今回は臨床工学技士や看護師が内視鏡業務を担当する上で役に立つと思われる知識として、大腸にフォーカスしてまとめたいと思います。
思い付く限りで紹介し、可能な限り部位ごとに分類できれば良いですが、思い付き順で執筆していますので、多少の分類できていない部分はご容赦願います。
読者様からの「○○についてまとめて欲しい」などという要望は承ります。
遠慮なく申し付けください。
当サイトの内視鏡の記事につきまして
当ブログの内視鏡記事では、内視鏡担当を始めた初学者、内視鏡に興味がありどんなことをしているのか気になる方などをターゲットとしております。
最前線でESDをされているCEさんや内視鏡技師さんにはかなり物足りなかったり、ツッコミを入れたくなるような記事になるかもしれませんがご容赦願います。
内視鏡領域は、まだまだCEが介入して発展させられる領域であり、これから内視鏡業務をCEが立ち上げていく施設様がチラホラと見受けられます。
「ウチではこういう工夫をしている」、「当院でESDの縫縮はこういう手法をしている(ex:野村先生のROLMなど)」などといった貴重なコメントをお待ちしております。
臓器の位置関係
勉強した時は覚えているが、次の瞬間には忘れている各臓器の位置関係。
腹腔内臓器と後腹膜臓器に分類されます。
腹腔内臓器 ⇒ 腹腔内で可動性がある
後腹膜臓器 ⇒ 腹膜背側に固定されており、可動性が制限されている
胃、肝臓、胆嚢、胆管、横行結腸、S状結腸、空腸、回腸
十二指腸、盲腸、上行結腸、下行結腸、膵臓
+αで・・・腎臓、尿管、腹部大動脈、下大静脈 etc…
pointは大腸の部位によって、腹腔臓器と後腹膜臓器と別になるところがあるということですね。
「消化器内視鏡技師試験問題解説 IV」日本消化器内視鏡学会, 医学図書出版, 2011, p7
「消化器内視鏡技師試験問題解説 V」日本消化器内視鏡学会, 医学図書出版, 2019, p8
大腸の解剖と略語
やはり、消化器だろうが循環器だろうが、略語でやり取りすることは多いです。
大腸各部位の略語、せめて頭文字だけでも覚えておきましょう。
因みに大腸自体は「Colon(コロン)」です。
「消化器内視鏡技師ためのハンドブック縮6版」日本消化器内視鏡学会, 医学図書出版, 2007
盲腸(C:Cecum)
下部消化管内視鏡(大腸カメラ)での目標到達ポイントです。
英語で「cecum(シーカム)」です。
上行結腸(A:Ascending colon)
盲腸からすぐに移行するのが上行結腸です。
ヒダが多いので、ポリープが見落としされやすいです。
英語で「Ascending colon(アセンディング)」ですが、会話の中では単に「A」と言ったり、「Ascending」だけを言ったりします。
横行結腸(T:Transverse colon)
横行結腸は上行結腸と下行結腸の間でお腹を横切るように存在する結腸です。
英語で「Transverse colon(トランスヴァース)」ですが、同様に「T」や「トランス」と呼ばれます。
上行結腸から横行結腸へかけての湾曲部を肝湾曲(Hepatic Flexure:HF)、横行結腸から下行結腸へかけての湾曲部を脾湾曲(Splenic Flexure:SF)と言います。
また、横行結腸は右側(RT)、中部(MT)、左側(LT)と3つに分類されることもあります。
下行結腸(D:Descending colon)
下行結腸は「Descending colon(ディセンディング)」です。
同様に「D」や「Descending」と呼ばれます。
S状結腸(S:Sigmoid colon)
S状結腸は「Sigmoid colon(シグモイド)」です。
直腸(R:Rectum)
直腸は「Rectum(レクタム)」です。
直腸は部位により3つに分類されます。
- 直腸S状部(Rs:Rectosigmoid)
- 上部直腸(Ra:Rectum above the peritoneal reflection)
- 下部直腸(Rb:Rectum below the peritoneal reflection)
※the peritoneal reflection → 腹膜反転
直腸の解剖:「大腸ポリープ」松坂市民病院改変,
https://www.city.matsusaka.mie.jp/uploaded/attachment/22875.pdf
【備考】直腸がんのオペについて
直腸癌の手術というのは、「いかに肛門を残せるか」がポイントとなります。
直腸癌の部位によって術式が変化します。
できるだけ肛門を残せる術式を考慮されますが、どうしても温存できない場合は永久人工肛門(ストーマ)を増設することになります。
余談が膨大になりそうだったので、気になる方だけお読みください。
直腸がんのオペについての詳細
直腸の術式:「直腸がんの手術について」京都大学医学部附属病院消化管外科
https://gisurg.kuhp.kyoto-u.ac.jp/medical/rectal-cancer/
直腸切除位置:病気がみえる vol.1 消化器を改変,
https://遠隔画像診断.jp/archives/15590
肛門温存手術 | 高位前方切除術 | HAR:High anterior resection |
---|---|---|
低位前方切除術 | LAR:Low anterior resection | |
超低位前方切除術 | ULAR:Ultra low anterior resection | |
括約筋間直腸切除術 | ISR:Intersphincteric resection | |
肛門非温存手術 | 肛門非温存手術 | APR:Abdonimoperineal resection |
近年では根治性と肛門機能の温存をある程度両立させる括約筋間直腸切除術(Intersphincteric resection: ISR)」という手術法が普及しています。
もちろん、大腸癌の手術というのは「根治性」を一番に担保する必要が最も重要であるため、可能な限り肛門を温存することを考慮しますが、大腸癌の進行度、腫瘍の位置を十分に評価した上で最適な術式を選択する必要性があります。
ISRは肛門を構成する筋肉の内肛門括約筋を部分的または全部を切除して、肛門及び外肛門括約筋を残すことで排便機能を温存する方法です。
しかし、やはりデメリットも存在するわけで、ISRは高度な技術を要するが故に、切除範囲によっては肛門の術後排便機能が十分に保てず、頻便や失禁が起きてしまう患者様も一定数はいらっしゃる様です。
ISRを施行したとしても、術後の排便機能に十分満足できない患者さんもいらっしゃいますので、ストーマを受け入れるのか、術後排便機能不全となる可能性があってもISRを受けるのかは、根治性と肛門機能温存、そして術式の難度を加味して術前に執刀医の先生とよく相談して慎重に術式を決定することが重要です。
しかし、近年は大腸癌罹患率が増加しつつあるのですが、40歳以上に推奨されている大腸癌検診の受信率が低いのもまた事実です。
手遅れになる前に大腸カメラを受けてみませんか?
下部消化管内視鏡(大腸カメラ)では、エキスパートの先生方であったとしても、ある一定のポリープの見落としがあります。
そのため、①上行結腸ではヒダが多くポリープを見落としやすいため、②直腸ではポリープを見落としてはいけないため一度観察した後もう一度奥に挿入して、2回観察されています。
大腸内腔の形状
大腸の内腔の形状は結腸ヒモによって形成されています。
結腸は自由ヒモ、大綱ヒモ、間膜ヒモの3本によって支持されています。
結腸の部位によって内腔の形状が異なって見えます。
上行結腸〜横行結腸
上行結腸と横行結腸の内腔の形状は三角形の形態を示します。
上行結腸と横行結腸は筋層が薄いために、結腸ヒモの3点支持を見ているのです。
下行結腸〜直腸
下行結腸から直腸は上行結腸と横行結腸に比べて筋層が厚いとされています。
また収縮力も強いことから、内視鏡検査時には円形に観察されます。
大腸内視鏡検査:https://gitract.hiroshima-u.ac.jp/clinic_research/colonoscopy.html
「結腸」と「大腸」共によく耳にする単語ですが違いは一体なんでしょうか。
- 大腸
-
結腸と直腸に分けられます。
- 結腸
-
単純に盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分けられます。
・・・というわけで、大腸が結腸と直腸に分類され、その役割が異なるのですね。
日本消化器学会のサイトを参考にしますと、
- 【結腸の役割】
-
”小腸より液状となって送られてきた内容物から水分を吸収して糞便にして直腸に送ること”
- 【直腸の役割】
-
”糞便の貯留による排便の‘ガマン’と肛門からの排便”
とされています。
腸間膜
腸間膜には横行結腸間膜とS状結腸間膜が認められ、腸管への血管や神経が通っています。
その他の結腸にも同様の構造を持っているのですが、後腹膜に癒合/固定されているため、「腸間膜」と称されていないようです。
この腸間膜によって横行結腸とS状結腸は可動性を有します。
結腸以外においては、回腸及び空腸も腸間膜を有するため可動性は高いです。
つまり、一般的に腹膜外臓器は後腹膜へ固定されており可動性が低く、腹腔内臓器は腸間膜を有するために可動性が高いのです。
「消化器内視鏡技師ためのハンドブック縮6版」日本消化器内視鏡学会, 医学図書出版, 2007
オススメの参考書
内視鏡関連のMoegi選定のオススメ参考書をご紹介します。
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消化器内視鏡技師のためのハンドブック
「消化器内視鏡技師のためのハンドブック」はそのタイトル通り、内視鏡に関わるスタッフのための参考書です。
システムの話から手技の話、洗浄の内容まで網羅されています。
内視鏡技師のテキストといって差し支えないでしょう。
消化器内視鏡の機器・器具・デバイスはこう使え!
内視鏡デバイスの解説を写真と図表でわかりやすく解説されています。
本書は2017年発売のため、新しいデバイスやシステムは未掲載であるため、私もデバイス解説の記事を考えています。
症例から学ぶ 内視鏡医・内視鏡技師のための大腸腫瘍診断・治療
この本は内視鏡医のみならず、内視鏡室で業務をされるCEやNsにもオススメな1冊です。
JENT分類など様々な内容が詰まっています。
クイズ形式で実例提示もされており非常に理解しやすい内容となっております。
上部消化管内視鏡診断アトラス
上部編です。
内視鏡業務では介助者として入りますが、どういう病変なのか、過形成?、adenoma?など理解してやるかどうかで楽しさが変わります。
「CEさん、目が肥えてるね」って言われるのはやっぱ嬉しい。
消化器内視鏡技師試験問題解説〈V〉
消化器内視鏡技師の試験問題の解説集です。
第31回~第36回の試験問題と解答・解説を収録されています
問題ごとに解答の解説だけではなく、問題に関連した情報も図解や表とともに掲載されているので、とても頭の中に残りやすいです。
さいごに
「内視鏡業務で役立つ知識」と称して初めて見ようと思いましたが、第1回目は大半が大腸に関する内容となってしまいました。
と言っても、まだまだ内視鏡に関わる解剖や生理学などは膨大にありますので、順次思いつく限り続けていこうと思います。
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