前回までの記事で、用語説明とECMOシステム構成について説明してきました。
本記事では、ECMOの基本となるV-A ECMOの説明と導入基準について説明していきたいと思います。

前回までの概略 ーPCPSからECMOへー
別の記事で、元々”ECMO”とは「体外式膜型人工肺」という名称から、当初は重症肺炎などの呼吸補助の意味合いで使用されているということを説明しました。
またPCPSは日本と韓国くらいでしか使用しておらず、世界的に見ても”ECMO”が使用されていることから、日本でもPCPSではなく、ECMOで統一していこうという流れになっていると私見も交えて説明しました。
そして、ECMOはV-A ECMOとV-V ECMOに大別されるともいいました。
このあたりの内容は前々回の記事も合わせてご参照ください。

“ECMO”といえばV-A ECMO
状況に合わせて判断する必要はありますが、「ECMO入れるぞ!!」という場合は基本的にV-A ECMOのことを示します。
また、V-A ECMOとV-V ECMOの症例数の割合からも、ECMOといえばV-A ECMOのことであることがほとんどです。
それくらい、V-V ECMOの症例数は少ないです。
まずは、V-A ECMOの説明をしていきます。
V-A ECMO = Cardiac ECMO
V-A ECMOは心臓と肺の代行が可能であるので、急性心筋梗塞(AMI)や心筋炎、心停止(CPA)後の循環不全をサポートする治療となります。
V-A ECMOを導入する理由となる原疾患が心原性ですので、V-A ECMOは別名「Cardiac ECMO」とも呼ばれることも覚えておいてください。
そして、CPAに対して実施をするCPR(心肺蘇生法)とV-A ECMOを融合させたものがECPRと呼びますので、用語の整理をしておいてください。

体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)
体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)は、心臓や肺の機能を代行する生命維持管理装置です。
これを通称「エクモ」と呼んでいます。
肺の機能を「膜型人工肺」、心臓の機能を「遠心ポンプ」が代行しています。
また、血液回路の構成品ではなく、システムの構成として冷温水槽など様々な必要構成品があります。
心臓の代行能力として、50〜80%程度のサポート力を有します。
ECMOの役割を以下に示します。
- 心臓の代わりのポンプ機能(循環補助) ・・・ 遠心ポンプ
- 肺の代わりのガス交換機能(呼吸補助) ・・・ 膜型人工肺
- 体温の調整(体温管理療法, TTM:targeted temperature management) ・・・冷温水槽
上記が主なECMOの役割ですが、個人的にECMO導入患者で重要と思うのは脳の保護です。
いくら心肺機能が維持されて回復したとしても、低酸素脳症で意識レベルが戻ってこない・・・なんてことになると、せっかくV-A ECMOを導入したのに残念な結果となってしまいます。
循環と呼吸の回復を待つだけではなく、CTなどの結果も気にするようにしましょう。
キャピオックスEBSエマセブ(システム):TERUMO HPより
送血・脱血部位
V-A ECMOとV-V ECMOの違いは、送脱血部位が異なるという点です。
「V」とか「A」とかありますが、「V」は「静脈:venous」、「A」は「動脈:arterial」を表しています。
そしてECMOは「V-A ECMO」や「V-V ECMO」と表現するのですが、左側を脱血側(患者から血液を取り出す側)、右側を送血側(患者へ血液を送り出す側)としています。
というわけで、ここまででお分かりの通り、
V-A ECMOは脱血:V(静脈)、送血:A(動脈)です。
下図では、左大腿動脈(Lt.FA)送血、右大腿静脈(Lt.FV)脱血のとなっております。
脱血部位のFVは走行の都合上、可能な限りRt.FVであることがほとんどです。
送血部位は、脱血のRt.FVに合わせて同側のRt.FAであることがほとんどではないでしょうか。
もちろん、高度石灰化や損傷、閉塞などがあれば対側のLt.FAで確保されます。
結局はその時の状況による現場判断となります。
V-A ECMO送脱血部位:
Aakash Shah MD, Hybrid and parallel extracorporeal membrane oxygenation circuits, JTCVS Techniques c Volume 8, P77-85, August 2021
適応・導入基準
V-A ECMOの・・・といいますか、補助循環の導入基準を示します。
参考は以下です。
・2023 年 JCS/JSCVS/JCC/CVIT ガイドライン, PCPS/ECMO/ IMPELLAの適応・操作
日本心血管インターベンション治療学会
・小尾口邦彦, こういうことだったのか!!ECMO・PCPS
- 急性心筋梗塞(AMI)による心原性ショック
- 劇症型心筋炎
- 慢性重症心不全の急性増悪
- 開術後心原性ショック(人工心肺離脱困難, LOS)
- 難治性不整脈
- 停止できないor繰り返すVF/VT
- VF/VTのアブレーション症例時の予防的使用
- アブレーションorCIEDs中の合併症管理
- 抗不整脈薬使用による心原性ショック
- 急性広範囲型肺血栓塞栓症
- 敗血症
- 薬物中毒によるショック
- 偶発性低体温症
- その他
- 重症肺高血圧症
- 治療抵抗性アナフィラキシーショック
- ハイリスク外科的手術(呼吸器外科や耳鼻科など)
- 人工心肺離脱困難症例
- IABPのみでは循環補助が不足
- カテコラミンfull support下でsBP 80mmHg以下
- 乏尿・無尿(1[mL/kg/hr]未満)
- CI 1.8[L/min/m2]以下
- PaO2 60[mmHg]以下
- VT, VFの頻発
- 補正困難な代謝性アシドーシスを呈している
禁忌・適応外
次に、ECMO導入の禁忌や適応外を示します。
基本的には予後不良であることが見込まれる場合はECMOの導入はしません。
- 非可逆的脳障害
- 大動脈解離
- 止血困難な進行性出血
- 重度頭蓋内出血
- 末期悪性疾患
- 高度大動脈弁閉鎖不全症
- 70歳以上(case by case)
- 原因が明らかに不可逆的な肺疾患かつ肺移植の適応がない場合
- 元々のADLが不良 など

経験談として、CPA患者のためにV-A ECMOのプライミングの指示が出たので、準備をしていたのですが、準備中にCTを撮像した結果脳出血のために導入なしになったことがありました。
緊急時で仕方ないですが、回路が無駄になることがあることに注意をしましょう。
この記事を読んだ方へオススメの参考書



ECMOに関するおすすめの参考書です。ぜひご一読を。




さいごに
以上でV-A ECMOの説明とV-A ECMOの適応と導入基準の説明でした。
次回はいよいよ、V-A ECMOの管理のポイントについて説明したいと思います。
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