抗凝固薬といえば、血液浄化を筆頭に人工心肺、補助循環、脳梗塞予防などで使用されますね。
本記事では、抗凝固薬の種類と各種特徴について説明していきたいと思います。
様々な領域で抗凝固薬は使用されますが、本記事では臨床工学技士を筆頭に最も馴染み深いであろう血液浄化にフォーカスを当てて説明をします。
Moegi学生、現役スタッフ、皆さんが苦手な抗凝固薬です。
自身の復習も兼ねてまとめます。
【大前提】凝固カスケード
内因系と外因系
抗凝固薬の話をする上でしておかなければいけない大前提のことは、凝固カスケードです。
もしくは、カスケード(cascade)ではなく、ウォーターフォール(waterfall)とも呼ばれます。
んー、これは私も覚えるのを面倒臭がっていて、皆さんが苦手な内容の一つです。
まずはご覧ください。
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見ての通りですが、これでも省略している方であるのが事実です。
全部を覚える必要性は無いとは思いますが、要所は覚える必要はあります(国試に出てきますからね・・・)。
凝固カスケードは外因系と内因系というそれぞれの始点があり、途中で合流して共通系へ移ります。
イメージしやすく簡単にいいますと、外因系は血管の損傷に対する凝固反応、内因系は異物接触に対する凝固反応といった感じです。
我々CEは基本的には体外循環(透析や人工心肺など)やカテーテル業務などで患者の血液に対して生体にとって異物となるものを接触させるような治療をしていますので、内因系に関して非常に密接な関係にあることは認識しておいても良いかもしれません。
もちろん、内視鏡業務やope場業務では言い方を変えると生体組織を損傷させるような治療をしているわけですので、外因系も無関係というわけにはいきません。
各因子の名称
凝固因子の番号はI~XIIIまで割り振られています。
ただし、VIは欠番です。
全てを覚える必要性はないと思います。
一覧を見てみると、I:フィブリノゲン、II:プロトロンビン、IV:Ca2+などは重要であることはわかりますね。
あとは共通系の始点である第X因子は抗凝固薬の機序を覚える上で重要となります。
先程の凝固カスケードを分かりやすく改変したものも示します。
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【フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:vWF)】
余談ですが、止血作用で重要な凝固因子であるフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:vWF)について触れておきます。
極稀にですが、フォン・ヴィレブランド病(von Willebrand disease:VWD)という疾患を持つ患者に出会います。
vWFは血管損傷部位で結合組織中のコラーゲンと血小板の結合の橋渡しをする結合因子の役割があります。
つまりは、vWFは一次止血の役割があるということです。
VWDは遺伝子異常疾患ですが突然変異例もあるようです。
凝固異常を引き起こす疾患で有名なのは血友病ですが、第VIII因子または第IX因子の活性が40%未満で血友病Aと血友病Bに診断されます。
主な抗凝固薬の種類と特徴(まとめ)
では、凝固カスケードと重要な凝固因子の確認をしたので、抗凝固薬の説明へ移ります。
主に使用される4つ+αの抗凝固薬について触れたいと思います。
以下が今回説明する抗凝固薬です。
- 未分画ヘパリン
- 低分子ヘパリン
- ナファモスタットメシル酸塩
- アルガトロバン
- クエン酸
- その他
主に使用される抗凝固薬については簡易的にまとめた一覧をご活用ください。
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未分画ヘパリン(UFH:unfractionated heparin)
概要
抗凝固療法の基本ともいえるのが未分画ヘパリンです。
特に断りがなければ、未分画ヘパリンは「ヘパリン」と呼びますので、本記事でも未分画ヘパリンのことはヘパリンを示すこととします。
ヘパリンはAT-III(アンチトロンビン3)を活性化させて、主にIIaとXaを阻害します。
IIa阻害を別名「抗トロンビン作用」とも言いますので覚えておきましょう。
ヘパリンの拮抗薬にプロタミンが存在し、「プロタミンリバース」とも呼びますね。
忘れがちですが、ヘパリンは陰性荷電ですので、陽性荷電膜や陰イオン交換樹脂には吸着されていまいます。
透析用ヘパリンシリンジ:ニプロ社HPよりhttps://med.nipro.co.jp/ph_product_detail?id=a0A1000000jVfF7EAK
投与量
投与量は添付文書上以下の通りです。
”人工腎では各患者の適切な使用量を透析前に各々のヘパリン感受性試験の結果に基づいて算出するが、全身ヘパリン化法の場合、通常、透析開始に先だって、1,000~3,000 単位を投与し、透析開始後は、1時間当たり、500~1,500単位を持続的に、または1時間ごとに500~1,500単位を間歇的に追加する。”
※ヘパリンNa透析用250単位/mLシリンジ20mL「ニプロ」添付文書より
というわけで、現在の添付文書では体重当たりの目安では記載がありません🫢
よって維持透析患者であれば、日々の回路内残血、止血時間によって調整するのが良いと考えます。
ヘパリン投与量 設定におけるTips
HDまたはHDF導入患者、PEやDFPPなど対外循環初回の投与目安ですが、経験的にではありますが、ショット量:750IU、持続量:500IU/hあたりを基準として、体格や凝固系など採血データを参考に増量を検討しています。
後はショット後のACTで持続量を調整、治療終了1時間前や30分前にACTを測定し、カット時間を調整します。
なお、ヘパリンのACT(活性化凝固時間)やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)は、正常値の1.5~2.0倍に調整します。よって、ACTは150~200秒、APTTは40~60秒で管理するのが目安です。
カット時間もまた、回路内凝固、止血時間、ACTなどにより適宜調整します。
30分~60分前の範囲で設定されることが多く、カット無しの場合もあります。
注意点
ヘパリンは出血性疾患を合併している場合や外科手術後など出血傾向にある患者へは投与に注意してください。
後述するナファモスタットメシル酸塩や低分子ヘパリンに変更を検討ください。
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin induced thrombocytopenia, 通称:ヒット)の発症には充分に注意し、PLT(血小板)の急激な低下などがあればHITも念頭に入れて対処をしても良いかもしれません。
HIT患者へはヘパリンは使用禁忌です。アルガトロバンの準備をしておきます。
ヘパリンには脂質分解作用があると報告されています。
長期使用で脂質代謝異常を生じる可能性が稀にありますのでご注意ください。
再度いいますが、ヘパリンの効果はAT-IIIがあってこそです。
ヘパリンの投与量を増量させてもACTが延長しなかったり、凝固が多くなったりする場合はAT-III欠乏を疑います。
AT-III量を測定して、ノイアートなどのAT-III製剤による補充を検討します。
最後に、未分画ヘパリンは高K血症を副作用として呈することがあります。
特に透析導入初期の患者では注意を要しますが、その他に糖尿病患者、ACE阻害薬やARB投与患者でも注意します。
- 抗凝固療法の基本製剤
- AT-IIIを介して主にIIaとXaを阻害
- ショット量:1,000~3,000IU、持続量:500~1,500IU/h
※体重あたりでは・・・ショット量:20~50IU/kg、持続量10~25IU/kg/h - カット:状況に応じて、60分前、45分前、30分前、カット無しなどから選択される
- ACT:150~200秒、APTT:40~60秒(共に正常値の1.5~2.0倍)
- 拮抗薬にプロタミン
- ヘパリン自体は陰性荷電
- HIT発症に注意
- 脂質代謝異常に注意
- 導入患者での予期せぬ高K血症に注意



高K血症に関しては別で解説したいと思っています。
低分子ヘパリン(LMWH:low molecular weight leparin)
概要
低分子ヘパリンは「ローヘパ」とも呼ばれます。
軽度の出血傾向のある患者へ使用します。
“ヘパリン”には違いないので、ローヘパはAT-IIIを活性化させて、主にIIaとXaを阻害します。
ただし、未分画ヘパリンとの違いはIIa阻害(抗トロンビン作用)が弱いということがポイントです。
出血傾向で使用できるということですが、生体内での凝固時間延長はIIa阻害(抗トロンビン作用)による影響力が大きく、異物接触による・・・つまり、体外循環における抗凝固作用というのはXa阻害によるところが大きいということです。
出血傾向であっても、IIa作用が保たれていることで出血を抑制できるというわけですね。
低分子ヘパリンシリンジ:ニプロ社HPよりhttps://med.nipro.co.jp/ph_product_detail?id=a0A1000000jVfF7EAK
投与量
投与量に関して、添付文書を2つ参考にします。
”・出血性病変⼜は出血傾向を有しない患者の場合通常、成⼈には体外循環開始時、ダルテパリンナトリウムとして15~20国際単位/kgを回路内に単回投与し、体外循環開始後は毎時7.5~10国際単位/kgを抗凝固薬注⼊ラインより持続注⼊する。
・出血性病変⼜は出血傾向を有する患者の場合通常、成⼈には体外循環開始時、ダルテパリンナトリウムとして10~15国際単位/kgを回路内に単回投与し、体外循環開始後は毎時7.5国際単位/kgを抗凝固薬注⼊ラインより持続注⼊する。”
※ダルテパリンNa静注シリンジ「ニプロ」添付文書より
”〈出血性病変又は出血傾向を有しない患者の場合〉
通常、成人には体外循環開始時、パルナパリンナトリウムとして15~20単位/kgを体外循環路内血液に単回投与し、体外循環開始後は毎時6~8単位/kgを抗凝固薬注入ラインより持続注入する。なお、体外循環路内の血液凝固状況に応じ適宜増減する。
〈出血性病変又は出血傾向を有する患者の場合〉
通常、成人には体外循環開始時、パルナパリンナトリウムとして10~15単位/kgを体外循環路内血液に単回投与し、体外循環開始後は毎時6~9単位/kgを抗凝固薬注入ラインより持続注入する。”
※ローヘパ透析用100単位/mLシリンジ20mL添付文書より
ローへパ投与量 設定におけるTips
ルーチンとしてローヘパを使用しているところは少ないと思われますので、出血傾向の場合を参考にすると、ショット量:15-20IU/kg、持続量:5~10IU/kg/hといったところでしょうか。
ヘパリン同様に日々の回路内残血、止血時間によって調整するのが良いと考えます。
こちらも個人的な経験による見解ですが、急性期病院の当院でローへパを導入することがほぼないので、前医に合わせて準備をするのですが、全般的にショット量はヘパリンよりも多めに投与される印象です。
持続量に関しては、ヘパリンと同等量の印象です。
ショット量が1000IUや1500という患者を結構見かける気がしますが、2000IUという患者も見かけたことがあります。
カット時間は半減期のこともあり、60分、90分、120分前などベースはヘパリンより長い印象です。



【編集部注釈】Moegiはこう言ってますが、維持透析施設のうちではダルテパ(ローヘパ)をルーチンとして使ってたりしますね・・・。
またうちのルーチンではショット量500単位、持続250単位とヘパリンと比べても少量で充分なので3000単位/12mLシリンジで足りています。その代わり少量なのでカットはしない具合ですね。
添付文章に従うならもっと多くても良いぐらいなんですが。。。
皆さんの施設はどうですかね?



急性期病院なので、ほぼ個人的感想ですね。
編集部のようなルーチンで使用しているところもあるのか・・・というところです。
注意点
IIa阻害(抗トロンビン作用)は弱いというだけで、抗凝固作用はあります。
あくまでも比較的軽度の出血傾向患者での使用ということに注意します。
未分画ヘパリンのようにHITの発症や脂質代謝異常を引き起こす可能性はありますが、未分画ヘパリンよりは可能性としては低いようです。
ローヘパの最大のポイントは、抗凝固作用のモニタリング指標として、ACTやAPTTは使用できないということです。
ACTやAPTTというのはIIa活性の影響を強く受けるので、ACTやAPTTでのモニタリングは適さないというわけです。
ローヘパのモニタリングは、全血Xa凝固時間(XCT, Xa-ACT:Xa activated coagulation time)を使用しますが、ベッドサイドで測定ができない点にご注意ください
- 軽度な出血傾向患者に使用
- AT-IIIを介して主にXaを阻害(IIa阻害は弱い)
- ショット量:15-20IU/kg、持続量:5~10IU/kg/h
- カット:状況に応じて、60分前、90分前、120分前などから選択される
- ACTとAPTTは指標に使用できない(XCTはベッドサイドで測定できない)
- プロタミンの作用、HIT発症、脂質代謝異常は未分画ヘパリンより弱い
ナファモスタットメシル酸塩(NM:nafamostat mesylate)
概要
ナファモスタットメシル酸塩(NM:nafamostat mesylate, 以下、NMとする。)は出血傾向患者に使用されます。
先発品が”フサン“ですので、その名残りで“フサン”と呼ばれることも多いです。
“ナファモスタット”でもやや長いので、私は“ナファモ”と呼ぶこともあります。
元々は急性膵炎や播種性血管内凝固(DIC:disseminated intravascular coagulation)の治療のために開発された”蛋白分解酵素阻害薬“です。
ですので、IIa、Xaの阻害だけではなく、キニン・カリクレイン系、プラスミン線溶系、PLT凝集抑制作用などからあらゆる凝固系を抑制することで抗凝固作用をもたらします。
また、AT-IIIを介さずにIIa、Xaの阻害をしますので、AT-III欠乏症患者へも使用が可能です。
ナファモスタットメシル酸塩:日医工HPより https://www.nichiiko.co.jp/medicine/product/20390
投与量
投与量は添付文書上以下の通りです。
“通常、体外循環開始に先だち、ナファモスタットメシル酸塩として20mgを生理食塩液500mLに溶解した液で血液回路内の洗浄・充てんを行い、体外循環開始後は、ナファモスタットメシル酸塩として毎時20~50mgを5%ブドウ糖注射液に溶解し、抗凝固剤注入ラインより持続注入する。なお、症状に応じ適宜増減する。”
※ナファモスタットメシル酸塩注射用「日医工」添付文書より
ということで添付文書上は、持続投与:20~50mg/hということになります。
昔の文献などでは、0.1-1.0mg/kg/hという投与量で調整されているのを見かけます。
ナファモの投与量 設定におけるTips
実臨床では、ショット量はゼロ(抗凝固ライン分のショット)で持続量は30mg/hを基準として、患者状態に合わせて20~40mg/hの範囲で調整することが多いです。
NMのACTやAPTTはヘパリンと同様であり、ACT(セライト法)は150~200秒、APTTは40~60秒で管理します。
注意点
NMの注意点は国試の範囲上でも、臨床上でも重要となります。
ここでは語り切れないので、要点のみまとめます。



NMは特徴が多いので覚えるのが大変です。
抗凝固作用は血液回路内に限定
NMは血中でエステラーゼなどにより速やかに分解されるため半減期が約8分(5~15分)と短くなっています。
そして、透析性がありHDやHDFにより約40%(30~50%)が除去されてしまいますので、抗凝固作用は血液回路内にほぼ限定されるといっても良いでしょう。
そのためIIa、Xaの阻害作用があっても、出血傾向患者に使用できるというわけですね。
溶解時の注意点
NMをバイアル内で溶解する際は必ず5%ブドウ糖液で溶解します。
生理食塩液などで溶解すると白濁や結晶が析出する恐れがあります。
プライミングでNMを使用したい場合は、まず5%ブドウ糖液で溶解してから、生理食塩液へ混注しましょう。
陰性荷電素材への吸着
NMは陽性荷電ですので、陰性荷電膜に吸着されてしまい、膜以降の抗凝固作用が減弱していまいます。
PAN膜(AN69膜)、sepXiris(AN69ST膜)、レオカーナやリポソーバ(LDL吸着)などで使用する場合はご注意ください。
特に長時間使用を想定するsepxirisの使用時は、前後でNMを投与します。
アナフィラキシー様症状
NMの副作用としてアナフィラキシー様症状を発症することがあります。
体外循環開始時の抗凝固ライン分のショットをする際は、ショット量にご注意ください。
特にNMの使用初回や周術期のためヘパリンから切り替える際もご注意ください。
ACT管理
ACTの測定方式には、「カオリン法」と「セライト法」がありますが、カオリンではNMを吸着してしまうという特性があるので正確にACTが測定できません。
NMのACTをモニタリングする際はセライトを使用されているものを使用するようにしてください。
血圧低下予防効果
こちらは注意点というよりは、NMの副次効果を利用するものです。
特にアフェレシス療法で利用するのですが、IAPP(免疫吸着療法)やLDL吸着(レオカーナやリポソーバー)など陰性荷電カラムを使用すると、どうしてもブラジキンによる血圧低下が発生しやすいのです。
このNMはあらゆる酵素系を抑制しますが、キニン・カリクレイン系(KKS)の抑制効果があるので、ブラジキンによる血圧低下を抑制し、結果として血圧低下予防もしくは血圧上昇効果が得られることもあるといったところです。
その他
その他にヘパリンより高価という点(つまり、長期使用ではコスト的に不利)、稀に高K血症リスク
- 出血傾向患者に使用
- AT-IIIを介さずにIIa、Xaを阻害(その他各種酵素を阻害)
- ショット量:なし、持続量:30mg/h(20~40mg/h)
- 抗凝固作用は血液回路内に限定(体内で速やかに分解)
- ACT:150~200秒、APTT:40~60秒(共に正常値の1.5~2.0倍)
※ただし、ACTはセライト法 - バイアルでの溶解は5%ブドウ糖液
- アナフィラキシー様症状に注意
- 陰性荷電に吸着
- 血圧低下予防効果がある(キニン・カリクレイン系抑制)
- 稀に高K血症



NMは特徴が多いですね。しかも重要なものばかり・・・。
NMだけまとめようかと思います。
アルガトロバン(AGN:argatroban, AH:argatroban hydrate)
概要
アルガトロバンはAT-IIIを介さずに直接抗トロンビン作用(IIa阻害)を発現します。
基本的にはHIT患者に使用しますが、AT-III欠乏症にも適用されます。
半減期は30~45分といったところです。
投与量
投与量は添付文書上以下の通りです。
“通常、成人に、体外循環開始時に1管(アルガトロバン水和物として10mg)を回路内に投与し、体外循環開始後は毎時2.5管(アルガトロバン水和物として25mg)より投与を開始する。凝固時間の延長、回路内凝血(残血)、透析効率及び透析終了時の止血状況等を指標に投与量を増減し、患者毎の投与量を決定するが、毎時0.5〜4管(アルガトロバン水和物として5〜40mg)を目安とする。”
※ノバスタンHI注10mg/2mL, 田辺三菱製薬 添付文書より
ということで添付文書上は、ショット量:10mg、持続量:5~40mg/hですね。
アルガトロバン投与量 設定におけるTips
体重当たりに換算すると、ショット量:0.2mg/kg、持続量:0.1~1.0mg/kg/hが目安となります。
HIT患者への適用を想定しますが、基本的にはAPTTをモニタリングとして使用します。
APTTは投与前の1.5~3.0倍でかつ100秒以下で調整するようにし、目安として60秒以上となるように投与します。
注意点
半減期が30~45分とやや長く、IIa阻害(抗トロンビン作用)が強いので、出血傾向患者にしようする場合は注意します。
・・・とはいえ、短時間投与で済むのであればNMが選択されると思います。
ただし、NMの持続投与では抗凝固作用が不足される場合や血液浄化以外で強い抗凝固療法が必要な場合はアルガトロバンが選択されるでしょう。あとは、NMにアレルギーがある場合のHIT患者やAT-III欠乏患者でしょうか・・・。
また、抗凝固のモニタリングにACTも使用は可能で、これまで同様に150~200秒が目安です。
IIaの活性を含む内因系カスケードを反映するAPTTの方が精度が高いとされているので、ACTを簡便な指標に使用するというのは良いですが、日常管理としてはAPTTが良いとされています。
アルガトロバンは肝代謝のため、肝機能低下患者・肝不全患者への使用では、血中濃度が著しく上昇することでAPTTが過延長することがありますので注意します。
そして、代謝遅延により出血リスクの助長になる可能性があるので肝機能障害のある場合は慎重投与が必要です。
そして何よりも高価です。
NMで管理可能ならば、NMを使用するのが良いでしょう。
- HIT、AT-II欠乏症症例に使用
- AT-IIIを介さずにIIaを阻害
- ショット量:10mg、持続量:5~40mg/h
※ショット量:0.2mg/kg、持続量:0.1~1.0mg/kg/h - APTTは投与前の1.5~3.0倍でかつ100秒以下で調整
目安として60秒以上となるように投与
※ACTはあくまでも簡便指標 - 肝機能低下患者ではAPTT過延長と残留による出血リスクに注意
- 高価
抗凝固薬 主要4剤の薬科目安
- ヘパリン
250IU/20mL ・・・ 255円
ヘパリンNa注5千単位/5mL「モチダ」 ・・・ 165円 - ローヘパ
ダルテパリン2500IU/10mL ・・・ 455円
ダルテパリン5000IU/20mL ・・・ 728円
パルナパリン2000IU/20mL ・・・ 522円
パルナパリン4000IU/20mL ・・・ 940円 - NM(50mg/瓶)・・・ 650円, 715円
- アルガトロバン
ノバスタン(10mg/2mL)・・・ 1,264円
スロンノン(10mg/2mL)・・・ 1,323円



NMやアルガトロバンの高単価が目立ちます
クエン酸
概要
今回クエン酸についても少し触れたいと思います。
クエン酸は基本的には欧州で使用される抗凝固薬で、日本ではFFPなどの血液製剤の抗凝固薬として使用されます。
凝固カスケードを再度提示しますが、IXa、Xa、IIaへの活性化作用のために第4因子としてCa2+は必要とします。
ここまでで何度も登場している通り、Xa、IIaの阻害による抗凝固作用を目的としています。
クエン酸・・・正確にはクエン酸Naは血中のCa2+と結合しキレート作成します。
血中Ca2+濃度を下げることで抗凝固作用を得ているというわけです。
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投与量
日本での使用が一般化されていないので、使用されている施設はほとんどないので参考資料は非常に少ないです。
凝固カスケードを抑制する血中Ca2+濃度のボーダーラインは0.35[mmol/L]未満とされています。
抗凝固薬としてのクエン酸Na投与量は、血液回路内Ca2+濃度が0.25~0.35[mmol/L]になるように投与します。
そして、必要に応じて返血側にCa製剤で補充するという感じです。
注意点
クエン酸自体はTCA回路(クエン酸回路)で代謝されます。
そのため、TCA回路はミトコンドリアで行われるものですが、ミトコンドリアが多い肝臓で主に代謝されるため、肝不全などの肝機能低下患者には使用注意です。乳酸アシドーシス症例も注意します。
クエン酸Naを投与するので、Na負荷・・・高Na血症のリスクが伴います。
まぁ、HDをしているのいであれば補正は同時にされますが・・・。
そして、クエン酸が代謝された先はHCO3–ですので代謝性アルカローシスにも注意します。
また、クエン酸のキレート作用は2価以上の陽イオンとの親和性が高いので、低Ca血症だけではなく、低Mg血症にも注意します。
- 日本での使用は少ない
- 第4因子Ca2+と結合してキレートを作成
- 血液回路内Ca2+濃度が0.25~0.35[mmol/L]になるように投与
- 低Ca血症、低Mg血症、高Na血症に注意
- 代謝性アルカローシスにも注意
- 肝不全患者、乳酸アシドーシス症例には使用禁忌
その他の抗凝固薬
その他ということですが、ここではサラッと紹介程度です。
抗凝固薬は血液浄化、人工心肺、補助循環などの体外循環だけで使用されるわけではありません。
脳梗塞、心筋梗塞を始めとした血栓塞栓症の治療や予防、PCIや弁置換術後の血栓形成の予防にも使用されます。
このような場合は周術期であればヘパリンの持続投与で全身ヘパリン化をしますが、その後は内服に切り替えます。
その代表がワーファリンですね。
ワーファリンは肝臓でビタミンK依存性凝固因子の生成を阻害します。
具体的にはII、、VII、IX、Xの生成が阻害されます。
また、抗凝固薬とは別に抗血小板薬が存在するのは言うまでもありませんが、自分の担当患者がどんな抗凝固薬、抗血小板薬が処方されているのかは確認しておくべき事項かと思います。
代表的なものを示しておきます。
- ワーファリン
- エドキサバン(リクシアナ)
- リバーロキサバン(イグザレルト)
- アビキサバン(エリキュース)
- アスピリン(バイアスピリン、タケルダ)
- イコサペント酸エチル(エパデール)
- プラスグレル(エフィエント)
- クロピドグレル(プラビックス)
- リマプロスト(オパルモン)
- チカグレロル(ブリリンタ)



ここに表示したのは私の独断と偏見で頻出と思ったものです。



維持透析施設であるうちでは「ワーファリン」と「アスピリン」「エフィエント」をよく見かけますね。血栓塞栓症の治療や予防、PCIや弁置換術後の血栓形成の予防はもちろんですが、エビデンスレベルとしてはまだ弱いようですがシャント専門医の管理のもとAVGなどの閉塞防止を企図している症例なども一部見られます。
抗凝固薬に関するオススメの参考書



この記事をここまでお読みになったあなたへ。
おすすめの参考書をピックアップいたしました。
さいごに
以上で抗凝固薬の説明を終わります。
本記事は血液浄化で使用されることを想定した内容としました。
基本的に注意すべきことは網羅したと思っています。
今回は詳しく説明しませんでしたが、AVTやAPTTの話もしたいと考えています。
あと、NMについて語りつくせていないのでNMだけ追加で執筆も検討します。






















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