ー国家試験対策特集ー

【心不全】急性・慢性の違いとADHFの広義・狭義を解説

心不全の用語解説の第2弾は・・・

急性心不全と慢性心不全について説明していきたいと思います。

他パートはこちら↓

目次

急性心不全

急性心不全とは

急性心不全AHF:acute heart failure)は、数時間から数日という短期間で心機能の低下や循環動態の破綻により、呼吸困難・末梢循環不全・浮腫などの症状が急激に出現または悪化した心不全のことを示します。

臨床的症状
  • 症状の進行が早い
  • 肺うっ血、末梢浮腫が顕著
  • 入院して治療が必要なことが多い

急性心不全の分類

急性心不全は、de novo型ADHF型の2つに分類されます。

de novo型

de novo型はシンプルに初発の急性心不全のことです。

これまで心不全の指摘を受けたことのない方が、急性心筋梗塞や重症の不整脈などをきっかけに、はじめて心不全を発症したイメージです。

ADHF型

ADHF型は、すでに慢性心不全のある方が、なんらかの誘因で急性増悪した状態です。「慢性心不全の急性増悪(acute-on-chronic)」にあたり、初発ではない急性心不全ということになります。

急性増悪の誘因には以下のようなものがあります。

急性増悪の主な誘因
  • 塩分・水分の摂りすぎ
  • 服薬アドヒアランスの低下(自己中断など)
  • 感染症(肺炎など)
  • 不整脈(心房細動など)
  • 過労・血圧コントロール不良  ・・・etc

ADHFについて

ここで少し補足です。ADHF(急性非代償性心不全)という言葉は、文脈によって指す範囲が変わるので注意が必要です。

海外の現場や文献上では、de novo型も含めた急性心不全全体をADHFとするという広義的な意味合いで使用されることがあります。

一方で日本では狭義的に、慢性心不全の急性増悪をADHFとして扱い、de novo型を含めずに使用されることがあります

ADHFの広義的意味と狭義的意味の違いに注意をしてください。

Moegi

本記事の「ADHF型」は、狭義(=慢性心不全の急性増悪)の意味で使っています。
同じ略語でも指す範囲が変わることがあるので、カルテや文献を読むときは前後の文脈で判断しましょう。

慢性心不全

慢性心不全とは

慢性心不全CHF:chronic heart failure)は、数ヶ月から数年以上にわたって心機能の低下や拡張(充満)の障害が持続することにより、運動時や安静時に呼吸困難・浮腫・易疲労感などの症状を繰り返す心不全のことを示します。

臨床的症状
  • 症状は進行性であり、代償期と非代償期を繰り返す
  • 治療により安定化(代償期)することがあれば、増悪化(非代償期)して急性心不全を発症することもある

代償機構とは(なぜ代償期・非代償期があるのか)

「代償期」「非代償期」という言葉を理解するには、まず代償機構を押さえておく必要があります。

代償機構とは、心臓のポンプ機能が落ちたときに、血圧や臓器の血流をなんとか保とうとする、からだの防御反応のことです。主に以下のような仕組みがはたらきます。

主な代償機構
  • 交感神経の活性化 … 心拍数↑・心収縮力↑・末梢血管収縮
  • RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)の活性化 … 体液貯留・血管収縮
  • Frank-Starling機構 … 前負荷を増やして心拍出量を維持
  • 心肥大・心リモデリング … 心筋を厚くして収縮力を補う

これらの代償機構によって症状が抑えられ、日常生活が送れている状態が「代償期」です。

ところが、これらの反応は短期的には有効でも、長期的にはかえって心臓の負担を増やす“諸刃の剣”でもあります。代償機構が限界を超えて破綻し、うっ血や心拍出量低下による症状が前面に出た状態が「非代償期」というわけです。

Moegi

集中治療に関わる方であれば、酸塩基平衡で「代償されている/代償が破綻した」と表現するのと同じイメージを持つと分かりやすいと思います。

慢性心不全の分類

慢性心不全には明確な分類はないのですが、病態の進行度や安定度に基づいた分類が存在します。

病態の進行度・重症度に基づく分類

病態の進行度・重症度に基づく分類には、ACC/AHA stage分類NYHA分類があります。

病態の安定性に基づく分類

病態の安定性に基づく分類として、非代償期型、代償期型、反復性増悪型、難治性末期型・・・などという表現があります。

病態進行の時間軸による分類まとめ

心不全の病態進行の時間軸による分類まとめは以下の通りです。

急性心不全
  • de novo型(初発)
  • ADHF型(つまりは初発ではない)
慢性心不全
  • 代償期型(compensated phase)
  • 非代償期型(decompensated phase)
  • 反復性増悪型(recurrent)
  • 難治性末期型(refractory, advanced)

急性と慢性はどうつながっているのか

ここまでを整理すると、慢性心不全は「代償期」と「非代償期(急性増悪)」を行ったり来たりしながら、少しずつ悪化していくという経過をたどります。

つまり、慢性心不全が急性増悪した状態が、そのままADHF(急性心不全)というわけです。急性と慢性は別物ではなく、地続きの関係にあることが分かります。

下図のように、心不全は代償期(安定)と急性増悪(非代償期)を繰り返しながら、階段状に進行していきます。初発(de novo)から、増悪と回復を繰り返し、やがて難治性・末期へと向かう流れをイメージしてみてください。

心不全のトラジェクトリー:代償期と急性増悪の反復による階段状の機能低下の概念図(CEじゃーなる作成)
図 慢性心不全のトラジェクトリー:代償期と急性増悪の反復による階段状の機能低下(CEじゃーなる編集部作成)

急性増悪は、繰り返すほど元のレベルには戻りにくくなり、心機能のベースラインが少しずつ下がっていきます。

だからこそ、「急性増悪をいかに起こさせないか(予防)」が、慢性心不全の管理でとても大切になります。図の破線(全体の低下トレンド)は、その積み重ねを表しています。

各時期でのかかわり方

心不全は時期によって、医療者としてのかかわり方の重心が変わります。上図の下段(管理フェーズ)を、もう少しかみくだくと次のようになります。

① 導入期(初発・診断期)

早期発見・原因疾患の治療・薬物療法の最適化。生活習慣の管理や自己管理教育で、悪化を防ぐ土台をつくる時期。

② 安定期(代償期)

再増悪の予防と多職種連携が中心。外来での体重・BNP・自覚症状のモニタリング、患者教育、ワクチン接種<インフルエンザ・肺炎球菌ワクチンなどの接種(感染による増悪予防)>などで安定を支える時期。

③ 増悪反復期

急性増悪への早期対応と入院加療。感染・服薬中断・塩分/水分過多などの誘因を探して取り除くことが、次の増悪予防につながる時期。

④ 末期(難治性)

症状緩和・意思決定支援(ACP)・緩和ケアが中心。移植や補助人工心臓といった高度治療の適応評価を含めた、包括的なアプローチが必要になる時期。

急性・慢性を区別する意味

「急性なのか慢性なのか」を区別することには、治療やかかわり方が大きく変わるという実践的な意味があります。

急性心不全慢性心不全
おもな場入院・救急・ICU/CCU外来・在宅
治療の主眼救命・うっ血や血行動態の是正再増悪の予防・GDMTの継続
みるポイントバイタル・尿量・呼吸・モニタリング体重・むくみ・BNP・自覚症状の変化

急性期はとにかく命を守り、うっ血や血行動態を立て直すフェーズ。慢性期は悪化させないように支え、次の急性増悪を防ぐフェーズ、とイメージすると整理しやすいです。

心不全の評価

心不全は”急性”・”慢性”だけでは病態を十分に表現できないため、実臨床ではさまざまな分類を組み合わせて総合的に評価をしていきます。

つまり、1つの分類を覚えているだけでは、心不全の評価はできないということです。

慢性心不全と急性心不全の用語説明は終えていますが、最後にどんな分類があるのかをいくつか挙げていきたいと思います。

以下が心不全の分類の例です。

  • NYHA心機能分類
  • ACC/AHA stage分類
  • Killip分類
  • Forrester分類
  • Nohria-Stevenson分類
  • Clinical Scenarios分類
  • 左室駆出率(LVEF)による心不全分類

よく使用される分類の一部ですが、心不全の勉強をする上でのポイントは、

急性心不全と慢性心不全は別々の疾患ではなく、病態の経過を示す分類である

という認識を持っている方が良いということです。

心不全は単一の病態ではなく、原因、重症度、血行動態、心機能など多面的な評価が必要な症候群である

ということであるため、”急性・慢性”、”左心・右心”、”LVEF”やその他様々な分類などを組み合わせて評価をするのです。

そのため、心不全患者のカルテには複数の分類や検査値などが羅列されがちになるのです。

Moegi

初学者はカルテの略語や分類などを覚えるのが大変なのはもちろんですが、例えば循環器疾患の患者は病態が複雑化していることも多々あるので、病態を把握することも大変です。

その辺りを私達のブログでサポートしていきたいと思います。

よくある疑問(FAQ)

急性心不全と「急性増悪」は同じ意味ですか?

完全に同じではありません。急性増悪は、慢性心不全が悪化した状態(ADHF/acute-on-chronic)を指します。急性心不全にはこの急性増悪に加えて、初発(de novo)も含まれるため、急性増悪は急性心不全の一部というイメージです。

ADHFと急性心不全は何が違いますか?

広義ではADHF=急性心不全とほぼ同じ意味で使われますが、日本では狭義に「慢性心不全の急性増悪」を指すことが多いです。文脈によって指す範囲が変わるため、カルテや文献では前後の内容から判断しましょう。

CHFは「慢性」ですか「うっ血性」ですか?

CHFはchronic(慢性)にもcongestive(うっ血性)にも使われる略語です。本記事では慢性心不全(chronic heart failure)の意味で用いています。同じ略語でも意味が異なる場合があるので注意してください。

最後に

  • 急性心不全(AHF)は数時間〜数日で急激に発症・悪化した心不全
  • 急性心不全は「de novo型(初発)」と「ADHF型(慢性の急性増悪)」に分けられる
  • 慢性心不全(CHF)は代償期と非代償期を繰り返しながら進行する
  • 代償機構が破綻した状態が非代償期=急性増悪につながる
  • 急性・慢性は別疾患ではなく、地続きの「病態の経過」である

以上で慢性心不全と急性心不全の説明を終わります。

次回は左心不全と右心不全の説明をして、最後に挙げさせていただいた心不全の分類を解説していけたらなと考えています。

心不全シリーズもここからが本番といったところですのでよろしくお願いします。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

シェアして頂くと励みになります!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

CEじゃーなる おすすめ書籍紹介

その名の通り、教科書的なイラストではなく、透視図と断面図が掲載されており、心臓の詳細な解剖が掲載されています。 解剖書では見られない、心臓外科医の先生が描かれる参考書となっております。
循環器の解剖や基本的な疾患が掲載されているスーパービジュアルシリーズです。 病気が見えるシリーズに似ていますが、実は内容はほぼ同じで価格が約半値です。 しかも見やすい図解ですのでとてもおすすめです。
大きな声では言えないのですが、後輩達数名が所持していました。 そして、私も購入しています。 生理学や数式から循環を学ぶ参考書です。 グリコカリックス理論等についても触れられています。
タスクシフトに向け、心カテ業務における1stの介助、2ndにfocusが当てられている参考書です。 写真付きで解説されており、デバイスの具体的な操作・手順、カテ台の操作、トラブルシューティングなどが網羅されています。

この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、消化器内視鏡技師、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

コメント

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

目次