前回は、上部消化管内視鏡検査の概要と、上部用スコープの説明をしました。
本記事では、上部消化管内視鏡検査の流れと介助のポイントを解説していきたいと思います。
スコープのセッティングやデバイス準備はもちろん大切ですが、“検査の流れの把握”と”介助”の重要さを認識していただければ良いという思いで執筆をしています。
私達内視鏡CEは、どうしてもシステムやデバイスに目が行きがちですが・・・
患者第一の精神で内視鏡業務をやりましょう!!
内視鏡の”介助”はデバイス介助だけではない!!
“介助”というと、デバイス介助のことをイメージされるかもしれませんが、患者さんを呼び出して、内視鏡室へ案内して、タイムアウトをして、キシロカインスプレーをして・・・etc、とデバイス介助以外にも検査の介助というのはあります。
冒頭でも触れましたが、内視鏡CEはシステムやデバイスに目が行きがちですが、それだと検査時の患者のサポートは誰がされているのでしょうか?
患者介助は看護師さんに任せきりでしょうか?
それだとチーム医療とは高々と宣言はできませんね。
現在、タスクシフトの話が上がっている中ですが、スコープセッティングやデバイス準備はCEだけの仕事でもないですし、検査時の患者介助もまたNsだけの仕事でもありません。あくまでも役割分担をしているに過ぎません。
私の施設では、患者呼び出しからタイムアウト、マウスピース装着、検査中の患者ケア、検査後の案内などをCEがすることもあります。特に新人CEに患者介助をさせると、検査の流れを把握できていないことを気付かせることができます。
スコープセッティングやデバイス準備はできるのに、患者介助はできないの?
・・・とはならないようにしたいものです。
上部消化管内視鏡検査の流れ
患者介助の大切さを謳ったところで、上部消化管内視鏡検査の流れを説明します。
ただし、施設ごとに多少は異なってくると思いますので、1例ということでご了承ください。
受付で最終食事摂取時刻を訊ねるのには理由があります。
それは、胃の中に食物が残っていたら、検査ができないからです。
検査前日の食事は20時までに済ませていただき、可能な限り脂っぽい食事を避け、消化の良いものを摂取していただきます。それ以降の食事は検査当日の朝食は摂取してはいけません。
水分に関しては基本的に飲んでいただいても良いですが、検査1時間前からは控えるようにします。
糖尿病薬や抗凝固薬などの血液がサラサラになるような薬を飲まれている方は、事前に医師へご相談いただきます。基本的には、検査当日は服用しないように依頼します。
患者さんが来院し、内視鏡室受付にて受付を済ませます。
この時点で、最終食事摂取時刻やコロナ対策として発熱や感冒症状を訊きます。
初めて内視鏡を受けるのか、もう複数回受けられたかも訊ねます。
内視鏡室が空くまで待機していただきます。
受付後の待機中に前処置として、ガスコン(ジメチコン)を飲んでいただきます。
場合によりガスコンにプロナーゼ(プロテアーゼ)と重曹(重炭酸Na)を混合させたものを飲んでいただきます。
白い粘性のある液体で、通称”ガスコン“。消泡剤として使用し、消化管内の気泡を除去する作用がある。
前処置以外では、水に少量混ぜてシリンジに吸って用意しておき、適宜気泡除去で使用する。
また、非常に摩擦が軽減されるので、デバイスシャフトの滑りが良くなる特性を持つ。
タンパク質分解酵素であり、胃内の粘液の溶解除去の作用がある。
酵素のため、pH調整のために1gの重曹(重炭酸Na)とともに経口投与する。
ただし、出血患者へは出血を助長する恐れがあり使用してはいけない。
単なる重曹(重炭酸Na)であり、プロナーゼが作用する至適pHを維持するために使用する。
ガスコン(左):堀井薬品工業株式会社HPより、プロナーゼ(右):科研製薬株式会社HPより
患者さんを内視鏡室へ案内し、腰をかけていただく。
患者確認とトラブル等防止のために問診(タイムアウト)を実施し、アレルギーや既往歴、内服薬などを確認する。
以下、問診票で患者さんへ確認する内容の例をリストアップします。
- 氏名・生年月日
→患者間違い防止のため。 - 内視鏡検査歴
→初めての場合はより丁寧に説明をする。経験済みの場合は、不具合は無かったかの確認となる。 - アレルギーの有無
→キシロカイン、ヨード、ミントなどのアレルギー確認。使用する薬剤の制限のため。 - 歯科治療の時の麻酔で気分が悪くなったことは無いか?
→キシロカインアレルギーの再確認のため。 - 抗凝固薬、抗血小板薬、その他いわゆる血液をサララサにする薬を処方されているか
→生検などの出血のリスク確認。 - 既往歴の確認
→狭心症、不整脈、前立腺肥大症、緑内障など薬剤によっては禁忌のものがあるため。
ブチルスコポラミンやミタゾラムなど。 - ピロリ菌がいると言われたことがあるか。また、除菌歴はあるか?
→今後の計画を確認するため。 - 飲酒の頻度と量
→炎症の一因となり得るので診断の補助となること、鎮静剤が効きにくい可能性があることの確認。 - 義歯や動揺歯が無いか
→内視鏡検査のせいで外れたり、誤飲事故が起きるのを防止するための確認。義歯は外してもらう。
問診が終われば、喉の奥にキシロカインスプレーを噴霧し、喉の麻酔を実施します。
少し上向になって口を大きく開いて息を止めてもらい、喉の奥へ何プッシュか噴霧します。
その後、喉の奥に10秒程度溜めてもらい飲み込み、再度同じことをもう一回します。
喉の麻酔が終われば左側臥位に寝てもらい、マウスピースとエプロンを装着します。
動揺歯があったり、入れ歯を外されたりした場合は、マウスピース用のスポンジを噛ませます。
これで、スコープ挿入の準備が完了です。
マウスピース:TOP社HPより
では、先生がスコープ先端に潤滑ゼリーを塗りつけてスコープ挿入を開始します。
麻酔のスプレー後は、一切唾を飲み込まず、ダラダラと口から出すように指示します。
そのためにエプロンを装着しています。
まず、咽頭の梨状陥凹をサッと観察します。
この時点で咽頭癌を発見されることもあります。
咽頭部観察:平澤俊明, Dr.平澤の上部消化管内視鏡診断セミナー 上巻
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758110730/78.html
咽頭の観察を終えると、食道へ挿入しますが、ここでも食道は引き抜く際にじっくり観察しますので、サッと観察する程度で胃に進みます。最初の食道の観察時は、NBIやBLIという癌を発見しやすい特殊な観察モードで挿入することが多いです。
そして、胃の中に入ると、やはりここでもサッと胃の中を観察して、十二指腸へ進めます。
理由は、胃の観察では送気(CO2)をして観察する必要があるのですが、胃が膨らんだ状態で十二指腸へ挿入するのは患者さんがとてもしんどいのです。そのため、先に奥の十二指腸を観察します。
十二指腸は水平脚の一部分まで観察が可能となっており、まず、球部を観察し、水平脚の挿入できるところまで挿入します。引き抜きつつファーター乳頭と下行脚を観察し、再度球部を観察して胃へ戻ってきます。
十二指腸の解剖:公益財団法人がん研究会 有明病院HPより
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/stomach/007.html
いよいよメインとなる胃の観察ですが、観察する順番などは医師によって微妙に異なってきますが、胃癌の見逃しを防ぐためにも、満遍なく/くまなく観察することが重要となります。
内視鏡医の経験年数による腕の違い、観察眼の違いの差が出てくるとはいえ、近年はOLYMPUSならNBIやTXi、FUJIFILMであればBLIやLCIといった特殊光観察の登場により、胃癌発見率は向上してきています。
とはいえ、如何せん胃癌は発見しにくい病変が存在し、エキスパートの内視鏡医でも見落としが発生する可能性があるのは一定数あるのは仕方がないことです。
胃の各部位名称:illust ACより一部改変
胃の中の観察が終えれば胃の中の空気を吸引して、引き抜きながら食道の観察に移行します。
何度も登場してきているNBIやBLIという観察モードが食道癌を発見しやすいので、NBIやBLIを使用して食道をじっくり観察し、必要に応じてルゴールという染色液を使用して、食道癌の領域が観察しやすいようにします。
そして、口からスコープを全て引き抜いて検査終了となります。
Yasuaki Nagami et al, Usefulness of non-magnifying narrow band imaging in screening of early esophageal squamous cell carcinoma: A prospective comparative study using propensity score matching, Am J Gastroenterol. 2014 Jun; 109(6): 845–854.
食道癌観察:通常光(左)、NBI観察(中)、ルゴール散布(右)
まずは、患者さんからマウスピースとエプロンを外します。
同時に唾液や唾を拭う用のティッシュを渡すと良いでしょう。
「しんどかったですね、よく頑張っていただきました。」、「上手に検査を受けていらっしゃいましたよ。お疲れ様でした。」などと声をかけるのもお忘れなく。
大抵の場合、次は主に消化器科の診察に移動していただくことが多いので、「内視鏡の結果は診察の先生に訊いてくださいね。◯階の△△番の受付へ向かってください。」と伝えます。
上部消化管内視鏡検査後には注意点があります。
まず、喉の麻酔をしているため、検査直後に飲食をするとムセてしまいます。
スコープを挿入した違和感や潤滑ゼリー、唾液などの違和感で、水分を摂りたがる患者さんが多いのですが、「喉の麻酔のスプレーは1時間ほど効きます。◯時△分頃までは飲んだり食べたりは控えるようにお願いします。1時間後に少量の水分を摂ってみてムセなければ食事を摂っていただいて結構です。」・・・などと丁寧に説明しましょう。
どうしても口内の違和感を除去したいと言われたら、「水でゆすぐくらいなら良いです。飲まないように気をつけてください」と伝えます。
鎮静剤を使用した患者さんは、中和剤を使用しているとはいえ、再鎮静に陥ることがあります。
1時間程度、リカバリー室で休んでいただいてから、次の診察や検査に向かっていただいたり、帰宅していただきます。
上部の検査の流れは、このような感じでしょうか。
検査介助のポイント
検査の流れを説明しましたので、検査中の介助のポイントをいくつか挙げておきます。
挿入時の顔の向き
挿入開始時は顎を突き出すように・・・つまり、顎を上げるような形にしていると喉の空間が拡がり、咽頭反射を抑えることができ、スコープが喉を通りやすくなります。
喉を通った後は、今度は逆に「お臍の方を見るように下を向きましょう」と顎を引いてください。
喉を締める役割があり、空気(CO2)を送気しているのですが、ゲップを出にくくすることができます。
せっかく胃を膨らませても、ゲップをされるとその都度何度も膨らませる必要があるので、余計に時間を要してしまいます。
スコープ挿入開始時のポイント:医療法人山水会 水野クリニックHPより
https://mizuno-c.com/2021/01/30/easy-endoscope/
検査中の呼吸
内視鏡検査中は、もちろん呼吸はできます。
初めての患者さんは、呼吸の仕方が分からず、パニック様になったり、オエオエされがちです。
まず、「ゆっくり鼻から吸って〜、口からため息を吐くようにハァ〜」・・・と伝えています。
呼吸が落ち着いたら、「少し遠くを見る感じにします」と伝えると落ち着いて受けていただけることが多いです。
背中をさすってあげる
いくら喉の麻酔のスプレーをしたからといって、完全に咽頭反射を抑えることはできませんし、スコープを押し込んだり、空気で胃の中を膨らまされたりすることは、患者さんにとって大変しんどい検査となります。
そういう時は、患者さんの背中をさすってあげます。
さすることで、苦痛や不安感、緊張が軽減され、リラックスしてもらうことで楽になることがあります。
検査後に「兄ちゃん、背中をさすってくれたから楽やったわ〜。助かったわ〜。」って言ってもらえることは多々あります。
たださするだけではなく、食道の観察時は背中の上の方、胃の観察時は真ん中、十二指腸の観察時は腰のあたり・・・などと観察場所に応じてさする位置を変化させるとなお効果的です。
この少しの気遣いが患者さんにとっては大きなことなのです。
さいごに
以上で、上部消化管内視鏡検査の流れと、患者ケアのポイントでした。
ただの検査、されど検査です。
検査を受ける患者さんは不安と苦痛と隣り合わせであり、少しでもケアしてあげて、「次から内視鏡を受けたくないな・・・」などと思われないように気を遣わなければなりません。
次回は生検や色素散布などの上部消化管内視鏡検査時のオプション検査や介助のポイントについて説明しようと思います。
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