前回の記事では、DNARやANDなどの心肺停止時に適応されるコードステータス(code status)について説明しました。
今回は終末期医療などで登場するBSC(best supportive care)やCMO(緩和優先医療:comfort measures only)、ACP(人生会議:advance care planning)について説明したいと思います。

似たような用語や似たような意味の用語がありますので、その確認となります。


Living Will(リビング・ウィル)
Living Willとは
Living Will(リビング・ウィル)とは、「終末期医療に関する事前指示書」や「生前遺言書」、「生前の意思」などという意味があります。
Living Willは、患者本人の自己判断能力が残っているうちに、万が一病気や事故などで自己判断能力を失った際の治療方針についての希望内容を事前に文書で書き残しておくというものです。
要は、CPR(心肺蘇生)や人工呼吸器管理など延命治療を受けるのか受けないのかの希望を事前に本人によって決めておいてもらうものです。
Living Willにより、家族など周囲の方々を判断に困られることも軽減されるはずです。
Living Willはいつから始まった?
ちなみにですが、Living Willの概念は1976年のアメリカでの「植物状態の患者から生命維持管理装置を取り外すこと」を認めた裁判の判決が始まりとされています。
日本では1998年の「輸血拒否事件」の裁判で「患者の医療行為に対する自己決定権」が認められたことが発端となり、Living Willが患者の治療拒否における法的根拠となったわけです。
とはいえ、日本ではLiving Willの書面自体には遺言書のような法的拘束力はありません。
「日本では」というのは、アメリカやオーストラリアなどでは法律で法制化されています。
Advance Directive(アドバンス・ディレクティブ)
Advance Directive(アドバンス・ディレクティブ)は、「事前指示書」と表現されます。
なお、「将来判断能力が低下した際に、自分に行われる医療行為やケアに関する意向を前もって示しておくこと」と定義されています。
「ん?Living Willと同じ?」と思われると思いますが、実はAdvance Directiveの方が広義の領域であり、Living WillはAdvance Directiveの概念の中に含まれるのです。
Living Willは「終末期医療」における事前意思表示であり、CPRなどの延命治療に関するすものですが、Advance Directiveは「将来、どのように医療やケアを受けていきたいか」をも事前に意思表示できるというものです。
当然、急変時の対応についても意思表示します。
Living WillとAdvance Directiveの最大の違いは、Living Willでは「本人のみの意思表示」ですが、Advance Directiveでは「医療代理人の指定」も含まれます。
Advance Directiveでは患者本人が自己判断できなくなった際に、方針の決定権を特定の代理人に判断を委ねられる点がLiving Willとは異なります。
ACP(Advance Care Planning)
ACP(advance care planning)ですが、しばしば「人生会議」、「事前医療・ケア計画」と表されます。
お察しの通りですが、Living WillやAdvance Directiveの大元の概念がACPとなります。
もう、改めて説明する必要はないかと思いますが、
ACPは患者本人が意思表示ができない状態になるまでに、今後の治療・療養・ケアについてを患者本人と患者家族だけではなく、関わる可能性のある医療従事者や介護関係者などの専門家を含めてあらかじめ話し合うプロセス
のことを示します。
ACPやAdvance Directive、Living Willなどは、元々は海外の概念であり、高齢者社会が進んでいる日本ではこのような取り組みは遅れているとも考えられます。
日本では、2018年の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」によってACPの概念が導入されたようです。
患者さん本人へ最近の身体に関する気がかりなどから訊いて、人生の終末期に対する価値観や目標を伺い、医師から現状や今後の病状に関する見通しを聞き、最終的にどのような治療やケア、療養を受けていきたいかを決めていくというものです。
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BSC(Best Supportive Care)
BSC(ベストサポーティブケア:Best Supportive Care)ですが、適切な日本語表現を見つけられませんでしたが、「最善の支持療法」などと表現されます。
もう少し具体的に表現するならば、
癌に対して化学療法など積極的な治療をせずに、緩和療法に徹して、緩和ケアとQOL維持及び向上に専念する
というものです。
さて、BSCの単語が使用されるようになったのは、1988年の「Chemotherapy can prolong survival in patients with advanced non-small-cell lung cancer–report of a Canadian multicenter randomized trial」という論文が起源のようです。
VP療法群(vindesine and cisplatin)、CAP療法群(cyclophosphamide, doxorubicin and cisplatin)、BSC群の3群比較をされており、BSCは「化学療法を実施しない群」・・・つまりcontrol群というわけですね。
BSCということは、基本的には外科適応のないようなステージIVの末期癌患者であると認識して良いと思います。
BSCと共に、DNAR/ANDも取得されているとは思います。



私の経験談ですが、BSCだからと言って治療をしないというわけではありません。
例えば、BSCの透析患者さんもいらっしゃるわけです。
「血圧が低下したら終了。可能な限り浄化する。」といったところです。病棟で血圧が低ければ、今日は透析は中止・・・といった対応を取るなどしています。
CMO(Comfort Measures Only)
CMO(Comfort Measures Only)は、「緩和優先医療」やそのまま訳して「快適さに繋がる処置のみ」と表現されます。
CMOは終末期や臨終期の患者に対して提供されるケアレベルのことを示されており、「症状緩和ケアのみを行う」という治療方針を意味します。
BSCとの違いは、癌患者であるかどうかを明確にしているだけで、実質的には同様の治療方針を示していると言えます。
CMO自体の概念は、1982年の「Comfort measures only for “DNR” orders」という論文で記されています。
さいごに
以上で、ACPやBSC、CMOといった終末期医療に関わる用語説明でした。
私もここ数年でACPという単語をカルテで見かけるようになって意識するようになってきた領域です。
そして今後自分の両親や祖父母が万が一状態が悪化した際の前知識として、頭の片隅にでも入れておこうと思っています。
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