今回は、心臓の電気軸のお話です。
「左軸偏位」やら「右軸偏位」といったものです。もちろん、「〇〇偏位だから□□だね」という風に決め打ちはできないのですが、病態を考える手助けにはなりそうですね。
学生時代には、ほぼ触れることなないでしょう。それ故に敬遠したくなる単元ではあります。
心臓電気軸とは
では、見るだけで嫌になる内容に入ります(ホント苦手です・・・)。
記録した心電図のI、II、III誘導について、QRS波の陽性成分と陰性成分の和をベクトル成分として求めると、心室筋の興奮の向きが分かるのですが、これを心臓電気軸と言います。
心臓は立体構造物ですので、本来なら前後軸、左右軸、上下軸の3つの軸が必要な3次元要素となるのですが、臨床上は胸部X線画像と同じ平面(前額断or冠状断)へと投影して近似することで表現しています。
3次元要素であるために、電気軸にも様々な種類が存在するのですが、一般的に心臓電気軸というと「QRS電気軸」を示します。QRS電気軸にも様々な種類が存在しますが、通常は「QRS平均ベクトル」を意味します。
心臓平均電気軸は心周期中の全ての発生している電気活動の合計を示します。
ですが、心室の脱分極によって生じるQRS波が電気活動の大半を示しているために、QRS平均ベクトルを求めることで、心臓の平均電気軸の近似値を求めることができるのです。
【Einthovenの三角形】
Einthovenの三角形は心電図関連の単元において参考書に良く記載されていますね。
標準肢誘導法で右手、左手、左足に電極置いたとき、近似的に電極間を正三角形で結合されるといったもので、この形成された正三角形の中心に心臓が存在し、正三角形の中心から電気軸ベクトルが出ているという考え方です。
看護roo!現場で使える看護知識「心電図波形の名称と成り立ち|心電図とはなんだろう(2)」
https://www.kango-roo.com/learning/1705/
余談ですが、このEinthovenの三角形で表現する正三角形は、二等辺三角形や不等辺三角形で考える方が良いという意見もあります。これをBuergerの三角形と呼ばれています。
Einthovenの三角形はあくまでも「近似的には」正三角形とみなすことができるということです。
ベクトル心電図の臨床「第3章 標準12誘導の誘導軸」
http://www.udatsu.vs1.jp/vector-12leads.htm
電気軸の分類
では、電気軸の正常、異常の分類をみてみましょう。
軸:0°~+90°
※備考
①0°~-30° → 肥満で時折見られるため、境界域で正常とすることも
②+90°~+120° → 痩せで時折見られるため、境界域で正常とすることも
軸:0°~-90°
軽度:-30°~-45°
高度:-45°~-90°
軸:+90°~+180°
軽度:+90°~+120°
高度:+120°~+180°
軸:0°~+90°
※AHA/ACCF/HRSによる心電図診断と標準化に関する勧告:JACC,2009
Einthovenの三角形と平均電気軸
大谷 修, 堀尾 嘉幸「カラー図解 人体の正常構造と機能II 循環器」, p18
皆さんご存じの通り、四肢誘導の4つの電極を装着することで、I、II、III、aVR、aVL、aVFの6つの誘導を記録することができます。
標準双極四肢誘導では以下の関係があります。
※ただし、各電位を右手(R)、左手(L)、左足(F)とします。
I誘導=L-R
II誘導=F-R
III誘導=F-L
上記より、
II誘導(F-R) = I誘導(L-R) + III誘導(F-L)
が成立します。
さらに増幅単極肢誘導の関係式は以下の通りです。
aVR = R -(F + L)/ 2
aVL = L -(F + R)/ 2
aVF = F -(R + L)/ 2
電気軸(軸偏位)の求め方
電気軸(軸偏位)の求め方には、目測法と作図法があります。作図法はいちいち作図する必要性があり実用的ではありませんので、その簡便さから臨床的には目測法が使用されています。
まずは、作図法から説明します。
作図法
2つの誘導から求めるのですが、I誘導とaVF誘導、もしくはI誘導とIII誘導の組み合わせが多いようです。
平均振幅はQRS波の陽性成分と陰性成分の振幅の合計となります。
個人的には作図する上では、I誘導とaVF誘導が良いと考えますが、今回はI誘導とIII誘導で説明します。
日本臨床衛生検査技師会「JAMT技術教本シリーズ 循環機能検査 技術教本」, p59
上記心電図のI誘導おいてのQRS波平均振幅は
I誘導 = 8mm(R波)-1mm(Q波)-0.5(S波)
より+6.5mmであり、図にプロットします。
次にIII誘導も同様にして
III誘導 = 6mm(R波)-0mm(Q波)-1(S波)
より+5.0mmであり、図にプロットします。
それぞれの軸上から垂線を引き、交点と中心線を結ぶことで角度を求めることができます。
今回は約56°ですね。
下図が参照元の図です。
日本臨床衛生検査技師会「JAMT技術教本シリーズ 循環機能検査 技術教本」, p59
I誘導とaVF誘導だといわゆるx軸とy軸で作図できるので楽ですね。
日本不整脈心電学会「実力心電図【改訂版】」, p23
目測法
目測法の2つの誘導から求めるのですが、同様にI誘導とaVF誘導、もしくはI誘導とIII誘導の組み合わせが多いようです。
選択した2つの誘導それぞれのQRS波形の平均振幅を求め、その平均振幅が正(+)であるか負(-)であるかで、電気軸を求めることができます。
平均振幅はQRS波の陽性成分と陰性成分の振幅の合計となります。
目測法との名の通り、作図法のようにR波が10mm、Q波が-1mm・・・という風にはせず、R波とS波の大小を比較して、R波>S波なら正(+)、R波<S波なら負(-)という感じで判定していきます。
・・・やはり、目測法の方が簡便ですね。
日本臨床衛生検査技師会「JAMT技術教本シリーズ 循環機能検査 技術教本」, p59
軸偏位を生じうる諸病態
軸偏位は診断の決め打ちはできないのですが、病態を絞る手助けにはなりそうですね。
以下に左軸偏位と右軸偏位それぞれ考え得る病態を挙げます。
左軸偏位が見られる病態
- 左室肥大
→高血圧、大動脈弁膜症、大動脈縮窄、三尖弁閉鎖、大動脈炎症候群 - 左脚前肢ブロック
→虚血性心臓病(心筋梗塞、狭心症など)、高血圧、特発性心筋症、二次性心筋症、
三尖弁閉鎖、心内膜床欠損、開心術後 etc… - 横位心(水平位心)
→肥満、妊娠、腹水、腹部腫瘍 - 左脚ブロック、両脚ブロック
→左脚前枝ブロック兼完全右脚ブロック - 肺気腫
→胸郭内空気含量の増加による - その他
下壁梗塞、WPW症候群(B型)など
右軸偏位が見られる病態
- 右室肥大
→僧帽弁狭窄、肺動脈狭窄、肺高血圧症、諸種の先天性心臓病 - 立位心(垂直位心)
→滴状心、無力性体質、左側滲出性胸膜炎 - 右脚ブロック
→合併症がない完全右脚ブロック - 肺性心
→閉塞性肺疾患、肺梗塞 - 側壁梗塞、広範前壁梗塞
→左室起電力減少 - 左脚後枝ブロック
→垂直位心、右室肥大を除外できる例においてQRS間隔正常、かつ+120度以上の著明な右軸偏位を示す場合など - 両脚ブロック
→左脚後枝ブロック+完全右脚ブロック - WPW症候群(A型)
北西軸
- 肺気腫
- 心電図電極のつけ間違い(左右逆)
- 高カリウム血症
- 心室リズム(心室頻拍、心室固有調律、心室ペーシング)
- 特殊な右室肥大
移行帯と心臓長軸周りの回転
移行帯
心室のベクトルと同じ向きの誘導では、R波高とS波の深さがちょうど同じになる誘導があります。
この陽性成分と陰性成分の大小が入れ替わる部分を移行帯といいます。
移行帯は胸部誘導から求められますが、通常、移行帯はV3からV4にあります。
QRS波は通常、V1誘導が陽性<陰性、V6が陽性>陰性であり、V1→V6へ移行するにつれて、陰性成分が小さくなり、陽性成分が大きくなります。
心臓長軸周りの回転
電気軸の偏位とはまた異なるのですが、心臓長軸周りの回転というものがあります。
心尖部から心基部を眺めた際の回転方向により表現されます。
移行帯がV3より右方の場合を反時針式回転(反時計方向回転:counterclockwise rotation)、V4より左方の場合を時針式回転(時計方向回転:clockwise rotation)と表現します。
さいごに
今回は「電気軸」関連のお話でした。
個人的にもまとめることで、なるほどな・・・と思うようなことでした。
さて、電気軸の話をしましたが、この後は活動電位やら脱分極、再分極の内容にしたいと思います。
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