透析治療を受ける患者さんにとって、「透析中に血圧が下がる」という問題は長年の課題です。
1回の透析で数リットルもの余分な水分を除去する過程で、循環血液量が急激に減少し、めまいや意識消失を引き起こすことがあります。この「透析中低血圧(Intradialytic Hypotension:IDH)」は、患者QOLを損なうだけでなく、繰り返すことで心臓や脳へのダメージにもつながります。
東レ・メディカルが開発したTM-Pilot機能は、こうした課題に対してリアルタイムの生体データをもとにした自動制御で応える、次世代の透析支援テクノロジーです。この記事ではTM-Pilot機能について深掘りしていきます。
編集部ついにうちの施設でも東レの新しい透析用監視装置 TR -10EXを導入。
そして気になる新機能、東レのTM-Pilot機能も使用していいとDr.より許可が出て、実際に臨床の現場で扱えるようになりました。
この記事では東レ社の公式資料等をもとに、事前学習も兼ねてこのシステムについて深掘りしていきます。
TM-Pilotとは何か
TM-Pilotは、透析機器に搭載された生体モニタリング&自動制御機能です。大きく2つのコア機能で構成されています。
- 除水速度コントロール(ΔBV・血圧ベースの自動調整)
- BTS機能(血液温度追従機能)(体温変化に連動した透析液温度の自動再設定)
この2つを組み合わせることで、循環血液量の急減と深部体温の変化という、透析中低血圧の主な引き金を同時に抑制します。
当機能を使用するにはTR -10EXに搭載されるオプションの血液モニタ(BLM)が必要です。
機能①:除水速度コントロール 「前半・後半」に分けたスマートな水分管理
仕組みの概要
従来の透析では、あらかじめ設定した一定の速度で除水を行う「定率除水」「均等割除水」が一般的でした。
しかし、患者さんの体は常に同じ状態ではなく、血圧や循環血液量は刻々と変化します。
TM-Pilotの除水速度コントロールは、これらの変化をコンソール側がリアルタイムで把握し、除水速度を自動的に調整することで、より安全な水分管理を実現します。
透析を「前半」と「後半」で賢く制御
除水速度コントロールの特徴は、透析時間を前半と後半の2フェーズに分けて管理する点です。
前半フェーズでは、以下の2つのパラメータをリアルタイムで計測しながら除水速度を自動調整します。
- ΔBV(循環血液量変化率):血液中の赤血球容積比(Ht値)と近赤外光の反射・透過強度から算出。循環血液量がどの程度減少しているかを連続的に把握します。
- 血圧(mmHg):昇圧測定モードまたは随時測定モードで監視。血圧が低下傾向にあると判断した場合は除水速度を落とします。
後半フェーズでは、前半で調整されたデータをもとに「残りの除水量を残り時間で完了するための速度」を再計算し、スムーズに目標除水量を達成します。
この仕組みにより、「均等除水は後半の血圧低下が起きやすい」「かといって無理に速く計画除水すると血圧を下げてしまう」という事態を避けながら、透析終了時には適切な体液バランスに到達することを目的とします。



この辺の仕様は単純なようで奥が深いので、メーカー担当者などによく確認してください。
私個人の意見としてはこの機能は「あくまでも運転支援」であり「オートパイロットではありません。」
機能②:BTS機能(血液温度追従機能)
体温と透析中低血圧の深い関係
透析中低血圧のもう一つの要因として知られているのが、深部体温の上昇に伴う末梢血管の拡張です。
体温が上がると血管が広がり、血圧が維持しにくくなります。
「深部体温の変化」という見えないリスクに対処する
BTS機能(Blood Temperature Servo)は、患者の血液温度(℃)を赤外線放射量センサーでリアルタイム計測し、それに連動して透析液の温度を自動で再設定します。
具体的な流れは次のとおりです。
- 透析開始時に患者の血液温度を「基準温度」として取得
- その基準温度に対して上限・下限のしきい値を設定
- 治療中に血液温度がしきい値を外れた場合、透析液温度を自動的に再調整
- これにより、患者の深部体温を安定した範囲に維持
設定によっては除水前半からBTSを有効にすることも可能で、透析開始直後からの低血圧リスクを低減できます。
2機能の併用で相乗効果
除水速度コントロールとBTS機能は同時に使用できるのが大きな強みです。
| 課題 | 対応機能 |
|---|---|
| 循環血液量の急減 | 除水速度コントロール(ΔBV・血圧監視) |
| 末梢血管の拡張(深部体温低下) | BTS機能(血液温度→透析液温度の自動追従) |
| 心拍出量の変化 | 両機能の連携によるバランス調整 |
透析中低血圧は単一の原因ではなく、複数のメカニズムが絡み合って起こります。
東レのTM-Pilotはこれらに同時アプローチすることで、より効果的な安定化を目指すことを設計思想としています。
TR-10 EX 搭載センサー:測定の仕組み
TM-Pilotが高精度な自動制御を実現できるのは、複数のセンシング技術のおかげです。
ヘマトクリット値(Ht)とΔBV%の測定
血液回路内に近赤外光(NIR)を照射し、その反射・透過強度を分析することでHt値(ヘマトクリット値)を非侵襲的に連続計測します。透析が進んで血漿量が減ると赤血球濃度が上がるため、ΔBVをリアルタイムで算出できます。
血液温度の計測
赤外線放射量センサーにより、血液回路を流れる血液の温度を体外から連続モニタリング。患者に追加の侵襲を与えることなく深部体温の代替指標として機能します。
TR-10 EX その他の生体モニタリング機能
TM-Pilotが搭載されたTR-10EXは、低血圧対策以外にもさらに多彩な生体モニタリング機能が備わっています。
循環動態の監視
透析効率の低下やVAアクセス機能の変化を早期に検出するため、以下の項目の計測が可能です。
- 再循環率(%):透析済みの血液が再び透析装置に戻る割合。高値でVAのトラブルを把握。
- 脱血圧(mmHg):PBIの平均値と振幅から血流量を算出。脱血の状況をリアルタイムで把握。
- 測定血流量(mL/min):実際に体外循環している血液の流量をリアルタイムで確認できます。



この機能はVA管理においてもとても重宝しています。
透析効率の確認
透析が十分に行われているかを定量的に示します。
- 標準化透析量(Kt/V):尿素除去量を体液量で標準化した指標。透析の十分さの国際的指標。廃液の紫外吸光度から算出。
- 尿素除去率(URR):透析液流路に横紫外光を照射し、透過光の強度変化から算出。非侵襲的に透析効率をリアルタイム評価。
TM-Pilotがもたらす臨床的なメリット
TM-Pilotは医療従事者・患者双方に様々なメリットをもたらします。
医療従事者にとって
- 除水・温度調整を手動で細かく介入しなくても、機械が自動で最適化してくれるため業務負荷の軽減につながる
- 数値データが可視化されるため、異常の早期発見や記録・評価がしやすい
- 透析中の急変リスクを予防的にコントロールできる
患者・患者家族にとって
- 透析中の血圧低下による不快症状(めまい・嘔吐・失神など)が減少する可能性がある
- 毎回の透析をより安心して受けられるようになる
- 長期的には心臓・脳への負担軽減が期待できる
考えられるデメリット
医療従事者にとって
- 初期設定はTM-Pilot機能を十分理解できていないと難しいかもしれない
- 最初にシステムを運用するためのスタッフ教育や普及活動にある程度の労力が発生する
- 除水速度上限を事細かに設定されている患者・施設での対応は難しいかもしれない
(トータル除水上限で考えた方が簡便)
まとめ
東レのTM-Pilot機能は、透析中低血圧という長年の課題に対して、ΔBV・血圧・血液温度の3指標をリアルタイムで監視し、除水速度と透析液温度を自動制御することで応えるシステムです。
透析医療は週3回・1回4時間という長期にわたる治療です。その一回一回の安定性を高めるTM-Pilotの技術は、患者の生活の質と長期予後の改善に貢献する可能性を持っています。
透析機器の選定や施設設備を検討されている医療関係者の方は、ぜひ東レ・メディカルの公式情報もあわせてご参照ください。
当記事で紹介した多くの項目(血液モニタや廃液モニタ)はオプション選択となっております。
本記事は公開情報および製品カタログ・メーカー説明資料をもとに『CEじゃーなる』が独自で作成しています。
細心の注意をもって執筆しておりますが、内容について誤記が生じる可能性もあります。
最新の仕様については必ずメーカーにお問い合わせください。
編集後記
今回の記事では多くの読者に読まれることを想定して、TM-Pilotの客観的な内容についてのみ深掘りしていきました。
想定する読者さんは、特にTM-Pilotを初めて触ることとなる看護師さんや、「TM-Pilotという新しい機能を使って透析を実施していく」と説明を受けた患者さんに向けたもの・・・となります(いや高度すぎるか?😅)
もちろん臨床工学技士の皆様に向けた記事でもありますが、この記事はあくまで導入記事の予定です!



せっかく臨床で使えるようになったので、今後使用経験を重ねることで、個人的な私見をたっぷり交えた応用編みたいな記事を今後公開できたらなと思います。
「いやそれは学会のネタに使えよ😅」って感じですがあまり外には出ないタチなので。













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