2025/3/2(日) 第38回臨床工学技士国家試験特集

体外式膜型人工肺(ECMO)の基本 ーPCPS・ECPRとは何が違う?ー

さて、タイトルに「ECMO」という文字が見えますね。

救命救急センターを設置している急性期病院にお勤めの方からすると、聞きたくないワードかもしれません。
しかし、我々臨床工学技士(CE)としては是非とも習得しておきたい業務の一つとなります。

Moegiの病院では、まだ透析業務だけ、内視鏡のみしかやっていないなど担当業務に関わらず、若手・新人にはECMOのプライミングはできるようにさせます。

ECMOの基礎知識を身につけるためのECMOシリーズがいくつか続きますが、「ECMO」、「PCPS」、「ECPR」など少々用語で混乱させられるところがありますので、まずは本記事ではECMOに関連する用語の整理をしたいと思います。

そして、続く記事でV-A ECMOやV-V ECMOなどの基礎知識へ・・・と説明していきます。
最終的には小児ECMOまで辿り着けたら良いのですが・・・。

本記事はECMO初学者向けの記事ですので、ECMOの詳細な説明は割愛していることをご理解ください。

Moegi

私のECMO導入経験は、小児も合わせると・・・10件くらいでしょうか。

他の人がプライミングしているの見学した件数を加えたらそれなりの件数にはなると思います。

目次

体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)

体外式膜型人工肺ECMOextracorporeal membrane oxygenation)は、心臓や肺の機能を代行する生命維持管理装置です。

そして、これが一般的に「エクモ」と呼称されているというわけですね。

体外式膜型人工肺“名称だけなら肺の機能を代替するというイメージですが、血液を送り出すための遠心ポンプが備わっているため、心臓の機能も代替するというわけです。

今回は用語説明に時間を割こうと思いますので、回路構成や他の補助循環との比較などは割愛したフワッとした感じで終えています。

キャピオックスEBSエマセブ(システム):TERUMO HPより

ECMOは世間一般なもの?

オープンホスピタルを通じて

まず、ECMOの知名度は一体どうなのでしょうか。

実は知名度を知る機会が私にはありました。

オープンホスピタル」と呼ばれる地域の一般市民の方々に病院のことを感じてもらうために催されるイベントですが、私達CEも「医療機器の体験コーナー」的なブースを出しました。

人工呼吸器、透析コンソール、シリンジ・輸液ポンプ、そして・・・ECMOといったラインナップです。

当ブースに来られた方に、順番に機器を見ていただいて説明するのですが、「こちらの機械、何だと思いますか?・・・実はECMOなんです。」と説明すると、「あー、これがECMOですか。」と反応される方が多かったのです。

「ECMOは何で聞いたことがありますが?」という質問に、「コロナのニュースになっていました。」や「ドラマの・・・コードブルーに登場していました。」などという回答がほとんどでした。

昨今、医療ドラマが増えてきて、人工心肺やECMOが登場するシーンも増えてきた印象ですが、コードブルーなどの医療ドラマファンの方のオープンホスピタルの来院が多かったです。

コロナ禍の影響

そして、2020年1月に国内で感染が確認されたCOVID-19・・・通称「新型コロナウイルス」ですが、COVID-19による重症肺炎が問題になり、人工呼吸器の数が足りないだけでなく、ECMOの稼働率も凄いことになっていました。

COVID-19の感染で残念ながら亡くなられた志村けんさんも実はECMOを導入されていました。
それがニュースで瞬く間に世間一般に知られ、「私の家族にもECMOを!!」・・・と希望されることが多かったようです。

COVID-19の影響で、世間一般へECMOの存在が知れ渡ったというわけです。

1つだけ参考記事を紹介しておきます。

ECMOに関する大前提の知識

簡易的にですが、ECMOに関する大前提の話をしておきます。

V-A ECMOとV-V ECMO

ECMOと一概に言っても、大きくV-A ECMO(veno – arterial ECMO)とV-V ECMO(veno – venous ECMO)の2種類あります。

「V」とか「A」とかありますが、「V」は「静脈:venous」、「A」は「動脈:arterial」を表しています。

そしてECMOは「V-A ECMO」や「V-V ECMO」と表現するのですが、左側を脱血側(患者から血液を取り出す側)、右側を送血側(患者へ血液を送り出す側)としています。

ですので、V-A ECMOは脱血:V(静脈)、送血:A(動脈)であり、V-V ECMOは脱血:V(静脈)、送血:V(静脈)ということになります。

Moegi

正確にはVV-A ECMOとV-AV ECMOなどもあるのですが、今これを説明すると混乱しますので、こんなのがあるんだなーという感じに思ってください。

V-A ECMOとV-V ECMOの使い分けは?

V-A ECMOとV-V ECMOの使い分けですが、ザックリ言いますと・・・

心臓の動きが悪くなったり、一度心停止をした患者には「V-A ECMO」

肺の状態が悪くて酸素が維持できない患者には「V-V ECMO」

・・・という感じで、まずは覚えておいてください。

Moegi

心臓は「V-A」、肺は「V-V」です。

はい、そこ!!突っ込まないで!! 初学者向けの説明です。

PCPSとの違いは? ※私見含む

“PCPS”は日本と韓国のみ通用する

実は、皆さんがECMOと呼んでいるものを”PCPS“と呼んでいる方が大勢いらっしゃいます。

え?違うの?と思われているかもしれませんが、安心してください。
私も養成校では”PCPS”で授業で教わっています。

PCPSpercutaneous cardiopulmonary support)とは、「経皮的心肺補助法」や「経皮的心肺補助装置」という意味で使用されます。読み方は普通に「ピー・シー・ピー・エス」です。

PCPS自体は1983年に開発され、日本へが1988年より導入されており、1991年にPCPS研究会が発足し、医療界で「PCPS」という呼び方で広まったようです。

しかも”PCPS”という用語は、日本と韓国くらいでしか使用されていないという現状でもありました。

“ECMO”の普及

2009年に世界中で新型インフルエンザパンデミックが発生し、重症肺炎に対して強い危機感が生じたことにより呼吸不全に対するECMO治療の普及を図るために2012年に「ECMOプロジェクト」が発展しました。

そして、COVID-19の重症肺炎治療のため、ECMOに精通した医療従事者が集結して、ECMOに必要とされる知識や技術をサポートするためにNPO法⼈日本ECMOnetが活動開始したというわけです。

前置きが長くなりましたが、要するにPCPSとは別に重症肺炎などの呼吸不全に対する治療として”ECMO“という用語が使用され始めたということです。

“PCPS” = “V-A ECMO”

ここから私見も含まれます。

国際的な観点からは、ECMOというのは心臓と肺の代行・補助をする治療です。
日本では、上記の歴史的な流れから、心臓の代行はPCPS、肺の代行はECMO・・・というニュアンスとなります

しかし、大きな分類上では、PCPSとECMOは同じ治療法となります。

そして、日本のECMOの治療成績が世界に対して情報共有ができるようになってきましたので、足並みを揃えるためにも”ECMO”という名称で普及させていきたいということで、日本でも”ECMO”を使用するようになりました。

ECMOは送血・脱血方式により、V-A ECMOとV-V ECMOに大別されると説明しました。

少々こんがらがりますが、上記のPCPSとECMOというのはECMOの分類で分けると、PCPSがV-A ECMOECMOがV-V ECMOとなります。

以上より、PCPSとECMOが混在していたのを統一するために、V-A ECMOとV-V ECMOという呼称が使用されるようになってきたというわけですね。

大事なことなので総括のためにもう一度言います、

PCPSではなく”ECMO”で統一されることになり、PCPSはV-A ECMOと同義で使用されている

・・・ということを覚えておいてください。

Moegi

ECLS(extracorporeal life support:体外生命維持装置)とも表現されますが、こちらはECMOだけではなく、他の補助循環やCKRT、PEなども含まれます。

ECPRとは?

体外循環式心肺蘇生(ECPR:extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)

次のECMO関連の用語説明として、体外循環式心肺蘇生ECPR:extracorporeal cardiopulmonary resuscitation, 以下、ECPRとする。)の説明をします。

CPA、CPR、PCPS、ECPR、ERCP、CRP・・・、いやぁー、ややこしいですね。今回はERCPとか全然関係ないですけど笑。

さて、本題へ。

ECPRは心肺停止CPA)患者を対象にV-A ECMOを導入して心肺蘇生を行うものです。

ただし、全てのCPA患者が適応となるわけではなく、適切なBLSやACLSを実施しても反応しない難治性CPAに対しての心肺蘇生法となります。

編集部

略語ばかりで分からない方のために
BLSやACLS
についての記事も合わせて執筆しました。

ECPRの導入基準に関しては、SAVE-J研究が出している導入基準などがありますので、ご参照ください。

というわけで、ECPRはV-A ECMOの導入様式とでも言いましょうか。
ややこしければ、ECPR ≒ V-A ECMOでもとりあえず良いです。

この記事のまとめ

ECMO

ECMOとは、心臓や肺の代行をする生命維持管理装置のこと

ECMOの種類
  • V-A ECMO ・・・ 心停止や心臓の動きが悪い患者に導入するECMO
  • V-V ECMO ・・・ 重症肺炎など呼吸が悪い患者に導入するECMO
  • 発展系として、VV-A ECMOやV-AV ECMOなどがもある
PCPS
  • PCPSはV-A ECMOと同義のもの。
  • 日本と韓国くらいでしか使用されていない用語
  • 現在は、V-A ECMOで統一するようにされている
ECPR
  • ECMOを用いた心肺蘇生法の一種
  • 適切なBLSやACLSを実施しても反応しない難治性CPAに対して、V-A ECMOを導入するもの
  • ほぼV-A ECMOのことと同義

この記事を読んだ方へオススメの参考書

Moegi

ECMOに関するおすすめの参考書です。ぜひご一読を。

ECMOの仕組みや機能など初歩的な内容がわかりやすく書かれております。

さいごに

以上で、ECMOに関わるPCPSやECPRの用語説明でした。

次回より、V-A ECMO、V-V ECMO、ECPELLAなどを順次説明してく予定です。

内容が内容なだけに、慎重に執筆していきますので、間違いなどありましたら遠慮なく申し付けください。

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この記事を書いた人

職歴
現大学病院勤務
取得資格
臨床工学技士(CE)、ITE 心血管インターベンション技師、ME1種検定試験

得意領域
カテーテル、アフェレシス、内視鏡、機器管理

大学病院での幅広い勤務実績をもとに、臨床工学技士業務全般執筆しております。
1児のパパでもあり、子育て情報も発信していけたらと思います。

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