本記事ではFUJIFILMの内視鏡における特殊光観察について説明したいと思います。
「特殊光観察」や「白色光(WLI:white Light imaging)」などの前提知識や、
OLYMPUSのNBI、TXiなどといった観察モードについては前記事で解説しています
FUJIFILMの特殊光観察
FUJIFILMの内視鏡システムにもOLYMPUSのような様々な特殊光観察が開発されています。
OLYMPUSとは異なる性質の特殊光観察モードがありますので、それぞれについて説明します。
2024年3月時点でFUJIFILMでは、内視鏡システムにおいて新プロジェクトが実施されているのですが、FUJIFILMから公表されましたら、解説させていただきます。
- FICE(flexible spectral imaging color enhancement)
※FUJI intelligent color enhancementとも表現される - BLI(blue LASER imaging)
- BLI bright
- LCI(linked color imaging)
FICE(flexible spectral imaging color enhancement, FUJI intelligent color enhancement)
FICEの原理
FICE(flexible spectral imaging color enhancement, FUJI intelligent color enhancement, 【通称】ファイス)は、日本語では「分光画像処理機能」や「FUJINON画像処理/診断支援機能」などと表されます。
なんか漢字ばかり並べられて難しく感じますが、もうしばらくお付き合いください。
FICEは内視鏡で得られた白色光画像(RBG画像)をFUCE画像処理エンジンにより5nmごとの分光画像に一度分解され、この分光画像から任意の波長成分の画像を”3つ“選択して、RGB信号へ再構築するデジタル画像強調技術です。
んー、分からんッ!!笑
というわけで、簡単に説明しますと、
白色光画像を各波長(5nmごと)にバラした画像に分離して、この中から3枚を選択して強調画像の構築をする
・・・という画像処理技術です。
組み合わせは実に2700万種類のFICE画像が作成可能です。
FICE処理原理:「Видеосистема Fujifilm EPX-4450HD」を日本語改変
https://medmss.com/gibkaya-endoskopiya/videosistemy-istochniki-sveta/videosistema-fujifilm-epx-4450hd/
FICE画像例
FICE画像の例を挙げます。
下図は食道胃接合部の観察ですが、FICEにすることで炎症所見や血管が際立って観察されるのが確認されます。
FICEでは、血管やpit patternを強調、遠景像を明るくするといった特徴があります。
ただし、毛細血管の描出能力という点では、FICEはNBIに比べて劣るとされています。
食道胃接合部のFICE処理:FUJIFILM HPより抜粋
https://www.fujifilm.co.jp/press/nrj1378.html
下図はFICEのRBGフィルターを変化させた画像です。
・・・観察者の好みが分かれそうなかんじですね。
FICE画像:Validation of Fujinon intelligent chromoendoscopy with high definition endoscopes in colonoscopy
Parra-Blanco A et al. World J Gastroenterol 2009; 15(42): 5266-5273
残念ながらFICEは古い技術であり、BLIやLCIの登場から、ほとんど使用されなくなりました。
内視鏡医にFICEについて質問すると、「あのモードの何が良いかがわからん」・・・だそうです。
BLI(blue LASER imaging, blue light imaging)
BLIの略称について
BLIは”blue LASER imaging“または”blue light imaging“の略ですが、微妙な使い分けがあります。
FUJIFILMの光源には”レーザー(LASER)タイプ”と”LEDタイプ“がありますが、LASERREO(レザリオ)やいわゆる7000システムと呼ばれるLASERREO 7000のレーザー光のBLIが”blue LASER imaging”であり、6000システムやELUXEO(エルクセオ)7000のLED光でのBLIでは”blue light imaging”となっています。
そんなこと気にせず「BLI」と呼べば良いです。
BLIの原理
原理については、OLYMPUSの「NBI」とほぼ同じ・・・と思っていただければ結構です。
特殊光観察モードではNBIが有名ですが、”NBI”はOLYMPUSの特許ですので、名称を変更してFUJIFILMが出していると思ってください。
BLIでは、2種類のライトが使用されています。
- 410[nm](410±10[nm]):短波長狭帯域光成分
→ 微細血管や粘膜表面構造の凹凸、深部血管などの高コントラスト描写を得るための光成分 - 450[nm](450±10[nm]):白色光成分
→ 蛍光体を励起して、白色光証明として利用する光成分(要は明るくするための光)
BLIの光成分:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
BLIは短波長狭帯域光成分を増やすことで、ヘモグロビンによるコントラストを高めることができ、微細血管の強調をするための観察モードです。
BLIは拡大観察や近接観察に向いています。
NBIが紫(415nm)と緑(540nm)の2色の狭帯域光が使用されているので、血管構造の強調という観点からは原理は似ているのが分かりますね。
BLIの原理:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
BLI画像例
BLIと白色光の比較画像を提示します。
上が胃で、下が大腸ですが、共にBLIの方が血管構造が強調されているのが分かると思います。
胃のBLI比較:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
大腸のBLI比較:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
BLI bright
BLIとの比較
BLI brightについてですが、”bright(明るい)”ということですから、通常のBLIよりも明るいということです。
原理的にはBLIの410[nm]の短波長狭帯域光成分をそのままに、白色光成分をやや強めることで全体的に明るい描写を得ることができます。
BLIよりも明るいので、中景や遠景観察が可能となります。
微小血管や表面構造のコントラスト的には、BLIより若干弱く、WLIやFICEより強いという立ち位置です。
BLI brigttの光成分:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
BLI bright画像例
胃の病変に対する、BLI bright、通常BLI、NBIの比較画像を提示します。
遠景だとBLI brightの方が通常BLIよりも明るいのが分かると思います。
BLI bright、通常BLI、NBIの比較:Kazuhiro Kaneko et al, Effect of novel bright image enhanced endoscopy using blue laser imaging (BLI). Endoscopy International Open, 24 Oct 2014, 2(4):E212-9
LCI(linked color imaging)
LCIとは
最後にLCI(linked color imaging)について解説です。
LCIを適切な日本語で表現することは困難なのですが、”色彩/色調強調“を施す観察モードです。
具体的には、赤色やオレンジ色とそれ以外の色が分離するように画像処理が行われ、赤色領域はより赤く、白いっぽい領域はより白くなるように描写されます。
簡単に言いますと、“炎症“している部分を赤色やオレンジ色に強調する観察モードです。
内視鏡医に伺ったところ、学会や文献表記的には”オレンジ色”で表現するそうです。
LCIの原理
LCIで使用される光は、実はBLIと同じ2色の光、410[nm]と450[nm]の光が使用されているのですが、LCIでは白色光成分の450[nm]が強く設定されており、励起される蛍光体による光を増強することで、明るい視野を確保しているのです。
そして、得られた画像データを色調強調を行い、特に赤色領域の色彩と色相を強調するように画像処理されます。
その結果として、赤色領域はより赤く、白いっぽい領域はより白くなるように描写されます。
つまりは正常粘膜を白色やピンク色に、炎症部分を赤に強調するわけです。
LCIの光成分:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
LCIの色彩/色相処理:FUJIFILM提供資料より抜粋編集
LCI画像例
上図では早期胃癌のWLIとLCIの比較画像です。
LCIの方では、腫瘍部分が赤く強調され、腫瘍の範囲が明瞭となっています。
早期胃癌のWLIとLCI画像比較:FUJIFILM提供資料より抜粋「八木信明先生, ELUXEO 7000システムの使用経験」
続いて、せっかくですからWLI、LCI、BLIの比較画像を提示します。
内視鏡画像に見慣れていないと分かりにくいかもしれませんが、胃と大腸ともにLCIではWLIより腫瘍部分が赤色・・・どちらかと言えばオレンジ調に強調されており、BLIでは血管構造が強調されているのが確認できるかと思います。
胃のWLI, LCI, BLI画像比較:FUJIFILM提供資料より抜粋
大腸のWLI, LCI, BLI画像比較:FUJIFILM提供資料より抜粋
WLIとLCIおよびBLIとの比較文献
では、WLI観察と比較してLCI観察とBLI観察は有用なのか、という疑問があるかと思いますので、検討さている文献を紹介します。
FUJIFLMなだけあり、今回の3文献とも日本の施設のものです。
BLI brightの早期胃癌発見率向上について
「Blue laser imaging-bright improves the real-time detection rate of early gastric cancer: a randomized controlled study」, Osamu Dohi MD, PhD et. al, Gastrointestinal Endoscopy, CLINICAL ENDOSCOPY, VOLUME 89, ISSUE 1, p47-57, JANUARY 2019
胃癌の診断における、WLIとBLI brightとの比較検討をされた研究です。
現在胃癌のある患者、過去に胃癌があった患者、萎縮性胃炎が患者ら650人が対象となりました。
比較群はランダムに2グループに振り分けられています。
- WLI先行群(WLI→BLI bright観察) ・・・ 298名
- BLI bright先行群(BLI bright→WLI観察) ・・・ 298名
先行モードで胃全体を観察してから、次のモードでもう一度観察するという手法で、どちらが胃癌発見が多く見落としが少ないかを比較検討されています。
結果はBLI bright先行群の方がWLI先行群より胃癌発見率が高く、見落とし率が有意に低かったという結果になりました。
胃癌発見率でいうと93.1% vs 50%(P=0.001)という差があったのです。
特にピロリ菌除菌後、胃癌の既往あり、高度萎縮性胃炎の症例には有用であることが判明したのです。
- WLI先行群 胃癌24病変中12病変がWLIで発見された
→発見率:4.0%, 発見割合:50%, 見落とし率50% - BLI bright先行群 胃癌29病変中27病変がBLI brightで発見された
→発見率:9.1%, 発見割合:93.1%, 見落とし率6.9%
胃癌診断におけるBLIとLCIの有用性
「レーザー光源を用いた画像強調内視鏡による早期胃癌診断」
土肥 統, 八木 信明, 内藤 裕二, 伊藤 義人, 日本消化器内視鏡学会雑誌Vol. 61(7), Jul. 2019
この報告では、BLIとNBIの比較、BLIとWLIの比較、BLI brightとWBIの比較(上記文献)、そしてLCIの有用性について報告されています。
少しボリュームのある文献ですので、詳しくは本文献を直接読んでいただけたらと思います。
ただし、ある程度の内視鏡経験と知識を要しますので、内視鏡初学者の方は読み飛ばしていただいても結構です。
BLI vs NBI
元々提唱されている”NBIを用いた早期胃癌の診断アルゴリズムであるVessel plus surface classification system(VSCS)がBLIおよびBLI-brightで応用可能かどうかをNBIと比較検討した”と記載されているとうですが、BLI vs NBIを比較検討されたものです。
早期胃癌ESD症例104病変を対象として、同一病変にBLI併用拡大観察(M-BLI)、BLI-bright併用拡大観察(M-BLI-bright)、NBI拡大観察(M-NBI)を実施し、VSCSにおけるdemarcation line(DL)、microvascular pattern(MVP)、microsurface pattern(MSP)を評価されています。
- DL ・・・ M-BLI 96.1%, M-BLI-bright 98.1%, M-NBI 98.1%
- irregular MVP ・・・ M-BLI 95.1%, M-BLI-bright 95.1%, M-NBI 96.2%
- irregular MSP ・・・ M-BLI 97.1%, M-BLI-bright 90.4%, M-NBI 78.8%
結果は上記の通りなのですが、BLIおよびBLI brightがNBIよりも”粘膜微細構造の検出能が高い“ことが示されました(p<0.001)。
demarcation lineとirregular MVPの診断能としてはBLIとNBIは同程度ということになっています。
BLI vs WLI
生検を施行していない新規発見病変に対する組織診断能を白色光と前向きに比較検討されており、早期胃癌あるいは食道表在癌で内視鏡治療を予定された530症例に対して実施されました。
WBIで早期胃癌を疑われた新規病変に対し、WLIおよびM-BLIで組織診断を実施したのちに生検で確認を行われました。
結果は下記の通りで、感度、特異度、正診率それぞれ有意にM-BLIの診断能が高いという結果となりました(p<0.001,p=0.021,p<0.001)。
早期胃癌32病変、非癌95病変に対して、
WLI ・・・ 感度46.9%、特異度80.0%、正診率71.7%
M-BLI with VSCS ・・・ 感度93.8%、特異度91.6%、正診率92.1%
BLI bright vs WBI
最初の文献内容と同一です。
LCIの有用性
内視鏡におけるHelicobacter pylori(H. pylori)の感染状況を診断すること、今後の胃癌の発生リスクを評価することが重要となっており、胃癌リスクが高いと報告されている5項目が萎縮、腸上皮化生、皺襞腫大、鳥肌、びまん性発赤とされてます。
筆者の先生方は、LCIによるH. pylori感染胃炎の診断の有用性をWLIと後向きに比較検討されています。
診断制度はLCIの方が有意に高かったのです。
- LCI ・・・ 感度93.3%、特異度78.3%
- WLI ・・・ 感度81.7%、特異度66.7%
さいごに
以上でFUJIFILMの特殊光観察モードについての解説を終えたいと思います。
モード1つにおいても、調べていくうちに奥に引き込まれていきますね。
あとは、構造強調や色彩強調の話などもしたいですね。
前編のOLYMPUS編もよろしくお願いします。
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