本記事では「内視鏡の特殊光観察」について説明したいと思います。
今回はOLYMPUSのNBI、TXiなどといった観察モードについてそれぞれ詳しく説明していきます。
特殊光観察について
特殊光観察とは
解りやすく「特殊光観察」としていますが、正しくは画像強調内視鏡技術(IEE:Image Enhancement Endoscopy)のことを示しています。
画像強調内視鏡技術は光デジタル法、デジタル法、色素法、光学法に分類されています。
例えば、OLYMPUS社のNBIやRDIは光デジタル法、TXiはデジタル法に分類されています。
・・・とはいったものの、イメージし難いですね。少しずつ説明していきます。
画像強調内視鏡技術(IEE)の進歩と活躍
近年、内視鏡は高精度化、操作性の改善など技術が進み、内視鏡による早期癌の診断制度は格段に向上してきています。
しかし、どんなに技術が発達してきたといっても、通常の「光」の観察である「白色光(WLI:white Light imaging)」での観察のみでは早期癌の発見は容易ではありません。
元々消化管の粘膜は全体的にピンクといいますか、赤みを帯びていますが、早期癌も含めたの癌粘膜というのもまた赤みを帯びており、正常粘膜とは僅かな赤みの彩度や明度の変化して捉えられることが多いのが特徴です。
しかも、正常粘膜(背景粘膜)と癌粘膜の凹凸も高低差が僅かなことも珍しくもなく、その陰影が観察する医師のスコープ操作によっても早期癌のい視認性が大きく異なることもあります。
そのため、白色光観察では未だに早期胃癌の発見が容易ではないのです。
そこで、白色光以外での特殊光や色彩強調を変化される観察技術が開発されてきたのです。
このように内視鏡で毎日のように目にする画面では、様々な観察モードがあります。内視鏡業務に携わる以上、内視鏡システムのことは可能な限り覚えておきたいです。
白色光(WLI:white Light imaging)
特殊光の話の前に、基本的な白色光(WLI)の説明からします。
特殊光の話に繋げるために少し生体物性などの物理の内容になります。
あくまでも前置きのため、気になる・わからない方は展開して読んでみてください
光の三原色について
私達が日常的に見ている白熱灯、蛍光灯、太陽光、白色LEDなどの「白色光」は私達には「白色」に見えていますが、実際には様々な波長の光が混ざり合うことで白色に見えています。
そうです、光の三原色のことを示しています。
色の三原色(シアン、マゼンダ、イエロー)は混ぜるほど暗く黒になっていきますが、光の三原色(青、緑、赤)は混ぜると明るく白になっていきます。
光の三原色:「カラーコーディネート ― 光の三原色と色の三原色」, アトリエJ., https://blog.ekaki-j.com/three-primary-colors
色の三原色:「カラーコーディネート ― 光の三原色と色の三原色」, アトリエJ., https://blog.ekaki-j.com/three-primary-colors
ヒトの可視光の波長範囲は個人差があり、参考文献的には範囲は様々でしたが最大360~800[nm]の範囲だと言われています。
小学校や中学校での授業で、プリズムを使用して光の分光を授業で扱ったかもしれません。
先述した通り、白色光は様々な波長の光が混ざっており、プリズムにより虹色に分光されます。
もちろん、白色光は無数の色の光に分光されますが、便宜上7色に分類されます。
波長の短い順に「紫、藍、青、緑、黄、橙、赤」となります。
プリズムによる光の分光:「分光器の仕組み 分光編」https://www.smartdiys.com/blog/spectrometer-spectrum/
可視光と波長:「可視光線は電磁波の一種で、紫外線や赤外線もお友達?」https://www.shikisai101.com/color/basic/detail/id=180
プリズム分光:「光の分散」https://contest.japias.jp/tqj18/180180/page16.html
電磁波スペクトルについて
また可視光以外の電磁波についても少し触れます。
まずは紫外線と赤外線について。
可視光の最も波長の短い「紫」の領域より波長が短い電磁波を「紫外線」、可視光の最も波長の長い「赤」の領域より波長が長い電磁波を「赤外線」と呼んでいます。
私達医療従事者がよく関わりのあるX線やγ線は紫外線よりも波長が短い電磁波です。
それに対して赤外線はリモコンやヒーター、マイクロ波は電子レンジ、携帯の電波・・・といった風に身近なモノに利用されていますね。
波長の長い電磁波はエネルギーが低い傾向にあり、間違った使用をしない限りは一般人が使用しても安全であることが多いのです。
波長が短い電磁波ほどエネルギーが高く危険なモノが多く、専門職の方が扱うモノが多いと覚えておきましょう。
電磁波スペクトル:https://www.daik.co.jp/cosme_team_blog/cosme_team_blog-2553/
まとめ 光の波長を理解する
・・・と、かなり前置きが長くなりましたが、結局は白色光観察は私達が眼で観察する風景と同じように映像が映っているわけです。
しかし、この白色光では特に胃の早期癌の発見が病変によっては容易ではないことが少なくはありません。
そのため、癌粘膜を観察しやすくするために、ある特定の波長の光での観察するモードや画像色彩強調を変化させた観察モードが登場したわけです。
狭帯域光観察(NBI:Narrow Band Imaging)
では、ここから観察モードの話に入ります。
OLYMPUSのNBI、TXi、RDIについて解説します。
やはり、特殊光の話をするなら、NBIでしょう。
NBIとは?
どのような観察モードか簡単に言いますと、「血管を強調させて血管構造見やすくする」モードです。
NBIシステムは腫瘍表面に血管新生が起こることに注目され、血管を強調する技術として2006年に開発されました。
狭帯域光と波長
「狭帯域」とありますが、これは390~445[nm]の青色帯域光と530~550[nm]の緑色帯域光と可視光の360~800[nm]から帯域を狭めた「狭帯域光」を使用しているためこの名称となています。
正確には紫(415nm)と緑(540nm)の2色の狭帯域光が使用されているのですが、これらの波長の光は血液中のヘモグロビンに吸収されやすい光となっています。
また、それらの光は粘膜表面で強く反射・散乱するという特徴も併せ持つことから、粘膜の血管と周辺粘膜とのコントラストを生成し、病変のスクリーニングをサポートするのです。
NBIイメージ図:https://www.olympus.co.jp/jp/news/2006b/nr061226evissj.html
NBI観察例
①食道
白色光(通常観察)では見にくかった粘膜表面の毛細血管がNBIでは強調されているのが確認できます。
食道WLIとNBI比較:https://www.onaka-kenko.com/endoscope-closeup/endoscope-technology/et_10.html
井上晴洋先生 (昭和大学江東豊洲病院 消化器センター センター長・教授)
②大腸
こちらも白色光では腺腫は発見しにくいが、NBIでは発見が比較的容易です。
拡大観察+NBIで血管をよく観察されます。
食道WLIとNBI比較:https://www.olympus.co.jp/jp/news/2006b/nr061226evissj.html
井上晴洋先生 (昭和大学江東豊洲病院 消化器センター センター長・教授)
構造色彩強調機能(TXi:Texture and Color Enhancement Imaging)
TXiとは?
TXiはNBIと異なり特定の波長を使用した観察モードではなく、白色光で得られた情報を最適化する画像技術を利用した観察モードです。
この技術自体は特に新しいものではありません。
PCの画像編集ソフト、今ではスマホのアプリでも皆さんしれっと使用されている技術です。
画像処理方法は?
このTXiモードは、「構造(Texture)」、「色調(Color)」、「明るさ(Brightness)」の3要素をそれぞれ最適化してします。
処理手順としまして、入力画像をベース画像(明るさ成分)とテクスチャー画像に分解して、それぞれを画像処理技術にて強調します。
その後強調画像は統合されて、色調強調の処理を施すことで、白色光とは微妙な組織の違いを表示して視認性を向上することで、病変観察のサポートをするのです。
しかもリアルタイムでです。
TXiはインジゴやピオクタニンが非常に強調されて相性が良く見えます。
Txi「TXI(構造色彩強調機能)」:https://www.olympus-medical.jp/gastroenterology/system/evisx1
Txi画像処理「内視鏡システム「EVIS X1」の画像技術「TXI」に関する技術論文が、英国の科学雑誌「Journal of Healthcare Engineering」の「Article of the Year 2021」を受賞」:https://www.olympus.co.jp/news/2022/nr02435.html
TXiの各モード
TXiにはTXi1とTXi2の2つの種類が存在します。
TXi1がこれまで説明した3つの要素の強調モードで、基本的にはこちらがデフォルトですね。
TXi1では、白い部分はより白く、炎症などの赤い部分はより赤い色調で強調され、正常粘膜とそれ以外で変化を明瞭にすることができます。
TXi2では、従来の白色光での見え方との変化に違和感が強い場合に、色彩強調を行わないモードとなります。白色光とTXi1の中間の見え方となります。
TXiモード比較:OLYMPUS社X1説明資料より
TXi観察例
TXiの観察例を示します。
本郷メディカルクリニック 鈴木雄久先生の比較画像が非常に分かりやすかったため、使用させていただいております。ありがとうございます。
次の画像達はインジゴ散布後の比較ですが、TXiの方はより病変が強調されて見えますね。
「ITで大きく変わる大腸内視鏡」本郷メディカルクリニック 鈴木雄久先生
「ITで大きく変わる大腸内視鏡」本郷メディカルクリニック 鈴木雄久先生
下の画像はインジゴ散布無しです。
2つ目の病変(IIb型病変)は白色光では、なかなか発見が難しそうです。
「ITで大きく変わる大腸内視鏡」本郷メディカルクリニック 鈴木雄久先生
「ITで大きく変わる大腸内視鏡」本郷メディカルクリニック 鈴木雄久先生
NBIとTXiとの併用を!!
鈴木雄久先生も” 写真だけ、見ると「言われてみるとTXIの方が認識しやすい。でも僅かの差」と感じるでしょうが、この「僅かの差」が、人間の脳での検出には大きな差になります。”と仰られている通り、慣れていない方ほどそう思われるかもしれません。
日々内視鏡画像を見ている人ほど、僅かな違いに敏感になっています。
もちろん、TXiだけではなく、NBIと併用することで、病変発見率が向上します。
拡大検査の介助にずっと入っている内視鏡CEは目が肥えてくるので、「先生、この部分TXiかNBIでどうでしょうか?」などと、ベテランの先生には恐れ多いですが、若手の先生などへは提案しても良いかもしれません。(そもそもベテランほど併用されていますので・・・。)
【「Article of the Year 2021」受賞】
OLYMPUSのニュースに挙がっているのですが、「TXI」に関する技術論文が、科学雑誌「Journal of Healthcare Engineering」の「Article of the Year 2021」を受賞されています。
「Article of the Year 2021」は、2021年に「Journal of Healthcare Engineering」に掲載された研究論文またはレビュー論文の中から、最も刺激的でインパクトがあり、現在または将来の方向性を代表すると考えられる論文を表彰するものとされています。
RDI(Red Dichromatic Imaging)
RDIはあまり使用することは無いかもですが、EVIS X1を導入した当初はよく使用していました。
つい先日も使用されている先生もいらっしゃったのでRDIについても紹介します。
RDIとは
RDIは「赤(Red)」、「琥珀色”アンバー”(Amber)」、「緑(Green)」の狭帯域光を用いて、深部組織のコントラストを形成する画像強調技術(光デジタル技術)です。
深部血管を強調したり、出血点を描写するといった使い方になります。
特に大腸のESDで有用なモードになります。
ESD中の出血は、視野全体が血液で赤くなってしまい出血点特定が困難になったり、止血後も粘膜剥離が困難になったりと、ESDの治療時間が長引いたり、術者のストレスに繋がります。
RDIであらかじめ深部血管が視認できたり、出血点を素早く発見できたりということができれば、出血予防と迅速で容易な止血処理のサポートが可能になり、結果として治療時間の短縮に繋がることでしょう。
【5色目のLED!?】
この世の中に存在する紫、青、緑、赤色LEDに加えて、EVIS X1では新たに開発されたAmber LEDが搭載されています。
従来品の光源より出血や炎症に対して、良好な色再現性とコントラストの描写を実現しています。
そして、この5つ目のAmber LEDがRDIの重要な役割を担っています。
OLYMPUS社RDI説明動画「RDI: The Safeguard for Endoscopic Therapy | EVIS X1 | Gastroenterology | OLYMPUS」
5LED:OLYMPUS社X1説明資料より
狭帯域光の波長は?
RDIで使用される3種類の光の波長、深達度、役割は以下の通りです。
波長:664-640[mm]
深達度:粘膜深部まで(1.0-1.5[mm])
役割:粘膜、深部血管を一定の明るさを確保
波長:595-610[mm]
深達度:粘膜深部まで
役割:深部血管の表示
波長:520-550[mm]
深達度:粘膜表層まで
役割:粘膜表層、表層血管(毛細血管)の表示
RDIの構造と原理
白色光観察では、5つのLEDを使用して、青色帯、緑色、赤色帯の光で白色光を照射しています。
RDIでは、フィルターを使用して、Red、Amber、Greenの3色を照射しています。
RDI時の画像が黄色っぽくなるのは、青色成分がカットされているからです。
RDIは黄色の濃淡で表現されます。
RDIの構造と原理:OLYMPUS社X1説明資料より
【Lambert–Beerの法則】
このRDIのモードは、ヘモグロビンの吸光度と反射率の違いを利用したものです。
パルスオキシメータの原理で散々覚えた「Lambert–Beerの法則」ですね。
特に赤色光とアンバー光の2色がポイントとなります。
RDI原理「OLYMPUS社ニュースリリース」:https://www.olympus.co.jp/news/2020/contents/nr01636/nr01636_00002.pdf
RDIの深部血管視認性向上:OLYMPUS社X1説明資料より
RDIの出血点視認性向上:OLYMPUS社X1説明資料より
深部血管視認
Red、Amber、Green3色の波長の内、RedとAmberは波長が長く、粘膜深部まで到達します。
しかし、RedとAmberではヘモグロビンへの吸光度が異なり、Amberの方がRedよりも吸収が強いです。
そのため、粘膜深部に血管が存在する場合はAmberの反射光が少なくなるため、RedとAmberの吸光度の差によって深部血管が描出されることになります。
上記のRDIの特徴を利用することで、局注したい部分に深部血管が存在していないかどうかを視認して、出血や血腫をきたすことなく安全に局注が可能となります。
局注時の深部血管の視認「Red Dichromatic Imagingを使用した大腸ESDの実際」山下 賢先生, 岡 志先生郎 , 田中 信治先生
また、ESDの粘膜剥離時に血管視認性を向上させた後に、予防的止血で血管を処理することをサポートできます。
剥離時の血管の視認「Red Dichromatic Imagingを使用した大腸ESDの実際」山下 賢先生, 岡 志先生郎 , 田中 信治先生
出血点視認
では、出血時にどのように有用かを説明します。
ESDやEMRなどの出血時は、視野全体が血液で赤くなってしまい出血点の特定が困難となり、止血の処置に時間を要することがしばしばあります。
大出血時に副送水で洗浄したり、underwater下にしたりするも、画面全体が真っ赤になりますね。
AmberはRedと吸光度が異なることは説明しましたが、水で薄まった血液・・・つまり、ヘモグロビン濃度が低い血液では、Amberはほとんど吸収されません。
しかし、出血点からの新鮮血ではヘモグロビン濃度が高いのでAmberは良く吸収されます。
つまり、画面上は真っ赤に見える場面であっても、RDIの画面ではAmberの吸収度の差でコントラストの濃淡を表すことができるのです。
下に出血時の画像比較とRDIの動画を示しますが、出血点から出ている新鮮血は、濃い黄色で表示されます。
RDI出血時比較画像[左:WLI, 右:RDI]:OLYMPUS社X1説明資料より改変
OLYMPUS社「EVIS X1 — Our Most Advanced Endoscopy System」
https://www.olympus-europa.com/medical/en/Products-and-Solutions/Products/Product/EVIS-X1.html
RDIの各モード
RDIにも微妙に波長が異なるモードが存在します。
Green強調とRed強調があります。
モード1は深部血管を濃い黄色、モード2は深部血管を赤色に、モード3は深部血管を緑で描写します。
RDIモード比較:「Red Dichromatic Imagingを使用した大腸ESDの実際」山下 賢先生, 岡 志先生郎 , 田中 信治先生,
OLYMPUS社提供
え、NBIやTXiよりボリューム大きくなった?
さいごに
以上でOLYMPUSの特殊観察モードに関する内容でした。
本当はFUJIFILMの観察モードもまとめて1記事にする予定でしたが、あまりにも解説に熱が入ってしまいました。
特に脇役と思われていたRDIの解説が一番文字数を要する結果となってしまいました。
脇役だからこそ忘れがちで、詳細に知っておくことに損は無いはずです。
次回はFUJIFILMのBLIとLCIについて説明したいと思います。
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