ここまでに、上部消化管内視鏡検査の概要、上部用スコープ、そして上部検査の流れについて説明してきました。
本記事では、医療従事者に向けて「生検やピロリ菌検査のポイント」について説明しようと思います。
私達内視鏡に関わる看護師や内視鏡技師(臨床工学技士・放射線技師・臨床検査技師・看護師からなる)は医師による治療の介助だけできれば良いのではなく、しっかりと検査の介助ができてこその治療の介助があるのです。
生検鉗子の操作が最初のデバイス操作になり、全てのデバイス操作の基礎となると思います。
検査の介助を侮る勿れ!!
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疑問点につきましては「一般社団法人 日本消化器内視鏡学会Q&A」などの閲覧をお勧めしています。
検査中のオプション検査内容
オプション検査(または追加検査)とは、観察のみではなく病変が発見されたり、荒れていたりして内視鏡だけでは診断できない場合に、組織の一部を採取したり、色素散布を実施することを示します。
全ては網羅されていないかもしれませんが、以下がオプション検査一覧です。
- 生検(biopsy, バイオプシー)
・ホルマリン瓶
・滅菌スピッツ
・フローサイトメトリ - ピロリ菌検査
・ピロリテック
・ピロリ培養 - 色素散布
・インジゴカルミン
・ルゴール
・酢酸 - 術前マーキング
- ミニチュアEUS
今回は、生検とピロリ菌検査について説明します。
生検(biopsy, バイオプシー)
生検とは、消化管の組織の一部を生検鉗子によって採取して、顕微鏡で詳しく調べることで良性なのか、悪性なのかの判断をする診断方法です。”バイオプシー“とも呼ばれます。
生検鉗子(EndoJaw):オリンパスHPより
いくらスコープから得られる画像が綺麗で精密になってきたとはいえ、それでも目視による診断が難しいことが多いのです。
生検が実施されるのは以下のような場合です。
- 粘膜に何かしらの変化がありそうというのは観察できるが、異常の有無が判断しにくい
- 癌の疑いがある場合
- 潰瘍や発赤、腫れなどの異常が見られた場合
粘膜には痛覚がないので、生検時に患者さんが痛がることなく処置ができます。
生検後は出血のリスクがあるので、その日だけは激しい運動、辛いものなど刺激のある食事、長湯などは控えていただきます。
また、生検の結果は2週間前後要することを説明します。
生検の様子:森ノ宮胃腸内視鏡ふじたクリニック, 「胃カメラ 実際の内視鏡画像をノーカットでお見せします。通常の観察から、組織検査(生検)やピロリ菌検査まで。」より抜粋, https://www.youtube.com/watch?v=K1lYF4NqTUs
デバイス操作という意味での介助は、別でデバイス介助記事を用意します。
今回は検査の介助という意味で説明しています。
とはいっても、生検介助のポイントとしては・・・
とにかく、基本的にゆっくりと生検鉗子を閉じること
に尽きます。
あまりにも速く閉じると、鉗子がスリップしてしまい、検体を採取できないどころか、採取したい組織を傷つけたり、出血させてしまったりします。
ただし、あくまでも”基本的には”ということなのですが、蠕動運動がなかなか止まらなかったり、呼吸性変動が大きかったりすると先生のスコープ固定維持が困難ですので、その場合はある程度速く生検鉗子を閉じます。
ホルマリン瓶
biopsyで採取した検体を病理へ提出する場合は、ホルマリン瓶へ入れて提出をします。
生検鉗子から検体を回収する際は、爪楊枝に巻き取るように取るか、濾紙に鉗子を挟む操作をすることで検体を濾紙へ移すことができます。
ホルマリン瓶:アジア器材HPより, https://asiakizai.co.jp/product/product-842/
検体をホルマリンに漬ける理由としては、”ホルマリン固定“という固定操作をするためです。
固定操作をしないと、ほんの数mmの検体といえども、組織の細胞は生体活動をしており、時間経過とともに自己融解や腐敗が進行してしまうので、検体は新鮮のうちに速やかにホルマリン瓶へ入れなければなりません。
固定操作により細胞内の細胞質流動などが停止して固形化し、生体に近い状態で検体を顕微鏡で観察することができます。
回収した検体は乾燥させたり、乾燥させないように生理食塩液に漬けるが長時間漬けたりしないようにしましょう。
特に胆肝膵系の組織は注意する必要があるようです。
- 正確にはホルマリンは”37%ホルムアルデヒド水溶液”を示す
- 特定化学物質等障害予防規則により特定第二類物質に指定
- 医薬用外劇物のため、保管には専用の保管庫の設置や施錠、鍵の管理など、法律で定められた取り扱いが必要
- 検体採取後は速やかにホルマリン瓶へ入れる
- 固定期間が2〜4時間以上と長くなり過ぎても過固定となるため、速やかに病理へ提出する
→組織が硬くなり、標本作製がしにくくなったり、染色不良になったりする - ホルマリン液は検体体積の10倍以上の量を用意する
※biopsyでは検体が小さいので気にする必要はない。EMRなどで注意する。
培養検査(滅菌スピッツ)
培養検査は消化管の細菌による感染が疑われる際に、biopsyで採取した検体を培地で培養して、細菌の有無や種類を調べる検査です。塗抹検査よりも感度が高いので、原因菌を特定するのに役立ちます。
当然、細菌を培養して検査をするのですから、採取する容器は滅菌されている必要があり、内視鏡室では滅菌スピッツを使用することが多いです。
検査対象としては、ピロリ菌やサイトメガロウイルス(CMV:cytomegalovirus)あたりとなります。
検体をスピッツを入れる際は、biopsy鉗子をスピッツ内へ入れて鉗子を開き、指でスピッツの外を弾くことで検体をスピッツに入れます。
弾いた勢いで、検体をどこかへ飛ばさないように注意しましょう。
フローサイトメトリ検査(細胞表面マーカー検査)
フローサイトメトリ検査は、別名で細胞表面マーカー検査とも呼ばれ、細胞膜表面に存在する抗原(糖蛋白)・・・つまり、細胞表面マーカーを解析します。
フローサイトメトリでは、異常細胞の有無や細胞の種類、細胞の大きさ、細胞周期を評価する検査となります。
内視鏡では、MALTリンパ腫を代表としたリンパ腫などを評価するために検査します。
biopsy鉗子でいくつか検体を採取し、フローサイトメトリ用の試薬の入ったスピッツへ検体を入れて提出します。
フローサイトメトリスピッツ例:http://www.shanjin.com.cn/product/19230.html
ピロリ菌検査
上部消化管内視鏡検査での必須ワードでもあるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ, Helicobacter pylori)ですが、内視鏡医は「これまでに胃カメラでピロリ菌がいる・・・とか言われたことありますか?」、「ピロリ菌の除菌はされましたか?」などと患者さんへ質問されるシーンをよく見かけることでしょう。
胃癌の99%はピロリ菌が発生原因で、胃潰瘍や十二指腸の80%の患者にピロリ菌が感染しているとも言われています。
必要に応じて、ピロリ菌感染の検査を実施します。
今回紹介するのはあくまで内視鏡検査におけるピロリ菌検査です
内視鏡を使わないピロリ菌の診断方法には、「尿素呼気試験」、血液や尿を用いた「抗体法」、「糞便中抗原測定」があります。
ピロリテック(迅速ウレアーゼ試験)
ピロリ菌の検査としてよく使用されるのが”ピロリテック“です。
正式には、迅速ウレアーゼ試験という迅速検査となります。
検査原理は添付文書を引用しますと、
試薬中の尿素が、ヘリコバクターピロリ(H.pylori)菌体中のウレアーゼにより加水分解されてアンモニアを生じます。アンモニアが生じるとpHが上昇し、pH指示薬であるブロムフェノールブルーの色 調を黄色から青色に変化させます。その色調の変化を判定することにより、H. pyloriを迅速に検出できます。
とされています。
ピロリテック:https://www.sakura-finetek.com/ja/products/others-diagnostic-medicine/pyloritek/
- 湿潤試液を基質パッドの四隅に4点滴下する
- biopsyをして、爪楊枝などで反応パッドへ上下2箇所へbiopsy鉗子から移す(3つまで検査可能)
→陽性コントロールおよび他の検体からは6mm以上離す - 試薬ストリップを折り曲げて基質パッドを検体の上に重ね 、黄色面を表にして反応ポーチへ差し込む
- 患者の氏名と時刻を試薬ストリップの所定の欄に記入する
- 陽性の約90%は約20分で、残りは60分までに判定される
→60分以内に反応パッド右上の陽性コントロールが青色に呈色する
ピロリテック使用方法:ピロリテック添付文書より
ピロリテックの陽性反応:https://www.abiko-clinic.com/勉強会・講演会/ピロリ菌を退治して胃がんのリスクを回避しまし/
ピロリ培養(培養法)
ピロリ培養(培養法)はbiopsyで採取した検体を37℃の条件下で培地によって5~7日間培養する方法となります。
コローニーの形態や性状よりピロリ菌の同定をしますが、手技にはある程度の熟練度が必要となり、培養結果の精度に施設間の格差が生じてしまう可能性があるのが欠点となります、
・・・と言っても、検査センターに輸送することが可能となっていきているので、統一された培養手技下で結果を待つことができるようになっています。
検体の入れ方ですが、biopsy鉗子で検体を採取した後、鉗子を閉じたままスピッツのゼリー状の培地へ入れ、鉗子を開いてゆっくりと引き抜くと検体のみスピッツ内に残ります。
ピロリ培養スピッツ:https://data.medience.co.jp/guide/guide-11080023.html
ピロリテックとピロリ培養はどっちが良い?
ピロリテックとピロリ培養はどちらも感度は90%程度、特異度は100%近いので、共に信頼度が高い検査となります。
では、どらちが良いのでしょうか。
それは・・・ピロリ菌除菌後かどうかで判断します。
ピロリテックの迅速検査は、除菌判定で実施すると薬剤の影響を受けたり、除菌後の採取時期によっては偽陽性ないし偽陰性が生じたりすることがあります。つまり、ピロリテックは、除菌後の信頼度が下がるということです。
初回はピロリテック、除菌後はピロリ培養・・・といった感じでしょうか。
さいごに
以上で、オプション検査の前編となります。
biopsyは内視鏡CEや内視鏡技師にとっての基本となる介助となります。
生検鉗子のデバイス操作が全てのデバイス操作の基本となると言っても過言ではありません。
デバイス介助初心者だからこそ、鉗子の開閉の速度調整、シースを引き抜く速度など状況に応じて調整する必要があります。
そして・・・
検体は紛失しないよう注意しましょう。
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