心電図に関する長期化シリーズを執筆することにしました。
循環器の業務に携わるにあたって・・・いや、循環器領域に関わらず全ての領域で、そして、医療従事者には必須なのが、「心電図」です。日本人の死因原因第2位は心疾患です。異常な心電図は早期発見が命に関わるとても重要なものです。
筆者自身も心電図が苦手・・・
私Moegiはとても心電図といいますか、不整脈領域がとても苦手です。大の得意分野の虚血領域とは同じ循環器領域でも全く性質の異なる領域だと感じております。
この一連の心電図シリーズを執筆することで、私自身の苦手克服の勉強と、心電図検定や認定資格を受験される皆様の手助けとなるような内容にできればと考えています。
今回は心電図の基礎知識を説明します。
【12誘導心電図の貼る位置とコツについて】
先行して公開している、「12誘導心電図の貼る位置とコツについて」にて、基本波形、波形の意味すること、刺激伝導系の基本的事項を述べています。
本記事ではこれらを省かせていただきますので、リンク先をご参照ください。
心電図の歴史
まずは歴史から。
19世紀前半には、心筋から電気が発生していることを発見されており、1897年オランダのWillen Einthovenが現在の四肢誘導に似た心電図を記録しました。その後の1934年にFrank Norman Wilsonによって、単極胸部誘導、1942年にEmanual Goldbergerによって増高単極肢誘導が四肢誘導に加えられました。
そうです、Einthovenの三角形、Willsonの結合電極、Goldberger電極のあのお三方です。
国試では何気に出題されるところです。
心電図を記録する意味とは
心電図を記録する理由は何らかの疾患を発見するためですが、グループ分けすると3種類に分けられます。
- 刺激伝導系の異常が原因となる心疾患
- 刺激伝導系以外の異常が原因となる心疾患
- 心疾患以外が原因となる疾患
それぞれの心電図から読み取ることのできる疾患は以下の通りです。
実力心電図: 「読める」のその先へ【改訂版】, p13
- 刺激伝導系の異常が原因となる心疾患
徐脈性不整脈、頻脈性不整脈、Brugada症候群、WPW症候群
QT延長症候群、QT短縮症候群、早期再分極症候群- 刺激伝導系以外の異常が原因となる心疾患
狭心症、心筋虚血、心筋症、心膜炎、心房負荷、心室肥大
- 心疾患以外が原因となる疾患
電解質異常(K+、Ca2+、Mg2+)
肺疾患(気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎)、気胸
中枢神経疾患(くも膜下出血、脳出血)
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症 etc…
刺激伝導系
先行して公開している、「12誘導心電図の貼る位置とコツについて」にて、刺激伝導系について述べていますが、もう少し詳しく。
- 洞結節はSVCにおける右房への流入部の前壁側に存在する
- 心房内の刺激伝導系は結節間路と呼ばれ、前・中・後結節間路の3経路が存在する
- 房室結節は、正確には房室接合部にはなく、右房側の右下端縁に位置する
- His束は房室接合部を貫き左室側に走行する
- 右脚は再度心室中隔上部を貫き、心室中隔右室側を走行する
- 左脚は速やかに前肢及び後肢に分岐し、前肢は左室前壁を左方に走行、
- 後肢は分岐直後に中隔枝を分岐させ、左室後側壁を下方へ走行する
刺激伝導系
実力心電図: 「読める」のその先へ【改訂版】, p15
右脚ブロックの頻度が高い理由
右脚ブロックが左脚ブロックより発生頻度が高いのは以下理由が挙げられます。
◇ 右脚は左脚より圧倒的に細い
◇ 右脚は分岐するまで長い距離を走行するが、左脚は速やかに前肢及び後肢に分岐する
冠動脈の走行
冠動脈の走行を覚えることは、心電図所見から心筋梗塞部位や梗塞を生じている責任冠動脈を推定するのに役立ちます。
右冠動脈(RCA)
◆ RCAは右房室間溝(右房と右室の間)を走行し、右心耳の下行に沿って後房室間溝へ走行
◆ 右室と左室境界の後房室間溝と後室間溝との交点で、#4PDと#4PLに分岐
◆ 洞結節を灌流するのは、RCA起始部付近より分枝する洞結節枝(SN)
◆ 房室結節を灌流するのは、#4PL近位部から分岐する#AV
上記よりRCAの心筋梗塞でAVブロックが生じやすいということであり、RCA os(RCA入口部)付近、つまり洞結節枝(SN)より近位部で閉塞をしてしまうと徐脈や洞停止などの洞機能不全が起こり得るというわけです。
右室、洞結節、房室結節、左室下壁、心室中隔一部、後乳頭筋
日本不整脈心電学会「実力心電図【改訂版】」, p16
左冠動脈(LCA)
◇ LCAは前室間溝(左室前面、右室と左室の間)を走行する左主幹部(LMT)から左前下行枝(LAD)と
左回旋枝(LCx)に分岐する
◇ LADは前室間溝を下行し、心尖部まで走行する(後室間溝で#PDと吻合す)
◇ LADは左室自由壁へ対角枝(diagonal)が、心室中隔へ中隔枝(septal)が分岐する
◇ LCxは左房室間溝(左房と左室の間)を走行して左室後側壁へ分布する(左室後壁で#4AVと吻合)
左室前壁、心室中隔、心尖部
左室側壁、左室後壁、前乳頭筋
国立循環器病センター病理部「循環器診療に活かす 心臓血管解剖学」, p,49 メジカルビュー社冠動脈模式図
判読するための基本事項
心電図の判読を始める前に、記録紙のことや心拍数の求め方などをおさらいしておきます。
記録紙
まずは記録紙についてです。標準設定として、記録時の標準紙送り速度は25[mm/sec](横軸)、電位増幅は10[mm/mV](縦軸)です。
記録紙のマス目について、細い線の小さいマスと太い線の大きいマスがあり、細い線が1mm、太い線が5mmごとに引かれています。
また、縦軸は電位[mV]を、横軸は時間[sec]を示しています。
記録時はキャリブレーションとして、1[mV]が印字されます。
上記から覚えることは以下の通りです。
- 縦軸
-
- 標準紙送り速度は25[mm/sec]
- 小さいマス1つあたり 0.04[sec]
- 大きいマス1つあたり 0.20[sec]
- 横軸
-
- 電位増幅は10[mm/mV]
- 小さいマス1つあたり 0.1[mV]
- 大きいマス1つあたり 0.5[mV]
日本不整脈心電学会「実力心電図【改訂版】」, p22心電図記録紙の設定
心拍数の算出
次に記録紙から心拍数を算出する方法です。
数字が得意な方はその場で計算が可能だと思いますが正直面倒です。
簡単な公式を覚えてしまいましょう。
大きいマスと小さいマスどちらでも良いですが、どちらか好きな方を選択してください。
心拍数をxとして、RR間隔のマス目の個数をn個とします。
①大きいマス(1マス=0.2秒)
x = 60 ÷ (n × 0.2)
= 60 ÷ 0.2 / n
= 300/n
大きいマスで数える場合は、300を大きいマスの数で割れば心拍数が求まります。
②小さいマス(1マス=0.04秒)
x = 60 ÷ (n × 0.04)
= 60 ÷ 0.04 / n
= 1500/n
小さいマスで数える場合は、1500を小さいマスの数で割れば心拍数が求まります。
覚えやすい方で覚えてください。私は1500を選択しますね。大きいマスの数えミスが出そうなので。
(小さいマス1つが大きいマス0.2に相当することを冷静に数えられるかです)
【例題】
「実力心電図【改訂版】」に例題がありましたのでお借りしました。
大きいマスを使用していますね。
日本不整脈心電学会「実力心電図【改訂版】」, p23
電極について
電極についてですが、工学的内容から少し説明を追加させていただきます。
数行で済ませるつもりだったのですが、筆者があまりにも熱く語りそうになって、ボリュームが膨大になりかけたので、ここでは臨床工学技士以外の医療従事者様向けに簡潔に説明したいと思います。
臨床工学技士の皆様には、国試対策の内容にしては不足しますので、別記事をご参考にしてください。
※近日執筆します
各電極の貼付け位置や色については「12誘導心電図の貼る位置とコツについて」をご参照ください。
電極に求める性能
心電図計測で一番の問題といって良いのが、心臓を起源とする以外の電位が電極に混入することです。
つまりはノイズですね。
電極や心電計そのものにノイズを抑制する工夫がされていますが。
以下に電極に求める性能を挙げます。
- 電極に求める性能
-
- 電極インピーダンスが小さいこと
- 接触インピーダンスが小さいこと
- 分極電圧がが小さいこと
- 生体と安定で良好な状態で接触が保たれること
電極を使用する上での問題点
ノイズには様々な種類がありますが、電極関連によるノイズは分極電圧と静止電位です。
また金属電極では、心臓カテーテル検査/治療時などX線透視下で影が生じてしまうことです。
ノイズに関しては、開封して時間が経過した乾いた電極を使用しない、適切な位置に貼り付ける、適切な電極ペースト量を使用することでほとんどのノイズ問題は解決するはずです。
電極に施されたノイズ対策
使用されている心電図電極は、大きく2種類となります。
- 銀-塩化銀電極
-
分極電位が非常に小さいのが特徴
- カーボン電極
-
電極からリードまで金属が使用されていないため、X線透視化で影が出ない。
おすすめの参考書
Twitter民には、心電図検定を受験したり、認定資格を受験していらっしゃる方を大勢見かけます。
Moegiは不整脈が苦手で、日々勉強しているのですが、苦手故に覚えにくいところでもあります。
今回は心電図を勉強する上でオススメの参考書を2冊ご紹介します。
2冊とも有名な参考書で、一時品薄になっているものも・・・買える時に買うことをお勧めします。
実力心電図: 「読める」のその先へ【改訂版】
日本不整脈心電学会が出している「実力心電図」です。2022年に改訂版が出されて、当初は品切れになる勢いであり、私は入手できなかったのですが、最近購入することができました。
心電図の判読のポイント、発生のメカニズムが記載されていて、12誘導をこれから学びたいという方にお勧めする1冊です。
なお、改定前のものは高騰しており、改訂版の方が安価であることがありますのでご注意ください。
心電図の読み方パーフェクトマニュアル―理論と波形パターンで徹底トレーニング!
こちらも有名な1冊であり、公式の心電図検定問題集の内容にかなり即したものとなっているようです。
レビュー情報からもこの1冊暗記すれば心電図検定1級は合格はできるとのこと。
ただ、出版が2006年となっているため、最近のトレンドは網羅できていないかもしれない点にご注意ください。
アンケート調査では・・・
心電図を勉強する上で、上記2冊とその他何が良いかのアンケートを実施しました。
ご協力いただいた皆様、ありがとうございます。
結果は・・・「心電図の読み方パーフェクトマニュアル」が大半を占めていましたが、3割程度の方が実力心電図と2冊ともということでした。
さいごに
今回は、心電図を記録する意義や記録紙や電極に関する基礎知識をおさらいしました。
本記事は心電図に関する記事の最初ということで、少し軽めの内容となっております。
次回から筆者としては、もうまとめるのが嫌になってくるような内容になってきますが、共に頑張って心電図を学んでいきましょう。
コメント