAを導入することが有意に予後が良かったという結果でした。

pre-PCI vs post-PCI:
The Current Use of Impella 2.5 in Acute Myocardial Infarction Complicated by Cardiogenic Shock: Results from the USpella Registry (OʼNeill WW, Schreiber T, Wohns DH, et al, J Interv Cardiol 2014; 27: 1-11)

この比較研究にはサブ解析がありまして、機械的サポートが無くPCIを実施した群(No support Pre-PCI, n=38)、PCIに先行してIABPを導入しPCI後にIMPELLAを挿入した群(IABP pre-PCI, n=53)、IMPELLAを導入してPCIを実施しIMPELLAの継続サポートを実施した群(IMPELLA pre-PCI, n=63の生存退院率が比較されています。

結果は上記それぞれが39.5%、41.5%、65.1%となり、PCIに先行してIMPELLAを導入した方が予後が良いという結果となりました。

No support vs IABP vs IMPELLA:
The Current Use of Impella 2.5 in Acute Myocardial Infarction Complicated by Cardiogenic Shock: Results from the USpella Registry (OʼNeill WW, Schreiber T, Wohns DH, et al, J Interv Cardiol 2014; 27: 1-11)

これで、IABPよりはIMPELLAの方が良いというデータが得られましたが、あくまでもregistryの解析であり、ランダム化比較試験が必要とされる感じですね。

USpella Registryについての論文はこちら

あわせて読みたい
The Current Use of Impella 2.5 in Acute Myocardial Infarction Complicated by Cardiogeni... To evaluate the periprocedural characteristics and outcomes of patients supported with Impella 2.5 prior to percutaneous coronary intervention (pre-PCI) versus ...

cVAD Registry

IMPELLA>IABPかもしれない結果が出たところで、次は個人的に面白いと思った検証結果です。

cVAD Registry、そのタイトルを「Women With Cardiogenic Shock Derive Greater Benefit From Early Mechanical Circulatory Support: An Update From the cVAD Registry (Joseph SM MD, Brisco MA MD, et al, J Interv Cardiol 2016;29(3):248-256.)」という、こちらはAMI発症に伴う心原性ショック患者へIMPELLA 2.5によるサポートをして生命予後に男女差が出るか多施設、後ろ向きレジストリー研究です。

cVAD Registry:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/joic.12298

AMI発症に伴う心原性ショック患者のPCI 180例について、男性131例(Male)、女性49例(Female、27.2%)という男女比です。また、男女それぞれでPCI前にIMPELLAを導入(pre-PCI)とPCI後にIMPELLAを導入(post-PCI)に分類されます。分類の人数等の詳細は割愛させていただきますので論文をご覧ください。

結果は、まず男女での退院生存率はMale vs Femaleで46.6%対38.8%(p=0.3)であり、有意差はありませんでした。しかし、pre-PCIとpost-PCIでは57.3%対35.2%(p=0.003)であり、やはりPCIに先行してIMPELLAを導入する方が生存率は高いということでした。

次に男女別のIMPELLA挿入タイミングによる退院生存率ですが、男性は54.2%(Male pre-PCI)、40.3%(Male post-PCI)で、女性は68.8%(Female pre-PCI)、24.2%(Female post-PCI)となっており、男性(p=0.1, p-interaction=0.07)と女性(p=0.005)では女性の方が退院生存率が高いという結果になりました。

Male vs Female:
Women With Cardiogenic Shock Derive Greater Benefit From Early Mechanical Circulatory Support: An Update From the cVAD Registry (Joseph SM MD, Brisco MA MD, et al, J Interv Cardiol 2016;29(3):248-256.)

しかも、女性の方が年齢が高い (女性:71.0 ± 12.8 歳 vs 男性:63.8 ± 13.0, P = 0.001)にも関わらずこの結果となっています。

cVAD Registryについての論文はこちら

あわせて読みたい

・・・というわけで、後ろ向き研究の結果ではありますが、IABPよりIMPELLAの方が生命予後は良いかもしれないという結果であり、IMPELLAの導入はPCIに先行して導入するのが良いという結果となりました。

さいごに

この記事を読んだ方向け オススメの参考書

補助循環用ポンプカテーテル マスターガイド - Impella A to Z

Moegi

IMPELLAに関して専門的に書かれている唯一といっていい参考書です。
当然私も所持しています。

IMPELLAの参考書が販売されています。 基礎編と臨床編で構成されており、プロトコルなど全国の医療機関の実例を基に執筆されています。 販売されて間もないCP SAと5.5SAも掲載されています。

皆さんの中には、意外な結果だなと思われた方がいらっしゃるかもしれません。
そしてまだ、IABPより絶対にIMPELLAの方が良いとも言い切れない状態です。

今後の大規模なランダム化比較試験が待たれる状態ですね。

今回は生命予後に関する文献でした。次回は循環動態に関する文献を紹介したいと思います。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

シェアして頂くと励みになります!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

CEじゃーなる おすすめ書籍紹介

その名の通り、教科書的なイラストではなく、透視図と断面図が掲載されており、心臓の詳細な解剖が掲載されています。 解剖書では見られない、心臓外科医の先生が描かれる参考書となっております。
循環器の解剖や基本的な疾患が掲載されているスーパービジュアルシリーズです。 病気が見えるシリーズに似ていますが、実は内容はほぼ同じで価格が約半値です。 しかも見やすい図解ですのでとてもおすすめです。
大きな声では言えないのですが、後輩達数名が所持していました。 そして、私も購入しています。 生理学や数式から循環を学ぶ参考書です。 グリコカリックス理論等についても触れられています。
心カテ業務で必要な基本的な内容が盛り込まれています。 普段は後輩に貸しているオススメの1冊です。 当ブログの参考資料としても重宝しています。

この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

コメント

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

目次