前回の記事(臨床工学技士 臨床実習に向けた心構えとレポートの書き方例)では社会人としての振る舞いやレポートの書き方など、医療人でなくても必要な一般的に気を付ける点を述べました。
では、実習を上手いこと乗り切るにはどうしたら良いかを考えたいと思います。
実習指導者側から見た大前提のお話
ここで指導者側が実習生に対して思っている大前提の話をします。
臨床実習に来ている学生は、臨床工学技士が業務する上で必要な基礎知識は全て授業で習っているということを前提に話を進めます。
特に人工心肺業務ではその傾向にあるかもしれません(偏見?)。
例えば、「心筋保護液の注入方法や注入圧はどれくらい?」、「送脱血カニューレ、ルートカニューレのサイズは?」っていう質問はされると思いますが、授業でしっかりと習って、覚えている学生さんはどれくらいいるのでしょうか?
大半の実習生は授業でやった覚えはあるけど忘れている、もしくは本当に授業で扱っていない可能性もあります。
しかし、教科書として使用している参考書には載っているはずなので、指導者としては、授業で習っているはず、教科書に載っているでしょ?・・・となるわけです。
もちろん、「ここは国試には出ないと思うけど・・・こういうのがある」という感じで、授業には出てこない内容は前置きをして話をしてくれる指導者もいると思います。
ですので、考えこむよりは、素直に「忘れました、すみません。」「授業では触れられていませんでした」と言いましょう。
逆に、何でも全部授業でやったよね?と全員の指導者が思っている訳ではなく、内視鏡、心臓カテーテル、アブレーションの領域はほとんど授業でやっていないことは指導者は把握しています。
前日準備
各領域の勉強すべきポイントを説明する前に・・・。
実習前に全領域の復習はかなり大変かとは思います。ただ、ついでに国試対策にはなりますので、どっちにしろ全てを復習する必要があります。
当然ではありまありますが悲しいことに、実習生の中にも勉強ができる子・できない子、飲み込みが早い子・遅い子・・・といった風に混在するのが現状です。
そしていつも後者の子へ思うことがあるのです。
「どうして調べて来なかったのか」と。
事前にどのような症例があるのか、どのようなことをするのかは訊いているはずで、調べているであろう内容の質問をしても、フリーズしてわかりませんという実習生が割と多いのが現状です。
何と言いますか、こういう実習生は実習を通して悪い印象のある場合が多いので、指導しても大幅な改善しないことがほとんどです。
就職してから苦労するタイプだと思いますがね・・・。
さて、結局のところ何が言いたいかというと、
全部の復習をしなくても、前日に当日の症例に関わることだけしっかり調べて準備していれば、実習は乗り切れる
ということです。
もちろん、上記のように「何も調べずに当日を迎えても指導されるだけだし、実習自体はpassできるでしょ?」という悪評価ではなく、「しっかり予習してきてくれる子だね」という風にそれなりの評価で実習を乗り切れるのではないかと思います。
知識面の準備について
では実際に知識面でどんなことを予習・復習したら良いのかについて触れていきます。
ズバリ、各養成校が準備している「臨床実習要項」に記載されている「実習チェック表」の項目を予習・復習したら良いと思います。
・・・と言っても、「心臓カテーテルと内視鏡に関してはチェック表にすら記載されていないじゃねーか!!」と思うことでしょう。
その点、人工心肺のチェック表は意外としっかりと項目が設けられております。
血液浄化、人工呼吸(集中治療)、機器管理、ペースメーカ、その他治療機器や医用安全管理学の範囲はチェック表を参考に予習・復習していただければと思います。
ここでは、心臓カテーテルと内視鏡について何を勉強したら良いかを解説したいと思います。
幸い、Moegiは心臓カテーテルと内視鏡共に業務担当しています。
・・・ん?
アブレーション・・・?
知らない子ですね。
申し訳ありませんが、アブレーションは全くの素人ですので解説できかねます。
そもそも難しくて、実習生は何を見学しているのやら・・・と思っています。
ホント、同じ臨床工学技士なのでしょうか。大人しく、PM、CRT、ICDの勉強をしましょう。
※ここからの内容は臨床工学技士の実習に沿った内容となりますので、その他の職種の学生さんには申し訳ありませんが、全く参考にできませんのでご留意ください。
心臓カテーテル領域
ざっと箇条書きにします。
- アプローチ部位(穿刺部位)
→ 左心系と右心系の検査/治療で異なる - 冠動脈の名前と番号
- 心臓の解剖と略語
- 血管の名前と英語と略語
→ 大動脈弓部の分枝、腹部大動脈の分枝、下肢血管は最低限覚える - IVUS
- OCT、OFDI(IVUSとの比較も)
- FFR、RFR
- サーモダイリューションカテーテルで測定できること
- PCIバルーン(セミコンとノンコンの違い)
- ステント(BMSとDESについて)
- ローターブレータ
- フォレスター分類(当サイトで解説)
- カテーテル検査と治療について(下記へまとめます)
- 補助循環(ECMO、IMPELLA、IABP)
・・・とりあえず上記を勉強すれば実習生としては問題ないでしょう。
検査と治療の種類だけまとめるので、それぞれ必要に応じて調べてください。
- 冠動脈造影(CAG)
- 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
- 右心カテーテル検査(RHC)
- 末梢血管形成術(EVT)
- 各種造影(AoG、LVG、RVG、PAG)
- バルーン肺動脈形成術(BPA)
- 経皮的腎動脈形成術(PTRA)
- 経皮的大動脈弁形成術(BAV)
- 心房中隔欠損閉鎖術(ASDO)
- 動脈管開存閉鎖術(PDAO)
- 経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)
- 経皮的経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)
- 心嚢穿刺
- 心筋生検(biopsy)
- ICVフィルタ
- 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)
- 経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip)
- 経カテーテル的肺動脈弁置換術(TPVI)
- 経皮的左心耳閉鎖術(Watchman)
消化管内視鏡領域
こちらもカテーテル同様に箇条書きにします。
- 内視鏡業務指針(日本臨床工学技士会、内視鏡業務指針検討委員会)
→必ず確認することをオススメします。
「え?ここまでCEがするのですか?びっくりです。」とならないように。 - 上部消化管の解剖
- 大腸の解剖
- 内視鏡システムの構成(光源、ビデオプロセッサー、送気送水機器、吸引など)
- 内視鏡スコープの構造
- 内視鏡スコープの種類(上部下部用の違い、細径、側視、etc…)
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
- 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
- コールドポリペクトミー(CSP)
- 色素散布(インジゴカルミン、ルゴール、ピオクタニン)
- 小腸内視鏡検査(DBE)
- 超音波内視鏡検査(EUS)
- 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
- 特殊な観察モード(NBI、TXi、LCI、BLI、RDIなど)
・・・と、実習生へ求めるのはここまででしょう。
血液浄化領域
※こちらに関しては透析技術認定士である編集部による執筆です
一つの記事にまとめるのには文字数が足りず、この記事自体に厚みを持たせたいので現在こちらに執筆しております。
Moegiの言ったように各養成校が準備している「臨床実習要項」に記載されている「実習チェック表」の項目を予習・復習したら良いという話で済まそうかと思いましたが、折角なので加筆しております。
あくまで個人の感想ですが、血液浄化を分かってないと他の領域も分かってないだろうと、指導者から見放される気がするんですよね・・・
- 人工透析の基本的な原理と仕組みを理解する
-
透析によって不要な物質や余分な水分を体外に排出するメカニズムや、透析膜の働き・機能分類など基本的な内容について復習しておきましょう。
- 透析に関連する解剖学や生理学の知識を身につける
-
腎臓の機能や構造、CKDの病態など、関連する身体の仕組みについて復習しておきましょう。
キーワード- PTH
- 電解質
- 酸塩基平衡
- RAA系
- 活性型ビタミンD
- エリスロポエチン
- BUN
- 透析の種類や方法について学ぶ
-
この記事を読んでる方にはもはや説明不要だと思います。
HDやOHDF、あと急性血液浄化の各内容はしっかり抑えておくようにしましょう。
- 透析による合併症やリスクについて学ぶ
-
透析患者において心血管合併症(CVD)や骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)は重大な合併症であり、特に長期透析患者にとっては死活問題です。
その他にも腎性貧血や低栄養など様々な合併症や、体外循環や除水に伴う血圧低下などのリスク要因が数多くあります。
一つでも多くの内容を復習しておくようにしましょう。
- 透析装置のシステムや操作、メンテナンスについて学ぶ
-
水処理装置から始まり、透析装置、排水処理装置へと至る透析治療に関わる一連のシステムについて復習しておきましょう。機械室見学での定番です。
- 透析回路のプライミングができるようになる
-
実習生といえども指導者の監督指導の元、実際の透析回路をプライミングする機会もあるかもしれません。
清潔操作はもちろんのこと、透析用標準血液回路の構成の把握、手動プライミングの手技など今一度復習しておきましょう。
穿刺をして落ち着いたら他の業務に比べて動きがないのが透析だと思います。
ですが動きがないように見えて、それに至るまでの注意や気配りが安定した透析を実現するためには何よりも重要だったりします。このあたりに着目されたりされると「この子はよく見ているな」と指導者に良い印象を与えられるかもしれません。
「(抜針事故などの)医療事故を防ぐにはどういったことを心がけていますか?」みたいな逆質問もいいかもしれませんね。
他にも透析はCEとNs・Drが特に協業して業務にあたり、患者との距離も非常に近い業務です。そのあたりのコミュニケーションに着目するのも面白いかもしれません。
以上主だった内容はこんなところでしょうか。この記事では急性血液浄化領域には触れていませんが、そもそも実習期間中に症例があるかも分かりませんし、実習生にそこまで深い知識は求めていない気がしますので、今回は省略させていただきます。
とはいえPE・CHDFあたりは抑えておいてもいいかもしれません。
メジャーな業務である透析でも、案外問い詰められると答えられない内容も学生のうちはあると思います。それこそ中には「プライミングはなぜするの?」みたいな簡単な質問でも、案外答えに詰まる人いるんですよね(苦笑)
ハマれば奥が深いのが透析だと個人的に思っているので、実習指導者の熱をうまくコントロール(笑)できるような答弁ができるといいですね。
血液浄化領域における編集部おすすめの参考書です
最後に
以上で、実習生を対象とした、実習を乗り越えるための準備を解説した記事でした。
私達の時は実習期間が1ヶ月程度だったのですが、実習規定が改定され2ヶ月となり大変かと思いますが、頑張って実習を乗り切ってください。
実習が終われば、クリアすべき事は国試だけですので・・・。
今回は私もかなり加筆させていただきました。
皆様の実習がより良いものになることを願っております。
臨床工学技士のための 臨床実習が楽しくなる本 改訂2版
実習生向けの参考書も販売されています。
しかも臨床工学技士向けのもの。
臨床工学技士として、医療従事者としての自覚と身につけなければならない基本を簡潔にまとめた参考書です。
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