養成校の半数が入学者の確保は「すでに深刻」と答えた臨床工学技士。では、厚生労働省はこの穴をどう埋めようとしているのでしょうか。検討会の議論から見えてくる答えのひとつが、社会人や医療職の「学び直し」で入学者を増やす案です。
この記事では、厚労省自身が集めた調査の数字を使って、この案が現場で回るのかを確かめます。前回の記事の続きです。
編集部この方向性を最初に見たとき、「それで回るの?」と思いました。
いま困っているのは学生が来ないことと、教える人がいないことだからです。
この記事の要点
- 12職種全体でも「10年以上もつ」と答えた養成校は4校に1校しかない
- 社会人の関心は「処遇が他産業並みなら」という前提つきでも約2割。CEは14職種で最低の14.1%
- 養成校の7割超が社会人の受け入れに前向き。でも夜間・土日の開講は2.7%、回答したCE養成校では0%
- 実際に回っているキャリアチェンジは、臨床検査技師⇔臨床工学技士のように科目が重なる組み合わせだけ
- 今いるCEは、続けるために必要なこととして82.9%が「給与・処遇の改善」を挙げた
厚労省が社会人入学に期待する理由
12職種全体でも「10年以上もつ」養成校は4校に1校
前回の記事では、CE養成校で「10年以上継続可能」と答えた学校がゼロだったことを紹介しました。ただ、12職種全体で見ても状況は厳しく、「10年以上いける」と答えたのは1,332校のうち23.5%。4校に1校しかありません。
18歳人口は2040年までに35%減る見込みです。高校を出たばかりの若者だけを相手にしていては、どの職種の養成校も定員を埋められなくなる。AIの発展によりホワイトカラーの雇用は減ることが見込まれる昨今、対人・専門職へのリスキリングという観点からも厚労省が社会人に目を向けるのは、この流れからすると自然です。


検討会で出ている方向性
第4回の検討会では、構成員から次のような意見が出ていました(資料3 p.2)。
第4回検討会で出た主な意見
- キャリアチェンジや学び直しは、異なる経験を持つ人材の参入につながる
- 単位認定や修業年限の短縮、ICTの活用、夜間・休日の開講で、働きながら学べる環境を整える
- オンデマンドや遠隔授業で、通学しにくい人も学べるようにする
つまり「社会人が働きながら、短い期間で、オンラインも使って資格を取れるようにする」という方向です。これを裏付けるために集めたのが、今回の3つの調査(社会人40,520人、医療従事者12,042人、養成校1,332校)でした。
では、その調査の数字は、この方向性を支えているでしょうか。
社会人側の数字:関心はあるが、薄い
資格を検討したことがある人は16.5%、断念の理由は学費と両立
医療資格を持たない社会人に、医療職の資格取得を具体的に考えたことがあるかを聞いた結果です(資料3 p.8)。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 現在検討している | 2.3% |
| 過去に検討したが断念した | 5.5% |
| 過去に検討し、現在は検討していない | 8.8% |
| 検討したことはない | 83.5% |
いま検討している人は2.3%。過去に考えたことがある人を足しても16.5%です。断念した理由の上位は、学費(37.1%)、仕事との両立(33.4%)、年齢への不安(28.1%)でした。



私自身いまだに大学生時代の奨学金の返済が重いです。
医療系の学校は他の学部と違って授業料等が高い傾向にあり、学費の負担は無視できないです。
学費、仕事、年齢。どれも夜間コースやオンライン授業を用意しただけでは消えない壁です。
「処遇が他産業並みなら」という前提で聞いている
この調査でいちばん引っかかったのが、資格取得への関心を聞いた設問です(資料3 p.10)。設問にはこういう前提が付いていました。
医療関係職種の処遇が他産業と同程度であるとした場合の資格取得への関心度


その前提を置いても、「非常に関心がある」は14職種どれも2〜3%台。「やや関心がある」を足しても2割に届きません。CEは14.1%で、14職種のなかで最も低い数字でした。
わざわざ「処遇が他産業と同程度なら」と前提を置いたのは、医療職の処遇が他産業より見劣りすることを、厚労省自身が分かっているからだと私は読んでいます。
しかも、前提を付けない聞き方との比較がありません。実際の処遇のままなら関心はもっと低いはずで、この2割弱は上限に近い数字だと考えたほうがいいでしょう。
看護協会の調査でも、処遇は他産業に遠く及ばない
この「処遇の差」は、医療職の当事者団体も認めています。日本看護協会が2026年10月27日に公表した「看護職員の賃上げに関する緊急調査」では、次の結果が出ていました。
| 賃上げを実施 | 賃上げ率5%以上 | |
|---|---|---|
| 病院 | 68.7% | 13.0% |
| 訪問看護事業所 | 73.2% | 18.4% |
| 民間の大企業 | 93.8% | 41.4% |
| 民間の中小企業 | 82.3% | 42.6% |
看護協会は「賃上げ実施率・賃上げ率ともに、他産業に遠く及ばない状況」とまとめています。看護職員の約8割が自分の賃金に「不満」「やや不満」と答え、不満が強い人ほど看護職として働き続けたいという気持ちも低い傾向でした。
同じ指摘は、検討会の構成員からも出ています。第4回の主な意見には、次のような声が並んでいました(資料4)。
- 意欲と能力のある人材を医療職に呼び込むためには、養成課程の柔軟化だけでなく、処遇改善が不可欠である。
- 医療・介護分野は「仕事の割に賃金・処遇が低い」「休暇が取りにくい」といったイメージがあり(以下略)



医療職のなかで一番大きい看護職でさえこの状態です。
処遇の話を横に置いたまま入口だけ広げても、人は来ないし、来ても残らない。
私はそう考えています。
養成校側の数字:受け入れたいが、体制はない
受け入れに前向きは7割超、でも夜間・土日の開講は2.7%
養成校に、社会人や他の資格を持つ人の受け入れ意向を聞いた結果です(資料3 p.34・p.35)。


12職種全体では、「積極的に受け入れたい」と「条件が整えば受け入れたい」を合わせて72.2%。CE養成校では83.4%とさらに高い数字でした。
ところが、働きながら通える仕組みを持っている学校はほとんどありません。夜間・土日・短時間の開講形態を設けている学校は全体で2.7%、遠隔授業やサテライトは2.5%。回答したCE養成校30校では、どちらも0%でした。
専用コースを「つくるべき」と答えたCE養成校はゼロ
社会人や既資格者向けの専用コースを設けるべきかという問いに、「そう思う」と答えたCE養成校は0%でした(資料3 p.36)。「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の合計は43.3%で、肯定の33.3%を上回っています。
受け入れたいのは、定員を埋めたいから。でも専用のコースをつくる余裕はない。
「前向き」という数字と「体制ゼロ」という数字を並べると、養成校の本音が見えてきます。
CE養成校が挙げた壁は、教員と修業年限
支援や体制を整えていても、社会人が入学して学び続けるうえで壁になっていることを聞いた設問があります(資料3 p.37、最大3つまで)。
| 障壁 | CE(22校) | 12職種全体 |
|---|---|---|
| 修業年限が長く、働きながら通えない | 54.5% | 35.8% |
| 教員数や勤務体制の制約で、柔軟な時間割を組めない | 54.5% | 28.4% |
| 実習先のスケジュールを柔軟に調整できない | 36.4% | 34.1% |
| 既習内容や実務経験を、学習量の軽減に反映できない | 22.7% | 21.7% |
| 特に障壁はない | 4.5% | 21.3% |
CEは修業年限と教員の2つが全体より20ポイント以上高く、「特に障壁はない」はわずか4.5%でした。
CEの臨床実習は、むしろ増える方向にあります。2023年4月の入学生からカリキュラムが改正され、臨床実習は4単位から7単位になりました。現場で実習を受ける期間が長くなるなかで、働きながら学ぶ社会人の時間割をどう組むのか。学校側にも受け入れる病院側にも、その余力は見えません。



自分の母校を見てもCEの免許を持ちながら臨床現場を離れて大学院まで行って講師としての資格を持つ、そんな長大なキャリアパスを持っている人は稀です。
そうして教える人が足りず、期間は長く、実習は増えている。
そこに「社会人が働きながら学べるように」を足すのは、現場から見るとかなり無理のある話です。
実際に回っているキャリアチェンジはどこか
複数の資格を持つ人で目立つのは、臨床検査技師と臨床工学技士だけ
医療従事者向け調査では、いま働いている職種以外の医療資格を持っている人は全体の1.9%にとどまりました(資料3 p.19)。そのなかで、CEは7.4%と最も高い割合です。
中身を見ると、その大半は臨床検査技師との組み合わせでした(資料3 p.20)。
- CEとして働き、臨床検査技師の資格も持つ人
-
72名
- 臨床検査技師として働き、CEの資格も持つ人
-
46名
資料自身も「比較的多くみられたのは臨床検査技師と臨床工学技士の組合せ」と書いています。ほかの組み合わせは、多くても20名ほどでした。
回っているのは、科目が重なり短縮課程がある組み合わせだけ
臨床検査技師とCEの組み合わせが多いのには理由があります。CEには、大学や指定校で決められた科目を修めた人向けに、1〜2年で受験資格が取れる短縮課程があります。臨床検査技師の養成課程とは医学系の科目が大きく重なるので、検査技師の学校を出た人が1年課程に進む道が、2000年代から定着していました。
キャリアチェンジが実際に回っているのは、学ぶ中身が大きく重なり、短縮課程が制度として用意されている組み合わせに限られる。
医療とは別の仕事をしている社会人を一から育てる話とは、条件がまったく違います。
この臨床検査技師⇔CEのルートができた背景は、次の記事でくわしく書きます。
現役CEの本音:他の資格を考える理由は「向上心より不満」
CEは「収入・処遇」の不満が全体より高い
医療従事者向け調査では、他の医療資格を取りたい、または関心がある人にその理由も聞いています(資料3 p.24)。


| 理由 | CE(222人) | 全体(1,728人) |
|---|---|---|
| 専門職として多様な能力・知識を得たい | 59.5% | 71.5% |
| 収入や処遇の向上を期待している | 49.5% | 35.2% |
| 転職・再就職に役立てたい | 38.7% | 33.9% |
| 現在の職種を続けることに不安がある | 33.3% | 23.8% |
全体では「多様な能力を得たい」という前向きな理由が7割を超えます。ところがCEはこれが59.5%と低く、代わりに「収入・処遇」「転職」「いまの職種への不安」が全体より高い。
CEが取りたい資格の1位は看護師
CEが取りたい資格を件数で見ると、最も多いのは看護師の137件でした。臨床検査技師44件、診療放射線技師28件と続きます(資料3 p.22)。
続けるために必要なこと CEの8割超が「処遇」の改善を要望
同じ医療従事者向けの調査では、いまの職種を続けるために必要なことも聞いています(資料2 p.6)。
| 項目 | CE | 全職種 |
|---|---|---|
| 給与・処遇の改善 | 82.9% | 77.6% |
| 夜勤・オンコール等への配慮 | 43.8% | 27.1% |
| 希望に合う勤務時間・勤務日数 | 49.9% | 57.4% |
CEは「給与・処遇の改善」が8割を超え、「夜勤・オンコール等への配慮」は職種別で最も高い数字でした。勤務時間の希望はむしろ全体より低く、時間より給料と夜間の負担のほうが重い、という形です。
資格でキャリアを積み上げても、この状況はあまり変わりません。CEは認定・専門資格を持っている人が59.2%と、看護師に次いで高い職種です。それでも資格を取って「昇進・昇格につながった」は3.3%、「処遇には反映されていない」は71.4%でした(資料2 p.11〜13)。この数字は別の記事でくわしく読みます。
社会人を呼び込む話の裏で、今いるCEはほかの職種へ移ることを考え、続ける条件に処遇を挙げている。入口を広げても、出口がそのままなら人は増えません。
数字と現場から見たまとめ
ここまでの数字をまとめると、社会人入学で数を補う案には、少なくとも3つの穴があります。
処遇が他産業並みという前提でも関心は2割弱。CEは14職種で最低
学費と仕事と年齢の壁。夜間・遠隔の仕組みは、回答したCE養成校ではゼロ
教員の不足と長い修業年限。臨床実習は増える方向
新しく育てるだけでは足りないことは、厚労省も分かっているはずです。資料2の論点には「新規養成のみならず、現に就業している医療関係職種の定着・離職防止の取組」が重要だとある。ところがそこに並ぶ対策は勤務環境の改善、資格取得のインセンティブ、国による病院の認定です。調査で最も多かった「給与・処遇の改善」に応える対策は、論点には出てきません。



臨床工学の現場は年々高度化しています。
それなのに未経験の社会人に門戸を開いて、働きながら学べる環境を整備するという聞こえはいいが現場がついてこない施策を並べ、現に就業している医療関係職種の定着・離職防止の取組みは置き去り西多摩m。
優秀な霞ヶ関の官僚が考えた政策としては何ともお粗末な方針だと個人的に思いました。
この調査を読むときの注意点
- すべて速報値です。確定値で数字が変わる可能性があります
- 医療従事者向け調査は、職能団体の会員だけが対象です
- 資料2の表は、職種別の回答数を足しても全職種の数と合わないなど、集計に乱れがあります。
そのためこの記事では割合だけを使いました - 看護協会の賃上げ調査と民間企業の数字は、調査の主体も方法も違います。並べたのは傾向をつかむためです
よくある質問
- 社会人から臨床工学技士になることはできますか?
-
できます。高校卒業後に3年以上の養成課程を修めるのが基本ですが、大学などで指定の科目を修めていれば、1〜2年の課程で受験資格を得られるルートもあります。夜間課程を置く専門学校も大阪などにありますが、全国でも数えるほどです。今回の調査に回答したCE養成校30校では、夜間・遠隔の課程はありませんでした。
- 短縮課程とは何ですか?
-
大学や医療系の指定校で一定の期間学び、決められた科目を修めた人が、短い期間で国家試験の受験資格を得られる課程です。臨床検査技師の養成課程を出た人が1年課程に進む例が多く見られます。
- オンライン授業だけで国家試験の受験資格は取れますか?
-
現時点では難しいです。検討会ではオンデマンドや遠隔授業の活用が議論されていますが、臨床実習は現場で行う必要があり、CEでは2023年度の入学生から実習の単位が増えています。
まとめ:入口より先に、出口と中身を
- 12職種全体でも「10年以上もつ」養成校は4校に1校。厚労省が社会人に目を向けるのは自然な流れ
- ただし社会人の関心は「処遇が他産業並みなら」の前提でも2割弱。CEは14職種で最低
- 養成校は受け入れに前向きでも、夜間・遠隔の仕組みはほぼない。回答したCE養成校ではゼロ
- 実際に回っているのは、科目が重なる臨床検査技師⇔CEのような組み合わせだけ
- 今いるCEの8割超が、続ける条件に「給与・処遇の改善」を挙げている
- 厚労省も定着が大事だと書くが、論点に並ぶ対策に処遇は入っていない
- 処遇の話を避けて入口だけ広げても、人は来ないし残らない



数字を見るほど、問題は育てる体制と処遇のほうにあると感じました。
次の記事では、数少ない「回っているルート」である臨床検査技師⇔CEのダブルライセンスが、なぜ生まれたのかを追いかけます。
- 次回:臨床検査技師と臨床工学技士のダブルライセンスはなぜ多いのか(近日公開)
- 臨床工学技士の養成校、半数が「すでに深刻」|厚労省調査を現役CEが読む
参考資料
- 厚生労働省「第5回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会:資料」(2026年10月26日)
- 資料1「地域における医療関係職種の養成・確保体制の枠組みについて」
- 資料2「医療機関における業務効率化・勤務環境改善について」
- 資料3「多様な人材が参入しやすい養成課程に係る調査結果について」
- 資料4「第4回でいただいた主なご意見」
- 資料5「議論のたたき台」
- 厚生労働省「臨床工学技士学校養成所カリキュラム等改善検討会報告書」(2021年3月25日)
- 日本看護協会 ニュースリリース「看護職員の賃上げに関する緊急調査」結果(2026年10月27日)
- 東京商工リサーチ「2026年度賃上げに関するアンケート」(2026年8月実施、日本看護協会の資料より引用)










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